「脱原発を叫ぶ前に――」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(1)

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堀義人氏

 原子力から自然エネルギーへのシフトを訴えるソフトバンク社長の孫正義氏は2011年8月5日、ビジネススクールなどを展開するグロービス代表で「電力安定供給論者」の堀義人氏と、日本のエネルギー政策について公開討論を行った。

 孫氏を「『政商』の様に振る舞い、自分が都合が良い方向、日本にとってマイナスな方向に導いている」と批判した堀義人氏。これを受け、「堀義人さんは、結局の所、原発推進論者ですか。一度、トコトン議論しますか?」と応戦した孫氏。2人の今回討論会は時間無制限の「トコトン議論」となった。

 しかし最初の1時間はルールが設けられ、まず堀氏が20分間のプレゼン、それに対し孫氏が10分間の意見・反論を行う。次に孫氏が20分プレゼンし、それに対し堀氏が10分間の意見・反論を行うというもの。まずは「ボコボコにされても構わない」という堀氏が、脱原発を叫ぶ前に「実現性・代替の可能性」を探るべきだと訴える。

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http://live.nicovideo.jp/watch/lv58739430?po=news&ref=news#01:00

 以下、孫氏と堀氏のやりとりを全文、書き起こして紹介する。

■ボコボコにされても構わない

堀義人: 皆さん、こんばんは。ようこそトコトン議論へ。僕は今日、朝からソワソワしていまして、ワクワクした気持ちで参りました。日本を代表する企業家である孫さんと「トコトン」まで議論できるということで、今日はありがとうございます。(2人握手を交わす)本当に僕みたいな若輩者に時間を下さいまして、ありがとうございます。

 僕はマスコミには基本的には出ない方針で来ました。テレビは避けて、動画も控えて、経済誌以外のマスコミは断ってきました。敵も作らずに、政治的な発言も控えて参りました。そして教育と産業育成に専念して参りました。ところが3月11日の大震災を経て、私が被災地に行って、ものすごく強い衝動が中から湧き上がってくるのを感じました。津波に流された街、そこに立ち止まって、日本を何とかしなければならない、自分の考えていることをもっと多くの人に伝えよう、何とかしようという気持ちが、ものすごい気持ちが湧き上がってきました。

 一方、政府はその間、無策でした。思いつきの「脱原発依存」発言、そして一向に進まない復興再生計画、政治の迷走、それを見て憤りを感じました。孫さんは、菅(直人)首相に「10年続けてほしい」ということで持ち上げられました。孫さんは、「ソフトバンクの本業として脱原発を行う。原子力の危険性を訴えることが本業だ」と仰いました。それで、メガソーラーに入っていきました。メガソーラーに入っていくことは私は大賛成です。孫さん、ぜひとも続けて頂きたいと思っていますが、企業家としてぜひとも自由競争のもと、市場原理にのっとった形でやって頂きたいと、それを訴えたいのが今回の一つ目の目的です。

 二つ目の目的は何かと言うと、原子力の危険性を訴える「脱原発」ではなくて、「脱原発」か「原発推進」という二元論でもない。エネルギー政策というのは、将来を見越して、安全保障、命、あるいは環境への影響、そして実現性、安定性、経済性を考えて、地球次元で100年先を見据えたものだという風に考えています。したがって、エネルギー政策をじっくりと議論したいということが、私が来た目的の二つ目です。

 この二つを訴えたいということで、今日は参りまして、基本的にはすべてマスコミにオープンです。私は、恐らく相当な批判を受けることになると思います。ボコボコにされても構わない、それよりも自分が正しいと信じることを訴え続けようという気持ちで参りました。

