チェルノブイリ事故の5年後を記したドキュメンタリー「チェルノブイリ小児病棟~5年目の報告~」を文字に起こしていく。最終回の第5回目は、被曝と奇形の関係。被爆地の病院の報告では、事故後の奇形児の発生率は、4倍以上になっている。にもかかわらず、IAEAは、その因果関係を認めていないと報告を出した。広島大学原医研の佐藤幸男教授の当時の意見を伝えている。チェルノブイリ事故と広島の被曝被害は酷似している。生まれる前の流産死産、生まれた後の奇形、特に水頭症(wikipedia「水頭症」)、成長した後の甲状腺癌、成人してからの白血病、そして、後世に残る遺伝的影響について警鐘を鳴らしている。
このエントリーは、以下のエントリーからの続きです。
白血病で死亡した男児の、妹の染色体も損傷……チェルノブイリ小児病棟~5年目の報告~【動画&文字おこし4】
ドキュメンタリ「チェルノブイリ小児病棟~5年目の報告~」【全動画&全内容文字おこし】
(文字おこし、続き)
【広島大学原医研 小熊信夫助教授】
「この中にあの二人ほど、兄弟が、あの、白血病の方がいらっしゃいまして、特にその二人のお子さんに注目していろいろ調べてみましたら、二人ともですね、染色体異常が安定型の染色体異常というのがあの、認められたわけですね。」
「これは勿論あの、非常に放射能の量としたら1ラド以下で非常に少ない事なんですが、まあこれくらいの子供さんなんで、こういう安定型異常がみられるということはですね、過去におそらく放射能の影響でですね、こういうあのDNAの傷がついたというまあ、証拠にはなると思うんですね。」
【ゴメリ州立病院】
ゴメリ州立病院の産婦人科病棟です。ゴメリ州で一番の近代的な設備を持つこの病院には周辺の町や村からも出産をひかえた女性達が集まっています。
事故の前まではここで年間3000人あまりの新生児が産まれていました。しかし親たちが放射能の影響を恐れて、去年は出産数がおよそ半分に減りました。
新生児の健康状態は注意深く観察されています。
異変は産まれる前の胎児におきていました。妊婦達は出産前に必ず超音波検査を受けます。この日、高濃度汚染地帯の町ベトカから来た女性が検査を受けていました。
「脳に異常がある」
「水頭症だ。」
「脳のまわりの水が多すぎる。」
胎児に異常が見つかりました。頭部に脳脊髄液が溜まる水頭症です。頭部は肥大し、健康な胎児の倍の大きさになっています。放射線は細胞分裂が盛んな胎児の脳に大きな影響を与えると言われています。
この女性はただちに人工流産の処置を受けることになりました。
「これはチェルノブイリ事故の影響だと思います。」
「とても くやしい」
「事故さえなければ健康なこどもが生まれたはずです」
【産婦人科 アナトリー・ワシーリエツ部長】
「産婦人科医として注目しているのは、胎児の先天性異常はたくさんみつかるようになったという事実です。私たちは病院のカルテを調べてみましたが、胎児の先天性異常、つまり奇形児が、チェルノブイリ事故の前にくらべて事故後2倍以上に増えていることがわかりました。妊娠異常と出産異常はあきらかに増えています。」
【奇形児の発生率】
ゴメリ州の3つの病院の奇形児の発生率です。緑が事故の前の5年間、赤が事故の後の5年間のデータです。ゴメリとブラーギンでは4倍、ベトカでは事故の前の10倍に増加しています。特に目立って増えているのが水頭症です。水頭症の胎児は死産が多く、生まれても正常に育つ可能性はほとんどありません。
汚染地帯の病院では、奇形がわかると人工流産を奨めています。
手術は翌日の夜行われました。
彼女は2年前、汚染されていることを知らずにベトカに嫁いできました。政府から新しい住宅をもらって、安全な場所に移住することが彼女の希望でした。
【産婦人科 アナトリー・ワシーリエツ部長】
「長い間この仕事をしてきましたが、こういう手術はうまくいっても、気分の良いものではありません。母親にとって、本当に健康な子供が生まれてくることは喜びです。しかし今回は不幸な結果となりました。」
「医師として実に複雑な心境です。私たちは子供の命を救うことが使命なのに。一方ではその逆のことをしなくてはならないのですから。彼女には将来、健康な子供を産んでいい母親になって欲しい。そう祈っています。」
佐藤教授は産婦人科のアナトリー部長の立ち会いのもと、水頭症の胎児の解剖を(※映像は乱れのため文字お越しできず。)
「それと、左の腎臓に水腫が、小さいのがありました。あのー、まあ、骨が弱いから出産の途中でだいぶ脳の中に出血して、超音波でみた時はあの、透明なクールだったと思いますけれども、」
「あの、血餅っていうか、血のかたまりのような状態。」
「放射線との関係の、どのようにみられますか。」
