飲酒とアセトアルデヒド
【ポイント】
アルコールは、肝臓で、毒性のあるアセトアルデヒドを経て、無毒な酢酸に分解される。
常用飲酒などは、アルコール代謝で生成されるアセトアルデヒドにより、肝細胞を障害し、アルコール性肝硬変など、重篤な病気を招くおそれがある。飲酒に際して、偏食したりし、栄養障害(ビタミン類や蛋白質摂取の不足)に陥ると、アルコールの肝障害作用が、増強してしまう。
緑茶に含まれるカフェインや、ゴマに含まれるセサミンは、アルコールの分解を促進させる。コーヒーは、毎日1杯以上飲用すると、アルコール性肝硬変の発症を抑制する。
1.アルコールの肝細胞内での代謝
飲酒で飲まれたアルコール(エタノール:CH3CH2OH、エチルアルコール)は、中枢神経系に対して、酩酊を来たすが、アルコール自体には、肝毒性はない。
肝臓では、アルコールは、主に、アルコール脱水素酵素により、毒性のあるアセトアルデヒドに分解されるが、カタラーゼや、MEOSによっても、分解される。
1).アルコール脱水素酵素
アルコールは、体内では、肝臓で、主に(90%)、肝細胞内(ミトコンドリア内)に局在するアルコール脱水素酵素(アルコールデヒドロゲナーゼ:alcohol
dehydrogenase:ADH)により、代謝され、肝毒性の強いアセトアルデヒド(Acetaldehyde:AcH)に分解(酸化)される(主経路)。
ADHにより、アルコールが、アセトアルデヒドに代謝されると、NAD+が、NADH2+に、還元される。NAD+は、ビタミンのニコチン酸から合成される。飲酒量が多い(アルコールを多飲すると)、ニコチン酸が欠乏して、ペラグラ脳症などになることもある。NADH2+は、NAD+に、再酸化される。
CH3CH2OH + NAD+ → CH3CHO + NADH + H+
アルコール脱水素酵素(ADH)は、95%以上が肝臓に存在する。アルコール脱水素酵素(ADH)は、肝臓でも、肝小葉中心部の肝細胞(肝静脈寄りのperivenous
cells)に、多く存在する。肝臓が、循環不全や呼吸不全の結果、低酸素性肝障害や虚血性肝障害を来たすと、肝小葉中心性肝障害が起こり、血清中のアルコール脱水素酵素(ADH)値が、上昇する。アルコール性肝障害は、肝小葉中心性肝障害だが、血清中のアルコール脱水素酵素(ADH)値は、あまり、上昇しない(慢性障害に急性障害が加わる為)。血清中のアルコール脱水素酵素(ADH)値は、ウイルス性の急性肝炎や慢性肝炎、肝硬変では、低値を示す。
アルコール脱水素酵素(ADH)は、胃、十二指腸、腎臓、脳、心臓、網膜などの組織にも、僅かに存在する(活性がある)。
2).カタラーゼ
ペルオキシソームに存在するカタラーゼは、アルコール(エタノール)を、過酸化水素(H2O2)を気質にして、アセトアルデヒドに分解する(副経路)。
過酸化水素(H2O2)は、活性酸素の1種で、ペルオキシソームで、脂肪酸がβ-酸化される時に、発生する。
ペルオキシソームのβ-酸化系の酵素活性が、適応的に誘導された人では、摂取したアルコールの半分近くが、カタラーゼにより、分解される。
3).MEOS
一部のアルコールは、肝ミクロゾームエタノール酸化酵素(MEOS:シトクロムP-450依存性モノオキシゲナーゼ)により、代謝される(副経路)。
MEOSは、滑面小胞体(ER)に存在し、シトクロムP450(注1)が関与する。
MEOSも、カタラーゼと同様に、アルコール常飲者では、酵素活性が、適応的に誘導され、高くなるが、正常人では、酵素活性は、低い。