■「100年先を見据えたエネルギー政策を」

資料1

 3月11日の大震災の3日後に、仲間と一緒に3月14日に「(Project)KIBOW」を立ち上げました。「HOPE」の希望と「RAINBOW」虹の架け橋です。「希望の架け橋」になろうという思いで「KIBOW」(きぼう)と名付けました。目的は三つ。「KIBOW」を現地、被災地とともに分かち合って復興再生を遂げよう、これが一つ目です。二つ目が、日本の現状を「Twitter」「メール」「Facebook」を使って、架け橋として世界に発信をしていこうと。私自身も世界を駆けずり回って、南米、アメリカ、アジアを行ってきました。三つ目が教育です。これから東北、茨城を含めた被災地に対して、教育を施そうということで、水戸、仙台、いわき、盛岡を含めた教育を行うということで「KIBOW」を立ち上げました。

 その一環で、私は被災地を回りました。6カ所で「KIBOW」の会合を行いまして、水戸、いわき、仙台、盛岡、八戸、福島。福島は一昨日行ってきました。その時に、海岸沿いのすべての被災地を回りました。大熊町と双葉町以外はすべて回りました。いわきから八戸までずっと見て回りました。一方では、原発関係の飯舘村、南相馬、あるいは遠野も行ってきました。NPOの中継地点です。私が見た光景の中で一番強烈な感慨を持ったものが、富岡町の光景でした。これが富岡町の私が見た姿です(※資料1)。後ろに見えるのが、福島第二原発、この後ろ側にあるのが福島第一原発、左側が太平洋です。20キロ圏内ですので人はいません。そこへ私は防護服も着ずに行ってきました。たまたま私の兄がIAEA(国際原子力機関)の研究員として福島の土壌を調査していまして、彼から「大丈夫だから、行っていいよ」と言われて、私は中に行って来ました。常磐線には瓦礫が積み上がっていて、歩くとぬかるんです。そして、手を合わせながらその家を回って思ったことは、「二度とこういうことはしてはいけない。二度とこういうことを起こしてはいけない」と強い気持ちを持ちました。

 「二度とこういうことはしてはいけない」と、私自身もそういう気持ちでいた時に、夜に「KIBOW」のいわきのリーダーが集まる会合に参加しました。その会合でさまざまな意見が出ましたが、「過去に原発に反対であった訳ではない」「今後は原発とどうやって共存するかを前向きに考える必要がある」という声があったり「反原発などがバブリーな状態になっている。何が正しいかをしっかりと見極めたい」という声を聞いて、私はすごい勇気をもらいました。この写真が「KIBOW」いわきの最後に撮った写真で、日経新聞の夕刊の「こころの玉手箱」の最後の写真に使われたもので、私が大事にしている写真です。この会合に参加して、勇気とエネルギーをもらいました。

 いわきを訪問して思ったことは「二度と起こしてはいけない」と。地震がある度に耐震設計技術が上がっていった。飛行機事故の度に飛行機の安全性が高まった、原発の安全性を高めなければならない。一方では、厳しい現実を直視した上で、反原発を叫ぶのではなくて、冷静に日本のエネルギー政策を立ち戻って論じたいという気持ちでおります。今日は「100年先を見据えたエネルギー政策を、子供たちの未来のために」というテーマで話をしたいと思います。

■「脱化石燃料」を考えなければいけない

資料2

堀義人: その(「100年先を見据えたエネルギー政策を、子供たちの未来のために」というテーマを実現させる)ために四つの視点があります。一つが「安全保障」「環境・命への影響」「実現性・安定性・経済性」そして「未来」です。安全保障に関しては、「エネルギー安保」「食料安保」という言葉がありますが、エネルギーの自給率は4%しか日本はありません。これは先進国で一番低いです。原子力を含めても19%です。原子力の場合には、今あるウランと使用済み核燃料を使って再処理を行い、高速増殖炉ができれば2000年、3000年のエネルギーができます。従って自給率に含まれることが多くあります。

 食料に関して言うと、40%しかありません。これも一番低いです。従って休耕地とか耕作放棄地というものは、自由化して農業ベンチャーをどんどん参入させて、食料自給率を高めていく必要性があります。私はエネルギー自給率も、そして食料自給率も100%になれるという風に考えています。

