意外な言葉だった。
「今はすっきりとした、やりきった気持ちです」
楽天・栗原健太内野手(34)が現役引退を決めた。2015年オフ、広島に自由契約を申し出て、楽天にテスト入団。今季は1軍でのプレーはかなわなかった。
17年間の現役生活で通算1082安打、153本塁打、586打点を記録。12、14年に右肘の手術を受け、思うような打撃ができなくなった。この3年間は1軍出場がなかった。
チームメート、スタッフの誰からも愛される存在。実直で謙虚に試合、練習に取り組む姿勢は周囲から敬意を集めた。そんな栗原は「野球の神様を信じている」という。その思いの根底は、どんなものなのだろう。
「僕は試合に出ているときに絶対言うんです。心の中で『ここに立てることに感謝します』と。やっぱり、人間だからイライラしたり、悪口を言いたくなるときは、僕だってありますよ。だけど、誰かがどうした、とかそういうのは関係ない。結局は、自分なんだから。そこで言い訳したって駄目だし、そういうのは嫌なんです」
己と向き合い続けることで、野球の技術も人間としての内面も磨いた。
「常に感謝の気持ちを持ち続けることができたら変わらない自分でいられるはずなんです」
成績を残せば、横柄になったり、おごる気持ちが出たりする選手もいる。栗原もそういう気持ちが、分からないでもない。それでも自分はまだまだと思い続けること、何より飽くなき向上心で、バットを振り続けた。
「引退したら? 焼き肉店でも、しようかな」
数年前、ふと引退後の人生について話題になった。そんなとき、冗談半分、本気半分、屈託のない笑顔でそう答えた。山形・天童市の実家では、女手一つで育ててくれた順子さん(63)が焼き肉店「マルタイ」を営んでいる。
山形牛と、順子さんオリジナル、息子さえレシピを知らないという秘伝のタレのおいしさは有名だ。
卓越した打撃理論と人間性を評価され、おそらく指導者としてのオファーがあるだろう。未来のスラッガーを育てるべく、自分の培ったすべてを選手に注ぐはずだ。念願(?)の焼き肉店開業はもう少し先になりそうだが、栗原が歩む第2の野球人生を応援したい。(山田結軌)