MEOSにより、アルコールが、アセトアルデヒドに代謝されると、NADPH2+がNADP+に酸化される。
CH3CH2OH + NADPH + H+ + O2 → CH3CHO + NADP+ + 2H2O
2.アセトアルデヒドの毒性
アセトアルデヒド(Acetaldehyde:CH3CHO、AcH)は、蛋白、DNA、脂質とも結合し、化学反応を起こして、それらの一部を変性させる。
アセトアルデヒドは、血中濃度が数μM以上になると薬理作用が現れ、血中濃度が10μM以上に上昇すると、顔面紅潮(顔面発赤)、頭痛、悪心(嘔気)、嘔吐などの、中毒症状が現れる。
従って、アセトアルデヒドは、強い、有害作用があり、肝毒性を示し、肝細胞のミトコンドリアを障害する。
また、アセトアルデヒドは、肝類洞壁の星細胞(伊東細胞:コラーゲンを産生している、注2)を刺激し、肝線維化を促進する作用がある。
3.アセトアルデヒドの肝細胞内での代謝
アルコールの代謝で生成されるアセトアルデヒド(Acetaldehyde)は、肝毒性が強いので、肝細胞内(細胞質ゾル)で、産生と同時に、90%以上が、速やかに、アルデヒド脱水素酵素(ALDH:aldehyde dehydrogenase、AcDH:acetaldehyde dehydrogenase)により分解されて、酢酸(アセテート:Acetate:CH3COOH)になる。
ALDHにより、アセトアルデヒドが、酢酸(アセテート)に代謝されると、ADHの時と同様に、NAD+が、NADH2+に、還元される。空腹時や運動時など、脂肪酸のβ-酸化により、ミトコンドリア内にNADH2+が多く存在すると、NADH2+を生成するALDHによるアセトアルデヒドの分解が、滞って、アセトアルデヒド濃度が高まる。その為、空腹時などに飲酒すると、早く酔い、長く酔っていることが多くなり易い。
CH3CHO + NAD+ → CH3COOH + NADH + H+
なお、MEOSによっても、アセトアルデヒドは、酢酸に代謝される。
CH3CHO + NADPH + H+ + O2 → CH3COOH +NADP+ + 2H2O
肝臓では、飲酒後に生成された酢酸は、肝臓では、酸化され難く、血中に放出され、末梢組織のエネルギー源となる。酢酸は、TCA回路に入り、最終的には、炭酸ガス(二酸化炭素)と、水とが、生成される。
肝臓で1molのアルコール(エタノール)を、炭酸ガスにまで分解する(完全分解)には、3molの酸素が必要だが、酢酸に分解する(酢酸への転化)には、1molの酸素で、行える。
肝臓が、アルコール(エタノール)を、酢酸にまで分解する(酢酸への転化)には、約6時間要する(肝細胞のミトコンドリアの電子伝達系が、NADH2+を酸化する能力には、限度がある)。
酢酸は、血管を拡張する作用があると言う。酢酸からは、アセチル-CoAが生成され、脂肪酸が合成されるので、アルコールを多飲すると、高脂血症を来たす。
多量に飲酒すると、アセトアルデヒドが、完全に代謝を受けず、二日酔いの原因となる。
アセトアルデヒドの排泄は、アルコール(エタノール)と同様に、呼気、汗、尿などから行われる。
4.ALDH2
アセトアルデヒドを酢酸に代謝するALDH(アルデヒド脱水素酵素)には、ALDH1と、ALDH2の、二つのアイソザイムが、存在する。
ALDH1は、ミトコンドリア外の細胞質に存在するので、アセトアルデヒド(飲酒に際して、エタノールが、アルコール脱水素酵素により代謝され生成される)の除去には、有用でない(Kmは、約100μM)。