 73年からのオイルショックの後に、これ(※資料2)は電力の構成図ですが、オイルから分散しました。安全保障のキーワードは「多様化」です。「原子力・石油・石炭・LNG(液化天然ガス)」と分散できましたが、石炭もLNGも石油も化石燃料です。従ってCO2を生むし、全部輸入です。輸入に頼っている状況の中で、この部分をどんどん、「脱化石燃料」ということを考えなければなりません。将来的には枯渇していきます。そう考えた場合、何が残るか。それは原子力と再生可能エネルギーになります。

 そして、「環境・命への影響」に関して言いますと、CO2です。排出に関しては原子力は全く発電段階では(CO2を)生みません。再生可能エネルギーの場合には、雨とか風の影響によってバックアップ火力によってCO2が増えていきます。環境に関しては、原子力が一番優しく、国連の事務総長(潘基文)もクリーンエネルギーとして原子力を推進すべきだというポジションに立っています。

 一方で「命」に関してどうかというと、テラワットアワー当たりの死亡率ということです。石炭は原子力の250倍、多くの人たちの命を奪っています。石油あるいはガスも同様に多くの人たち、数十倍か数百倍の命を奪っています。水力(発電)も同様です。これは例えば肺炎になったりあるいは採掘段階とか、あるいはメキシコ湾事故(メキシコ湾原油流出事故)とかによって死亡者が出たりとか、水力(発電)の場合には建設段階とかダムの決壊によって生まれてきます。原子力は、テラワットアワー当たり一番少ない命しか奪われていないと。「健康・命への優しさ」という観点も重要になってくると思います。

■脱原発を叫ぶ前に「実現性・代替の可能性」

資料3

 三番目が「実現性面積」です。今まで私は、再生可能エネルギーと原子力だということを言っていましたが、今度は「実現性」に関してどうかというと、原子力(発電所)1基(分の電力)をつくるのに太陽光(発電)は山手線と同じ大きさの面積が必要になります。山の手線です。1基のために200倍です。風力はその3.4倍。山の手線の3.4倍の面積が必要となります。「面積を使えば良いのではないか」という議論もあると思います。ただし、今度は「安定性」が重要になってきます。雨が降ったらどうなるのか、これは(※資料3)グラフですが、「晴れた場合のグラフ」そして「雨の場合」は、一番下です。雨が降ったら新幹線が止まるということでは困るわけです。風が止んだらどうするのかと。風が止んだら工場が止まるということでは困ります。そのために蓄電ということもあるでしょうが、コストが合うかどうかということが重要になります。

 ベースロードということを整理したいと思いますが、原子力発電とか水力というのは夜間を含めてずっと一定の電力を発電します。もし、この部分の原子力がなかった場合には化石燃料で代替するしかありません。その部分をピークに合わせて火力を燃やしています。当然ピークカットという概念もありますが、ただし需要に応じてこれが増えていくことは変わりないです。その時にCO2が増えると、一方ではその燃料コストが上がっていくと。再生可能エネルギーはベースロードにはなり得ないのです。なぜかというと安定性が足りない。その中で、今どうしているかというと、夜間の安い電力を使って電気自動車を走らせるということを行なって、新しいイノベーションをつくっていく。そのうち、自動車も含めてガソリンが使えない可能性が出てきます。そのために電気自動車が必要になり、電力が必要になります。

 ドイツのことをよく聞きますが、ドイツは太陽光(発電)の累積投資として7兆円。全体の2%。原発の20倍以上のお金を掛けて、やっと原発1基分強です。家庭用30円、今最も高い家庭用の電力料金はドイツになっています。あとイタリアが高いのですが。3倍高いのです。日本の場合には、産業用と家庭用を変えるのは政治的にできないのでしょうから、産業用が影響を受けます。日本で脱原発を行うと、太陽光で考えた場合に、千葉県に相当する面積と、80兆円もの費用が必要になります。そればかりではなくて、年間3.4兆円ものバックアップ火力が必要になります。CO2を燃やして電力が必要になります。経済性を考えなければならないし、安定性そして実現性を考えなければなりません。脱原発を叫ぶ前に、「実現性・代替の可能性」を考えたいという風に思います。