「この個体自身は広島でも経験する脳水腫で、解剖によってそれがわかるわけじゃけしてないんですけれども、ただ、母親が高汚染地帯からきてますんで、あの、こういう症例がずっと、特に脳水腫が多いという話なので、あの、そう言う症例が積み重なっていくと、原因ははっきりしてくると思うんですけど。」
今年5月チェルノブイリ事故の影響について、一つの報告書が出されました。
国際チェルノブイリ経過調査報告書。IAEA国際原子力機関がソビエト政府の依頼を受けてまとめたものです。英文で1000ページを超えるこの報告書はこう結論づけています。
「放射線被曝に直接起因するとみられる健康障害はなかった。今後大規模な疫学調査をしても、がんや遺伝的影響が放射線によるものかどうか見分けることは困難である。」
この報告書は白ロシア共和国の医師の間に波紋を巻き起こしました。
事故の後、小児病棟でおきている異変、その現実はどう説明できるのか。被爆した放射線量をはじめ、汚染地帯の病気の発生率など、あらゆるデータが不足しています。
広島の医師達は、放射線の影響については長期間にわたる追跡調査が必要だと考えています。
【広島大学原医研 佐藤幸男教授】
「まあ放射線の影響っていうのは、あの、先ほどあらゆる病気を起こすって言いましたけれども、人生のこう、生まれて死ぬまでの流れの中で考えてみますとですね、」
「あの、まずはじめに、妊娠した婦人が被爆すると胎児の流産死産がおこると。」
「で、そういうそのー、障害を乗り越えてきた子供が次に奇形になると。」
「で、それも乗り越えた子供がようやく正常になる。」
「で、生き延びると、たとえばここの例ですと、甲状腺がんというのがあると。あるいは、小児の白血病があると。」
「でー、それをすぎるとまた今度、大人の白血病、で、今の話はチェルノブイリと広島を一緒にした話ですけれども、次は大人の固形がんという肝臓がん、胃がんというのがある。」
「でー、最後には寿命がどうかっていう問題ですね。広島の被爆者の場合は今いろいろ健診制度が高まっているんで寿命が延びているって言うデータもありますけれども、普通そういう障害、放射線の障害があると寿命が縮む可能性がある。」
「で、次はそのー、次の世代への影響で、遺伝的な影響がある。で、広島では遺伝的影響ってのは今んとこ、ま、見つかっていないというか、見つけられていないというか。しかし100%何もないと言うことはけっして断言できない。」
「そういうふうにずーっと見るとですね、これはあのー、単なる一回の検診とかですね、1度の調査、あるいは一部の集団のその検査で、正常だってのはとても言えない。それはもう、ほんっとにこれでもか、これでもかと、いろいろなことを繰り返して、」
「それでもそのー、けっして、あの、全く心配ないことは、とても言い切れるものではない。でー、そのための、非常に多くのですね、ま、努力って言うか積み重ねって言うか、そういうことが必要だと。そういうことを非常に実感しました。」
白血病のユーリアちゃんは、繰り返し投与された抗がん剤の副作用に苦しんでいます。
身体に発疹が出て、高熱が続いています。しかし抗がん剤は当分の間、やめることはできません。
「38度4分です。」
「いつになったらよくなるのでしょう・・・」
「いつこの苦しみが終わるのでしょう・・・」
ユーリアちゃんを抱いて病院に来てから半年が過ぎました。ユーリアちゃんは身体の抵抗力が極端に低下しました。
感染を防ぐため、ユーリアちゃんはこの日、隔離室に移されました。
チェルノブイリ原発事故から5年、小児病棟の子供達は今、消えることのない放射能の脅威を訴えています。
【チェルノブイリ小児病棟~5年目の報告~】
(文字おこし、完)
※このエントリーは有志の方に手伝っていただきました。ありがとうございます。
(続き、など、関連エントリー)
コメント
コメント一覧 (6)
と闇に葬ったからでは?
米は当然報告義務を課していました。
助産婦さんは報告しその後切り刻まれる事を知っていましたから
静かに弔ってあげられる選択をしたと考えます。
差別を産んではいけない
っていう人は困ってる人に何をしてくれるの?
何が起こってからなら人を心配してくれるの?
放射能の影響は何年後に出るか、どれほど影響があるのかは正直断言できない。それに事故の五年後なら、まだ十分な調査も出来ていなかったはず。
実際、広島や長崎では原爆で奇形児がどれほど生まれているか調査がされたが、通常の奇形の発生率とほとんど変わらず、明確な影響は見られなかった。
原爆は人体実験として行われた面もあるので、こういった医学的な調査は当然されている。
テレビだからショッキングな作りにして視聴者の目を引くような内容になるのはある程度仕方ないのかも知れないが、不十分なデータで断言するような危険はするべきではない。
此処でも危機感は強いですが、東京に避難しても・・