ALDH2は、ミトコンドリア内に局在する。飲酒に際して生成されるアセトアルデヒドは、主に、ALDH2により、代謝(処理)され、酢酸に酸化される。ALDH2の方が、アセトアルデヒドに対する親和性が高く、アセトアルデヒドは、主に、ALDH2により代謝を受ける。
ALDH2には、活性を有するALDH2*1(活性型)と、活性を有しないALDH2*2(不活性型)という、2種類の遺伝子多型が、存在する。
ALDH2*1/*1遺伝子型の人は、アセトアルデヒドを肝臓内で完全に処理する(アセトアルデヒドを代謝する能力が高い)ので、飲酒しても、血中に、アセトアルデヒドが殆ど増加しないので、お酒に強い(アルコールを多量に飲める)。
ALDH2*1/*2遺伝子型の人は、アセトアルデヒドを肝臓内で十分に処理出来ないので、飲酒すると、血中に、アセトアルデヒドが増加してしまい、顔面紅潮(顔面発赤)や、動悸(心悸亢進)などが起こり、お酒に弱い(大量の飲酒は出来ないが、適量の飲酒は出来る)。
ALDH2*2/*2遺伝子型の人は、アセトアルデヒドを肝臓内で全く処理出来ない(アセトアルデヒドを代謝出来ない)ので、少量、飲酒しただけで、血中に、アセトアルデヒドが増加してしまい、顔面紅潮(顔面発赤)などの症状が出現するので、全く、飲酒出来ない。このようなALDH2*2/*2遺伝子型の人は、フラッシャー(flusher)と呼ばれ、ビール50mlを飲んだだけでも、アセトアルデヒドの血中濃度が数μM以上に上昇し、顔面紅潮などの症状が出現する。ALDH2*2/*2遺伝子型の人(フラッシャー)は、白人では約1%しかいないが、日本人では約10%いると言われる。
日本人の40%の人は、ALDH2が、遺伝的に変異していて、ALDH2の活性が欠落した人(ALDH2*2のホモ接合型)と、ALDH2の活性が低下した人(ALDH2*2のヘテロ接合型)が、存在する。
このような、ALDH2が変異した人たちは、飲酒後は、毒性の強いアセトアルデヒドの血中濃度が、上昇してしまう。その為、顔面発赤(フラッシュング:顔面紅潮)、動悸、頭痛、悪心、嘔吐などの神経毒性症状(自律神経刺激症状)が、現れる。
顔面紅潮は、アセトアルデヒドが、末梢血管拡張物質(ヒスタミン、ブラジキニンなど)を遊離させ、末梢血管を拡張させる為に、起こる。顔面紅潮を来たした人が、飲酒を続けると、顔面蒼白になり、嘔吐して、悪酔い状態になる。なお、アルコールは、MEOSによっても代謝されることもあり、少量飲酒後に、高度の顔面紅潮が現れても、飲酒を中断して後、再度、飲酒しても、顔面紅潮が現れない人もいる。
動悸(心悸亢進)は、アセトアルデヒドが、交換神経末端や副腎髄質からカテコールアミンを遊離させる為に、起こる。
そのため、ALHD2が変異した人たちは、飲酒量が、増えず、肝障害の発生率は、低い。しかし、ALDH2の活性が低下した人(ALDH2*2のヘテロ接合型)が、慢性飲酒を続けると、肝細胞障害が、発生しやすい。
ALDH2が変異しているかどうかは、アルコールを絆創膏に染み込ませ、上腕内側に5分間貼付して調べる(パッチテスト)。貼付5分後に、アルコールを染み込ませた絆創膏を剥がし、20秒以内に皮膚に発赤が見られれば、ALDH2の活性が欠落した人(ALDH2*2のホモ接合型:ALDH2完全欠損)と見なし、また、20秒〜5分後に皮膚に発赤が見られれば、ALDH2の活性が低下した人(ALDH2*2のヘテロ接合型:ALDH2部分欠損)と見なす。