■なぜ性急な脱原発が問題なのか

堀義人氏

堀義人: 今度は「未来」を考えますが、将来どうなるのか。2050年には92億人、人口が増えると。その時に何か残っているか。今後、化石燃料はいつか枯渇していきます。ウランも枯渇します。ただしウランの場合には、先ほど申し上げたような再処理ができて、今は使用済み核燃料がエネルギーとして燃やすことができます。さらにはトリウムというものがあります。そう考えた場合、数千年のエネルギーを生み出すことができます。そうすると将来的には化石燃料が枯渇した後は、再生エネルギーと原子力しか残らないのです。その時のベースロードをどう考えるのか。

 その一方で、時間がないので飛ばしますが、なぜ性急な脱原発が問題なのかということを申し上げます。電力料金が今急上昇している、これから急上昇していきます。短期的には年間3兆円の燃料費の増加になります。今はもう既に、脱原発によって燃料費が年間3兆円増えていく。3兆円の内、2兆円が企業のコストに直結していきます。長期的には、脱原発太陽光10%となると最大70%電力料金が上がってきます。電力料金が上がると何が起こるかというと、産業の空洞化が起こります。特に製造業が影響を受けます。製造業は裾野が広くて、しかも地方、地域にあります。私も被災地を回ったのですが、非常に多くの雇用を作っています。その製造業の周りにサービス業ができてきてコミュニティが出来上がっています。電力料金が上がって空洞化が起こると、そのコミュニティが崩壊していきます。衰退していきます。既にそういう現象がありますが、電力料金の影響がこれから大きくなる。なぜならば、経営者の中でアンケートをとると空洞化の一番大きな原因、なぜ外部に出すかというとそれは電力だと、「総合エネルギー対策」だという表現を使っています。

 さらに貿易赤字が定着をする。今は既に貿易赤字になっている。ずっと日本は貿易によって食べてきたわけです。貿易赤字になり、さらに怖い事に経常(利益)まで赤字になってしまう。これは2017年以降ですね。そうなると僕らはどうやって食べていくか。企業は海外に行って生き残るかもしれませんが、残された人々はどうなっていくのか。さらに財政赤字をどうやって返済するのか。少子化になっている、今生まれてくる子どもたちは、1人当たり1億円の借金を返さなければならない。1億円――私は5人(子どもが)いるのですが、5億円の借金を抱えているわけです。そういう現状を考えた場合に、経済を強くしていくことはすごく重要になってきます。

■一番恐れているのは財政破綻

 そして失業者の増加が出てきます。今後は失業率5%、さらに10%くらいになっていくのではないかと私は想像していますが、そういった経済への影響が大きいです。私はよく、「経済か命か」とツイッターで批判を受けるのですが、経済が成り立たなければ、お父さんお母さんの仕事が失われてしまうわけです。そういった経済というものをきちんと回していかなければ、子どもたちに借金を残していってしまうことになります。従って、政権の脱原発は電力料金が最大70%上昇して、産業の空洞化を招きます。貿易赤字の定着、そして雇用の喪失、財政破綻です。私が一番恐れているのは財政破綻です。これが高まってくると。そうすると、日本人が貧乏になって、子ども世代に借金を押し付けることになる。それをしてはいけません。子どもたちのためにも、未来のためにも、しっかりとしたエネルギー政策が必要になってきます。

 「結論」――。原発事故の猛省をしながら、悲しみと苦しみを乗り越えて、冷静に現実を直視して、どういうエネルギー政策が良いかを考えなければならない。再生エネルギーは大賛成である。孫さんは素晴らしいと思います。そういった「メガソーラー」(大規模な太陽光発電)を始められると。ただし、先進的な事例を鑑みて、問題点、安定性をどうするのか。実現性はどうなのか、面積を多く使う、あるいは経済性はどうか、コストがどうなっていくのか。高ければいくらでもできます。その結果として、産業を壊してしまって雇用を失ってしまったら、私たちは、未来の子どもたちに見せる姿がありません。日本の競争力が落ちていくということがあり得ます。しかも、原発の代替となるようなベースロードに成り得ない。これは、蓄電池を入れることによってできますが、風が止むとかあるいは雨が降るとかによって、影響を受けます。

