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心を鬼にして目標を1つに絞るべき3つの心理学的な理由

ダニエル・カーネマン心理と経済を語る
ダニエル・カーネマン心理と経済を語る ダニエル カーネマン Daniel Kahneman

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私自身はこれまで「折衷案」めいたものを提案してきました。「1つに絞れなければ、3つまでに目標を絞る」などです。「どうしても1つのゴールだけにできない」という方は意外なほど多いからです。

しかし、本書を読んでからきっぱり考えを改めました。自分自身のことについてもです。2つ以上ある目標の達成率と、1つだけに絞られた目標の達成率は、まったく違うと思うようになったからです。

タイトルにあるとおり、少なくとも3つの理由があって「目標は1つに絞り込むべき」なのです。

大目標を1つに絞るべき3つの理由

まずは3つの理由を箇条書きにしてみましょう。

1.人は選択肢を増やしたがる
2.選択肢の存在が判断力を曇らせる
3.心は現在の感情を未来に投影してしまう

このいずれも相互にリンクしています。一つ一つを簡単に見ていきます。

1.人は選択肢を増やしたがる

著者のダニエル・カーネマンが紹介している心理学の実験例は非常に日常的な実例です。

実験では学生たちが授業中に食べるためのスナックをもらえることになっています。第1グループの学生たちは「今後3回受ける授業で食べるためのスナックを予約指定」できます。スナックは色々あります。あなたならメニューを見てどう決めるでしょう。

第1回 4/14の授業ではポテトチップス。
第2回 4/21の授業ではポップコーン。
第3回 4/28の授業ではチョコレートポッキー。

こんなふうにするのではないでしょうか? 実際多くの学生たちもそのようにしました。つまり3回とも食べるスナックを変えたのです。

第2のグループもよく似た状況が与えられました。ただし、スナックは予約指定するのではなく授業を受ける直前に選ぶようにさせられました。スナックは第1のグループと同じ種類だけ用意されました。しかし選び方はまったく違っていたのです。

第1回 4/14の授業ではポテトチップス。
第2回 4/21の授業ではポテトチップス。
第3回 4/28の授業ではポテトチップス。

この条件下では、ほとんどの学生が同じスナックを選んだわけです。そして選んだスナックの満足度について、第2のグループの方が高い満足を感じていました。

人というのは、「長い期間のことを前もって考えるなら、いろいろな経験を選んだ方がいい」と考えがちです。しかし「いま食べるもの」をその場で選択するなら「中でももっとも好きなものを選ぶ」ようになるのです。

「目標を立てるとき」というのは第1のグループとよく似た状況にあることに注意しましょう。

2.選択肢の存在が判断力を曇らせる

「選択肢の存在が判断力を曇らせる」というのはいかにも当たり前のことのようですが、心理学の実験によると「当たり前」をはるかに通り越して「そこまでバカげているとは信じにくい」結末を暴露します。

私達は選択肢が存在することによって楽しみが楽しみでなく見えたり、さほど楽しくもなさそうなことをひどく楽しみにしてしまったりするのです。

モアウェッジらの二〇〇五年の研究では、被験者たちは、数分後にポテトチップスを食べるのをどれくらい楽しめるかを予測するよう求められた。ある実験では、被験者はポテトチップスの脇に置いてあるチョコバーも見ることができた。別の実験では、チョコバーの代わりにイワシの缶詰が置いてあった。すると、関係のない食べ物の存在が、未来の楽しみに対する被験者の予測に影響を与えた。

チョコバーもイワシの缶詰も、ただ「脇に置いてあった」だけです。どちらにしても被験者が食べたのはポテトチップスだけだったのです。なのに被験者は脇に置いてあったものを見ただけで、ポテトチップスに対する期待感を変化させてしまいました。

もし「今年の目標」と題する紙に書いてある内容が「英会話のマスター」だけだった場合と「英会話のマスターとプログラミング」と書いてあった場合とでは、「英会話のマスター」に対する期待感が良くも悪くも影響されてしまうことに注意しましょう。

その影響は「プログラミング」を全然実行しなかったとしても残ってしまうのです。

3.心は現在の感情を未来に投影してしまう

これの弊害はたくさんありますが、「人間の想像力は偉大かもしれないが欠陥も多い」と考えておきましょう。

2つも3つも目標を設定し、そのどれも大層な目標になってしまう原因の1つが感情の投影です。

計画を立てるとき心は高揚しています。この高揚感を未来に投影して計画を立てているので無理な目標も無理に思えなくなるわけです。できもしないことができると思えるわけです。

しかし実際に朝3時50分に目覚まし時計を鳴らしてみると、とてもネガティブな感情に襲われてしまいます。ここでもまた感情の投影が起こります。とてもネガティブな感情を「起きる」という行動の全体に投影してしまうので起床がとても残念なものに思えてくるわけです。

想像に感情を投影してしまうことはこのように、目標達成をはばむ2つの大きな要因になってしまっています。

1.できもしないことでも計画立案時にはできると感じさせてしまう
2.やればできることでもやる直前にはできないと感じさせてしまう

1を避けるためにも目標は1つに絞るべきです。その上で実際にやってみて全然ダメなら目標のハードルを下げる。実際にできたことは貴重な経験として記録に残し、取り組む前のネガティブな感情を払拭する材料とします。そうすれば2をなんとか払拭することもできます。

▼編集後記:
佐々木正悟

以上のような内容を踏まえて、これを簡単に書き改めたのが下記の本とも言えます。

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もちろんそれだけでは「理論上の話」になってしまうので、自分の継続体験や他の人の話を加味しつつ、ライフハックな方法論に落とし込みました。いわゆる「逆張り」にも言及しています。

関連するセミナーでは、いま一度「経済心理学」の理屈っぽい話もおさらいしてみたいと思います。これはとても役に立つ考え方です。

『幸せはいつもちょっと先にある』でも言われていることですが、私達は気づかぬうちに計算ちがいをしていて、そのせいで日常のごくふつうの行動でも「あれ?」となってしまうのです。

「三日坊主」や「先送り」などはその「あれ?」のもっとも典型的な行動パターンなのです。