「今夏にはパブリッククラウドを開始する」 HPのアポテカーCEOが表明HP DISCOVER 2011 Report

HPのアポテカーCEOは、HP DISCOVER 2011の基調講演において、2011年夏にはパブリッククラウドを開始すると表明した。

» 2011年06月08日 19時12分 公開
[吉村哲樹,ITmedia]

 2011年6月6日から10日にかけて、米国ラスベガスにて米ヒューレット・パッカード(以下、HP)主催のイベント「HP DISCOVER 2011」が開催されている。同イベントでは、一般ユーザーやHPのパートナー企業、プレスに向けて、同社のソリューション戦略や新製品の紹介、さらには同社製品を活用したパートナーソリューションの紹介や各種のハンズアウト・セッションなどが行われた。

 本稿ではその中から、同イベント初日に行われたキーノートセッションの模様を紹介する。

変革の時代に対応するために新設された「HP DISCOVER」

 同セッションではまず米HPの幹部から、同社が現在推進する最新のソリューション戦略について紹介が行われた。

 同社 上級副社長 兼 エンタープライズビジネス部門マネージングディレクターのリック・ゲラフォ氏は、同イベントの意義について次のように語る。

 「これまでHPは長年に渡り、ハードウェアとソフトウェアのカンファレンスを別々に開催してきた。しかし今日、世界は大きく変わりつつあり、パーソナルライフとビジネスライフは1つに集結しつつある。そこで、HPのすべての顧客とパートナーを1つ屋根の下に招き、同じストーリーとビジョンを共有するために、これまで別々に開催してきたカンファレンスを『HP DISCOVER』という新たなカンファレンスに統合した」

 同氏は、HP DISCOVERが掲げる3つの目的を挙げた。1つ目は、今日世界がどのように変化しつつあるかを示すこと。2つ目が、その変化に対して対応する術を提示すること。そして3つ目が、そうした変化に企業が対応していく上で、HPが具体的にどんなサポートを提供できるかを紹介すること。同氏によれば、これらを説明する上で鍵を握るのは、HPが提唱する「Instant On」というビジョン、そして「Transformation」と「Opportunity」という2つのキーワードだという。

ハイブリッド環境を介したクラウドへの移行を全面的に支援

HPのCEO兼社長、レオ・アポテカー氏

 続けて同社 CEO兼社長のレオ・アポテカー氏が登壇し、Instant Onというビジョン、そしてそれを基に同社が掲げる「Instant On Enterprise」という新たな戦略の背景について説明した。

 「テクノロジーの進化により、あらゆる人々があらゆる情報とつながるようになった。人々は、これまでとはまったく異なるやり方で情報にアクセスすることを望んでいる。従って、企業と顧客の間のコミュニケーションも、テクノロジーによる大きな変革を迎えようとしている。さらには、企業内での情報の流通や活用も、テクノロジーにより大きく変わろうとしている」

 このように、テクノロジーの進化によりあらゆるものが縦横無尽に接続された世界で、情報セキュリティをどのように担保すればいいのか。あるいは、増え続ける大量のデータから、いかにしてビジネスに役立つ知見を引き出せばいいのか。これら新たな課題に企業が対処するためには、旧来のITに対する考え方を変革(Transformation)し、そして新たな機会(Opportunity)をとらえるべきだと同氏は説く。

HPの考えるクラウドスタック(クリックで拡大)

 その鍵を握るのが、クラウドコンピューティングだ。クラウドが実現する未来の企業コンピューティングは、運用の簡易性、コスト効率、柔軟性、俊敏性、スケーラビリティ、パフォーマンス、これらすべてを大幅に向上させるという。しかし、長年ITを活用してきた企業では、一気にすべての仕組みをクラウドに移行するのは現実的ではない。

 「そこでHPでは、パブリッククラウドとプライベートクラウド、そして従来のオンプレミス型システムの混在環境を一元的に管理する『Hybrid Delivery』というソリューションを通じて、企業ITの変革を支援する。これは、HPにしか提供できない包括的なソリューションだ」(アポテカー氏)

 HPでは、企業が自社のITシステムをクラウド化する上で必要となる技術を、すべての領域に渡って提供するほか、今夏にはパブリッククラウドサービスの提供も始める予定だという。さらには、混在環境を一元的に管理できる新たなソフトウェア製品も提供開始する。こうして、すべての面に渡って企業ITのクラウドへの進化を全面的に支援するのが、HPのクラウド戦略なのだという。

HP Executive Scorecardの画面(クリックで拡大)

 こうした先進的なクラウドサービスの例として、HPのパートナー企業である大手電気通信事業者、米Verizon Communicationsの事例の紹介が行われた。同社では数年前から、「Everything as a Service」というテーマを掲げてサービスプロバイダービジネスを展開しているが、HPはそれを支えるクラウド基盤の構築を強力に支援してきたという。

 「Verizon Communicationsの事例で実証されるように、クラウドによる企業ITの変革は、顧客へ新たな価値を提供することを通じて、企業のビジネスモデルそのものの変革をもたらす」(アポテカー氏)

 また同氏は、クラウドとオンプレミスのハイブリッド環境を効果的に運用するためには、ビジネスプロセスそのものを効率的に管理する必要があるする。そしてそれを実現するための同社の新製品「HP Executive Scorecard」の紹介とデモが行われた。同製品は、企業におけるIT投資とその効果を測定するための50以上のKPIを用意しており、それらを可視化することで、複雑なハイブリッド環境の効率的な運用を可能にするという。

パートナー企業との密接な協業を通じたクラウドソリューション

 同セッションの後半では、HPの各主要パートナー企業のキーマンから、HPとの協業の成果と今後のビジネス戦略について紹介が行われた。

 米インテル 副社長 兼 データセンター部門ゼネラルマネジャーのカーク・スコーゲン氏は、これまでインテルがHPとともに、企業コンピューティングの世界にオープン化の変革をもたらしてきたことを紹介した後、今後来るべきクラウドコンピューティングの世界においても再び変革の中心になることを強調した。

 「現在インテルでは、『Cloud 2015 Vision』というビジョンの下にクラウドソリューションに必要な技術の提供を行っており、近い将来には再び企業ITに劇的な変革をもたらすことだろう」(スコーゲン氏)

 独SAP 共同CEOのビル・マクダーモット氏は、これまで20年以上に渡って築いてきたHPとのパートナーシップの強みを強調した上で、今後は「モバイル」「ビッグ・データ」「クラウド」というITの3つの大きな潮流に対して、強力なソリューションを提供していくと語る。

 「これらの潮流にいち早く対応し、大量の顧客データを高速に分析してビジネスを加速するためのソリューションとして、SAPでは『SAP HANA』というインメモリ・データベースエンジンを使った分析アプライアンス製品を用意している。そして、そのための強力なハードウェアプラットフォームとして、HPの製品が活用されている」(マクダーモット氏)

 さらに米マイクロソフト COOのケビン・ターナー氏は、これまでHPのPC製品とWindows OSとの組み合わせが企業ITのクライアント市場を席巻してきたこと、そしてHPのサーバ製品とExchange Server、SQL Serverとの組み合わせがサーバ市場をリードしてきたことを紹介した上で、今後の展開について次のように述べた。

 「HPのハードウェア製品とマイクロソフトのソフトウェア製品を組み合わせたDWHアプライアンス製品がリリースされ、ビッグデータに対するソリューションが提供できるようになった。そして今後は、来るべきクラウド時代に向け、HPとマイクロソフトの技術の組み合わせで、パブリッククラウドとプライベートクラウドが混在したハイブリッド環境のサポートを強化していく予定だ」(ターナー氏)

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