 脱原発は、空洞化、雇用の喪失、貿易赤字、そして財政破綻の可能性を高めます。ぜひ、脱原発の前に「実現性・代替可能性」を確認したいという風に思っています。ぜひともそうありたいと思っています。私は飯舘村の子どもたちにも一昨日会ってきましたが、それが僕らの子どもたちに対してやるべきことであって、今日の孫さんとの「トコトン議論」は、そういう形で「未来のために、どうあるべきか」を語っていきたいという風に思っています。僕からは以上です。どうもご清聴をありがとうございました。

■孫正義氏からの意見・反論

孫正義

孫正義: 立派なプレゼンだと思いますし、それなりのポイントを突いておられる。僕は堀さんと「トコトン議論」したいというのは、別に堀さんを言い負かしたいとか、堀さんとだけ議論をすれば、それで終わりということではない。原発について、いろんな擁護する方がおられるが、堂々と名を名乗って、討論の場に出てくる人はなかなかいない。堀さんであれば「トコトン」真正面から議論をできるのではないかということで、それは私の堀さんに対する高い評価だという風に、ぜひご理解いただきたい。今日はその上で「トコトン議論」したいと思います。

 堀さんが、最後に結論として「原発の事故については猛省をして、悲しみと苦しみを乗り越えて」という風に仰いましたけども、今のプレゼンを聞いていて、猛省していないのではないかと。猛省しているのであれば、その悲しみと苦しみを乗り越えてと・・・悲しみと苦しみもまだ乗り越えていない。それは、実際に直接的な被害を受けていない方だから、「悲しみと苦しみを乗り越えて」と言えるのではないか。

 現に今でも福島で、農家で牛を飼っていて、あるいは農作物を抱えている、幼い子どもを抱えた母親とか、全然まだ悲しみも苦しみも乗り越えていない。悲しみの真っ最中で、その方々の問題が何も乗り越えていないにもかかわらず、われわれは東京にいて、あるいはそのほかのところにいて、のうのうとしている我々が、悲しみと苦しみを乗り越えてとか言える立場ではない。それは経団連(日本経済団体連合会)の立派な方々にも、同じことを僕は申し上げたい。

 猛省をしてということは、つまり原発におけるいろいろな問題点を、すべて解決したなら「猛省をしました」と(言える)。猛省をしてかくかくしかじかの解決をしました、瓦礫を全部、高放射性物質をどんどん巻き散らかしている、放射線を巻き散らかしているという状況を解決した状態であれば「猛省をした」という風に僕は言えると思うんですけど、まだその状況ではないのではないか。

■被災地の方々の気持ちを本当に理解しているのか?

 いま堀さんは福島に乗り込むに当たって、IAEA(国際原子力機関)に勤めておられる専門家であるご自身のお兄さんに「大丈夫だ」と確認してから行かれたと仰いました。自分の信頼できる家族に、そういう専門家を持っておられる堀さんは、まだラッキーだ。普通の人は、そんな立派な専門家を家族に持っていないわけです。私が行く前に、「大丈夫かな」とそんなに本音で聞ける相手を家族に持っていない。なぜ堀さんが、家族の信頼するお兄さんに大丈夫かどうかを確認したかと言うと、それは心のどこかに「大丈夫かな」という心配が、いささかあったから確認したのではないか。その、いささかの心配を思い切り振り払って、自分の身近なお兄さんが言うから「大丈夫だろう」ということで、振り払って行ったのではないか。そういうことができる家族を持っている人というのは限られますよ。

 ましてや、いま福島にまだ今現在住んでおられる2歳3歳のお子さんを持った母親とかは、その心配から夜も昼も抜けられないという状況を、毎日過ごしている。でも自分の旦那さんが、家族が福島で仕事をしていて、自分の先祖代々の土地がそこにあって、なかなか逃げ出したくても逃げ出せないという状況の中で、毎日苦しんで嘆き悲しんでおられる方々の気持ちを本当に理解しているのか。

