北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

砂澤ビッキ「四つの風」の1本が倒れる 遺志尊重し修復せず-札幌芸術の森野外美術館

2010年08月17日 23時46分20秒 | 新聞などのニュースから
 北海道新聞2010年8月7日朝刊社会面から。
 他紙には見当たらなかったので、独自取材と思われます。

 旭川市出身の彫刻家、砂澤ビッキさん(1931~89年)の代表作で、札幌芸術の森(札幌市南区芸術の森2)に野外展示されている大型木彫「四つの風」の4本の柱のうち1本が倒壊した。この作品は腐食のための倒壊が以前から指摘されていたが、札幌芸術の森美術館は砂澤さんの遺志を尊重し、修復せず展示。倒れた柱も撤去せず、今後もこのままで展示を続ける。

 「四つの風」は1986年に設置された札幌芸術の森のシンボル的な作品。高さ5.4メートル、直径90センチのアカエゾマツ4本の柱がそびえ立っている。6日朝、出勤した職員が、そのうちの1本が倒壊しているのを見つけた。5日夜から6日朝の間に自然に倒れたとみられ、けが人はいなかった。倒れた柱は根元が折れ、上部は木片が散らばった状態になっている。

 (以下略)


 ご存じのとおり、砂澤ビッキさんは、北海道の美術史に残る彫刻家です。木彫の現代彫刻というくくりでは、第一人者といってもよいでしょう。
 変な言い方かもしれませんが、これほど「キャラが立っている」作家も珍しいのではないでしょうか。
 アイヌ民族でしたが、そういう枕詞なしでも通用するパワフルな活動を展開していました。

 「四つの風」は、ビッキの代表作のひとつです(冒頭画像は、ことし6月、倒壊前に撮影)。
 ■こちらにも写真

 2002年には、札幌市交通局のウィズユーカードにもあしらわれています(■参照)。 

 この彫刻、木という素材を生かした作品なので、設置して間もなく、キツツキが穴を開けたりしていました(これをビッキは非常に喜んだらしいときいています)。
 1994年にははやくも腐敗菌のため穴があき、とりあえず透明の防腐剤を塗るなどしてそれ以上の穴の拡大を防ぐ措置をとっています。
 2001年には、いつ倒壊してもおかしくない状態になり、ビッキの遺志を尊重するのか、あるいは保存に向けて最大限の手だてをとるのかで、シンポジウムも開かれているほどです。

 ビッキは次のように生前語っていたそうです。

人が手を加えない状態つまり自然のままの樹木を素材とする。したがってそれは生き物である。生きているものが衰退し、崩壊していくのは至極当然である。それを更に再構築していく。自然はここに立つ作品に風雪という名の鑿を加えていくはずである。

http://www.vill.otoineppu.hokkaido.jp/Contents/7D8192DFCD/kannai/kannai.htm

 ビッキが晩年に住み制作に励んだ上川管内音威子府おといねっぷ村の「アトリエ3モア」。いまは小さな美術館のような施設になっていますが、そこのブログ「筬島おさしまの風」の中から引用しました。

 考えると、これって、すごい言葉というか思想なのではないかと。

 人間の生命は有限です。
 だから人はそれにあらがおうとします。
 芸術であれば、ひょっとすると人間よりも長く、あるいは永遠に生命を保てるかもしれない。
 絵画も彫刻も、制作した人よりは長生きすることでしょう。
 高僧の肖像を残したり街角に偉人の銅像を建てるのも、その人の寿命よりも末永くその人を記憶して語りつぎたいという欲望のあらわれだと思うのです。

 ビッキの思想はそれと真っ向から食い違います。
 生命の終わりは、自然にかえることだといい、彫刻作品も自然に還ることで終わればいいという考えです。
 安易にレッテルをはるのは慎まなくてはなりませんが、近代的・唯物的な生命観とは全く異なる、東洋的とも言える考え方ではないでしょうか。


砂澤ビッキ展 樹兜虫の世界 (2009年2月)
砂澤ビッキ展(2008年)
エコミュージアムおさしまセンター(BIKKYアトリエ3モア)
砂澤ビッキ作品、旭川市に寄贈(2007年)


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
自然淘汰 (じゅげむ)
2013-10-01 00:15:32
これでいいのだ。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。