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自然エネルギー政策―風・光・熱 大きく育てよう〈社説特集〉

2011年7月13日21時45分

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 電力の余裕をふやす最も有力な手段は「あらゆる分野の省エネ」だ。次に大きいのが自然エネルギーの開発だ。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今年、2050年までに最大で世界のエネルギー需要の77%を自然エネルギーでまかなえるとの見通しを発表した。資源は豊富で未開拓である。

 まだ遠いと思っていた自然エネルギーが主役になる時代が近づいている。

 温暖化が国際問題になった1990年と2010年を比較すれば、世界の風力発電は100倍以上になった。原発の総設備量(3.7億キロワット)に対し、風力は同1.9億キロワットに迫り、毎年4千万キロワットずつ伸びている。世界全体で電気の2.5%を、欧州連合(EU)に限れば5%を発電している。

 ドイツが今年、脱原発を決めた背景には、この10年間で自然エネルギーによる発電を4%から17%に急増させたことがある。主力は風力だ。風力は実用的な電源になった。

 太陽光発電の世界の導入量は4千万キロワット近い。風力より少ないが急伸し、昨年の増加は原発15基分にあたる1500万キロワットを超えた。最近は、熱を集めて発電機をまわす太陽熱発電もある。

 パネルを使う太陽光発電は日本のお家芸だ。世界にさきがけ、官民をあげた協力で技術開発した。導入量でも、太陽電池パネルの生産量でも、数年前まで世界の首位を走っていた。いま、導入量はドイツ、スペインにつぐ3位だ。

 ただ自然エネルギー全体でみると、日本は世界の潮流から大きく遅れている。

 風力、太陽光、バイオマス(木質燃料など)、小型水力、地熱による発電を合わせても1%しかない。ダムなどの大型水力が8%あり、合計して9%になる。

 「1%」が示す今の実力を直視しなければならない。「原子力の分を代替する力はない」ともいわれる。

 もちろん、すぐにはできない。1%は極めて小さな数字だが、それは自然エネルギー資源がないことを示すのではなく、これまで有効な支援政策がとられてこなかったことを示している。

 日本の政府も電力業界も、自然エネルギーについて、「頼りにならない」「変動する使いにくい電源だ」として、まともには育ててこなかった。安く大量の電気を供給する原子力さえあれば安心だという考えが背景にあった。

 資源エネルギー庁が04年に試算した1キロワット時あたりの発電コストは、一般水力11.9円、石油火力10.7円、液化天然ガス(LNG)火力6.2円、石炭火力5.7円で、原子力を一番安い5.3円としている。

 ただこの計算には、原発1基につき運転開始までの10年間で地元自治体に400億円以上支払う交付金などは入っていない。もちろん数兆円に及ぶ事故処理費用も入っていない。

 政策を変えよう。昨年できたエネルギー基本計画では、「自然エネルギーは20年までに1次エネルギーの10%」にする一方、原発は9基増やすとした。もう原発を増やすことはできない。原発依存を減らし、自然エネルギーを増やす方向にかじを切らなければならない。

 日本でも最有力なのは風力だ。環境省の試算によれば、国内では控えめに見積もっても原発7〜40基分の電力量をつくる資源量がある。しかし、使える風力が北海道や東北、九州に偏在していることや、電力会社が送電線への受け入れを渋ってきたため、導入量は極めて少ない。

 風力資源に恵まれる東北電力と、電力需要の多い東京電力が送電網を一体で運用すれば東北は大風力発電地帯になる。電力を全国融通しやすいように送電網を強化し、広域運用すれば、風力の導入量は格段に伸びるだろう。

 一方、国内の太陽光発電の導入量は現在、360万キロワットだ。国民にしっかり支持されている。継続的な支援策があればさらにぐんと伸びる。ただ、屋根という狭い場所にこだわる必要はない。休耕田に小規模な発電事業、荒れ地に大規模なメガソーラー発電所を造ろう。

 日本は火山の国である。世界有数の地熱発電の資源があるものの、少ししか利用されていない。国土の3分の2を山が覆う森の国でもある。バイオマスを、熱や発電にもっと使おう。

 英国スコットランドなどで潮流や波力による発電も研究されている。「グリーンエネルギーの次はブルー(海洋)エネルギーだ」といわれる。多くの発電資源が待っている。これを掘り出す十分な技術力を日本はもっている。

 自然エネルギーに投資すればビジネスがなりたつ社会にしたい。まずは、自然エネルギーで発電した電気を、電力会社に固定価格で全量を買い取らせる制度が推進力になる。

 かつては、原子力もゼロからのスタートだった。国が時間とお金をかけ、5年ごとに「原子力長期計画」を改定しながら進めた。あの熱意と計画性で、自然エネルギーを育てる時代がきた。電力会社も未来への大きな可能性に早く目を向けてもらいたい。

 自然エネルギーは世界の市場が急拡大している分野だ。国内市場を広げて技術を育て、日本の輸出産業に育てたい。

 身近な小型水力や太陽光発電が典型だが、自然エネルギーは分散型で、小規模でも個人でも実践できるのが強みだ。草の根で増やしたい。

 原子力を減らせば、二酸化炭素の削減が難しくなるという主張もある。確かに短期的には火力への依存、自然エネルギーの増加の速さなどから、二酸化炭素削減が順調にいかないこともあるだろう。

 だが長期的には電力以外もふくめ、化石エネルギー消費を減らして調和させるしかない。原発を減らすことと温暖化を防ぐことを両立させることが必要だ。

【社説特集】提言 原発ゼロ社会

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