 再生可能エネルギーをやると(電力料金が)高くなりますと。本当ですか? あとで僕のプレゼンに出てきますが、10年間で経産省(経済産業省)の試算によると、200円くらい高くなる。10年後に一家庭当たりの平均コストで200円くらい上がる。200円分とは、コーヒー1杯の値段ですよ。1カ月にコーヒー1杯分の値段を各家庭が我慢してでも、自分の子どもたちとか、家族だとかいろんな人々の幸せ、安全を願うというのが大人の優しさではないかという風に、僕は本当に心底思うのです。それから、産業界がもうこの日本ではやっていけないと。70%コストが上がると。その70%上がるというコストは、どういう試算をしたのか。それについては、ぜひ詳しくその内容をお聞きしたい。

 コストが上がるということについては、一体どのくらいの期間上がるのか。本当にそもそも原発の正確なコストはいくらなのだろう、ということについても僕はいろいろな疑問がある。その辺についても今からちょっと触れさせていただきます。今日は「トコトン議論」ということで、皆さん終電の時間があったら帰らないといけないと思いますが、僕は納得するまで今日はいる。

■「政商」と言われているが・・・

 そういうことで、やっぱりこれは、本当に嘆き悲しみ苦しんでいる人たちのために、僕は堀さんとの議論というより、本当は経団連のお偉いさん方と「トコトン」やりたい。でも、そんなに長時間あの方々が本音で議論できるのかどうか分かりません。堀さんは、そういう意味で、単なる感情論ではなくて、立派に理屈も分かっておられて、今日は理論的議論ができるということで来ております。

 あともう一つは、年間で3兆円燃料費が上がると。それについても何がどの様に3兆円上がるのか、その辺の試算についても、もしご存じであれば詳しくお聞きしたい。それから、冒頭で「脱原発」がソフトバンクの本業だと、最近はそれを本業にしておられるというコメントがありましたが、僕はそんなことを言った覚えはない。僕は、ソフトバンクの本業はあくまでも「情報革命」だと。今、1日のうちの時間のかなりを、実はこの自然エネルギーあるいは原発議論のところに取られています。堀さんからは「政商」だとか言われていますが・・・。

 現にわが社は、1年間で6千数百億円の営業利益を現在出しています。年間数百億円増益しています。売り上げが3兆円を超えています。上場会社の僕が、最近は1日の半分以上くらい(を自然エネルギーあるいは原発議論の時間に)使いすぎて、役員にも社員にも怒られています。株主からも僕が「原発だ、自然エネルギーだ」と言う度に株価が下がると(言われている)。上場会社の社長で、利益を上げる責任を持っている立場の僕が、(1日の)半分を使うということは、いま6千数百億の利益を上げている仕事をほっぽらかして、かたやそれに見合うだけの利益を、この自然エネルギーで稼いで初めて、株主の立場から見合う仕事をしたと言われる訳です。でも当然、この自然エネルギーがそんな利益を稼げる訳ではないし、稼ごうとも思っていません。ですから、本当に純粋にお金をもっと儲けたくて、お金が大好きで、お金が人生の一番最も大切なことだと思っているのであれば、本業だけに専念する。その方が上場会社の社長として、立派に自分の責務を忠実に果たしていることになる。この事故が起きてから、そのことで僕はすごく悩んだのです。「本当に僕が、上場会社の社長として、本業以外の事にこんなに必死になっていいのだろうか」ということを悩んだ。ですから、銭金のことのために、この自然エネルギーだ、脱原発だみたいな話をしているということで、本当にそういう風に批判を受けるのはどうかなという風に僕は思います。

「”脱原発”ではなく”原発ミニマム”論者」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(2)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw97043

(協力・書き起こし.com

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送] 堀義人氏のプレゼンから視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv58739430?po=news&ref=news#01:00
・堀義人氏プレゼン資料(PDF)
http://globis.jp/files/file1002.pdf

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