2011.04.11
# 雑誌

人類史上、初めての体験 溶け出した福島第一原発「第3の恐怖」

東日本大震災「終わりなき闘い」
放射能汚染列島の虚実

 3号機の異変は水素爆発ではなかった。福島原発の基本設計を担当した人間は実名でこう語る。「何かもっと重大な事故が起きている。報告されていないか、あるいは正確な事態を把握できていないのかどちらかだ」。実はすでに20人以上が大量被爆、あふれ出す高濃度放射性物質のプール、そして新たな危険が迫る。

データは信用できない

「これは・・・驚いたね」

 福島第一原発の基本設計を担当した米GE社の元設計士・菊地洋一氏は食い入るように写真を見つめた。

 菊地氏は福島第一原発6号機('79年運転開始)工事の現場監理も務めた、原発建屋建築のプロだ。

「同じ原子炉なのに、壊れ方がほかとまったく違う。3号機だけが熱でグニャグニャに曲がっているでしょう。アメ状に折れ曲がっている。これは、明らかに水素爆発ではありません。何らかの理由で鉄骨を溶かす800度以上の超高熱にさらされ、鉄骨の骨組みが溶けた。水素爆発では、ここまでの事態にはならない。何かもっと重大な事態が起き、それがいまだに報告されていないか、誰も正確に事実を把握していないのでしょう」

 3月29日、東京電力が公表した無人撮影機による10枚の写真。3号機は、ひときわ無残な姿をさらけ出していた。

「福島第一の最上階の建屋は、実は非常に軽く簡素な作りなんです。内部で大型のクレーンを動かすため、柱を立てられない。そのため、外壁や天井を軽く作る必要があるんです。壁はプレハブ。天井は折り曲げたブリキの板の上に、軽量コンクリートを打ち、その上から防水シートをかぶせて砂をまいた『砂付きルーフィング』です。

 見てください。1号機、4号機は薄い壁や天井が吹き飛んでいますが、鉄骨はほぼ無傷です。水素爆発は、実はプロパンガスなどよりずっと爆発力が小さい。単純な水素爆発であれば、この程度なんです。ところがプルトニウムを含むMOX燃料を使っていた3号機では、大きな熱を発した。この事実とその原因を、まだどこも指摘していません」(菊地氏)

 3号機は、3月14日に白煙を上げて爆発、周辺にいた作業員7名を負傷させた。3号機の爆発の威力は凄まじく、隣接するタービン建屋の屋根にまで穴を開けたことが後に分かった。

 警察、自衛隊、消防が放水を行ったが、23日には黒い煙が上がった。その原因はいまだに特定されていない。さらに24日には3号機タービン建屋にできた水溜まりから超高濃度の放射線が検出され、作業員2人が被曝して病院に担ぎこまれた。

 本誌は、14日から15日にかけて3号機が再臨界寸前の大危機を迎えていたことを報じたが、爆発の状況からも、内部空間が800度を超す高熱に達する異常事態を迎えていたことが明らかになった。

 1号機でも炉内の温度が異常に高まり、2号機では圧力抑制室の損傷と放射能漏れが心配されているが、現段階で「手が付けられない」ほど危険な炉は3号機なのである。

 しかし、菊地氏も指摘するように東京電力も、原子力安全・保安院も、こうした事実を正確に公表していない。欧米からは、「日本政府や東京電力の発表しているデータは、必ずしも信用できない」という声が上がっている。

 実は東京電力でも、原子炉の状態について正確な分析ができていないようだ。3月30日の会見で、勝俣恒久会長は、

「正直に申し上げて、原子炉の状況、格納容器、(使用済み燃料)プールの燃料棒の状況を正確に把握するのが難しい」

 と告白した。炉内の圧力、温度などから間接的に推測するほかないのが現状なのだ。原子炉をコントロールするどころか、今後どういう事態に発展するのか東電も政府も確たる見通しを持っていないことが、明らかになった。

 前出の菊地氏が、さらに驚くべき話を明かす。

「私が福島第一にGEの設計士として赴任していた時期('70年代末)に、2号機の補修が必要になり、外国人の作業員などを集めて作業を開始したんです。ところが、東京電力には、原子炉工事の実施図面が残されていなかった。GEが担当したのは基本設計で、私はアメリカから送られてきた図面のチェックなどをしたんですが、実際の工事は日本の事情に合わせて実施図面を作る必要があります。それがすでに、残っていなかったんです。

 今回の事故で思い出したのは、そのときのことでした。事故への対処が後手後手になったのは、施工時の正確な図面がなかったという事情もあるのではないか」

 実際、今回の震災直後に、「津波で原子炉の図面が流され、どこかにコピーが保存されていないか探し回った」という報道があったが、そもそもはじめから、「図面はなかった」というのだ。大阪大学名誉教授の宮崎慶次氏(原子炉工学)は、収束までに長い時間がかかることは避けられないという。

「いまは、とにかくウランそのものが溶け出さないよう、しっかりと冷やさないといけない。しかしその一方で、冷やすために水をかけすぎると汚染された水が漏れ、溢れてくる。そこの競争です。現場の作業員の方は非常に辛いでしょう。

 スリーマイル島事故のときは、たしか1年以上はそのままの状態で置いておくしかなかった。あのときには日本の旧原子力研究所やメーカーの方も現地に行って除染作業に参加し、研究している。だから経験はあるんです。そのときの経験を生かして、時間をかけてやるほかない」

 スリーマイル島事故では、発生から約16時間後に「残留熱除去系」の装置が動き出し、原子炉冷却に成功したが、それでも1年間放置するほかなかった。

 福島第一は、電源が停止してから数日間放置されたため、炉心の溶融(=放射線の放出)はスリーマイルの比ではない。今後電気による冷却装置が復旧しても、少なくとも1年以上は近づくことさえできない。

 このまま電源が復旧しなければ、延々と「決死隊」が水をかけ続けるほかない。そうなれば、高濃度放射線汚染水がプール状態になって海に漏れ出したり、空中に撒き散らされ、日本中どころか世界中に飛び散ることになる。水をかけ続けて少しずつ収束すればまだ良いが、さらに「最悪の事態」へと発展する可能性も残されている。

 すでにアメリカでも、微量の放射線が検出されたという。水素爆発による建屋破損、周辺地域への放射線漏出につづき、事態は「第3の恐怖」、つまり広域への放射線拡散へと進展した。

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