飲酒後の血中アセトアルデヒド濃度は、ALDH2の活性が低下した人(ALDH2*2のヘテロ接合型)は、正常人(ALDH2*1/*1遺伝子型)の6倍、また、ALDH2の活性が欠落した人(ALDH2*2のホモ接合型)は、正常人の19倍になる。
ALDH2の活性が低下した人(ALDH2*2のヘテロ接合型:ALDH2*1/*2遺伝子型)は、食道癌の発症リスクが高い。ALDH2の活性が低下した人(ALDH2*2のヘテロ接合型)が、毎日飲酒したり、大酒家だったり、アルコール依存症だったりすると、ALDH2正常者(ALDH2*1/*1遺伝子型)に比して、(食道癌の)発癌リスクが、10倍以上、高くなる。
ALDH2欠損者(ALDH2*2のホモ接合型やALDH2*2のヘテロ接合型)でも、アルコール脱水素酵素(ADH1B:旧名ADH2)の活性も著しく低い人は、飲酒後に、顔面発赤(フラッシュング)が現れない。アルコール脱水素酵素(ADH1B)の活性が低い人は、人口の1割弱、存在する。ALDH2欠損者で、同時に、アルコール脱水素酵素(ADH1B)の活性も低い人は、飲酒家になると、食道癌の発症リスクが、30〜40倍、高い。
ALDH2は、499個のアミノ酸から構成される、54KDaの酵素蛋白。
ALDH2遺伝子には、多型性(Glu489Lys polymorphism)があり、489番目のアミノ酸が、Glu(グルタミン酸)だとALDH2*1(活性型)、また、489番目のアミノ酸が、Lys(リシン)だとALDH2*2(不活性型:アセトアルデヒドを酢酸に変換出来ない)。
日本では、ALDH2*1(活性型:酒に強い)遺伝子を有する人は、東北、南九州に多く、ALDH2*2(不活性型)を有する人は、日本中部(中部、北陸、近畿、中国地方)に多い。
縄文人は、ALDH2*1(活性型:酒に強い)遺伝子を有する人が殆どであり、酒を良く飲んでいたが、弥生人には、ALDH2*2(不活性型)を有する人がいた。
5.アルコール性脂肪肝
アルコール性脂肪肝(alcoholic fatty liver)は、常習飲酒により、肝臓の脂質代謝が障害され、主に、食事由来(外因性)の脂肪酸から合成されたトリグリセリドが、代謝されないで、肝細胞内に蓄積する。
アルコール性肝障害としてのアルコール性脂肪肝は、以下のような要因が関与して、発症する。
・ミトコンドリア障害:アセトアルデヒドが障害する
・脂肪酸分解障害:アルコール代謝により、NADH2+が増加し、TCA回路が抑制され、アセチル-CoAが蓄積、β-酸化が障害される
・トリグリセリド合成の亢進:グリセロール 3-リン酸が増加する
・蛋白分泌障害:分泌蛋白と水分が、肝細胞内に、貯留し、風船化する
アルコールは、肝細胞障害作用と、線維増生作用とにより、肝細胞を直接的に障害する。
1).アルコールの肝細胞障害作用
a.還元型のNADH2+が増加し、脂肪酸分解(β-酸化)が抑制される
常習飲酒により、肝臓では、アルコールを代謝することにより還元型のNADH2+が、増加する。
ADHにより、アルコールが、アセトアルデヒドに代謝されると、NAD+が、NADH2+に、還元される。
CH3CH2OH + NAD+ → CH3CHO + NADH + H+
ALDHにより、アセトアルデヒドが、酢酸(アセテート)に代謝されると、ADHの時と同様に、NAD+が、NADH2+に、還元される
CH3CHO + NAD+ → CH3COOH + NADH + H+
このように、肝臓内で、アルコールが代謝されると、還元型のNADH2+が、細胞質ゾルに増加し、NADH2+とNAD+の濃度比(NADH/NAD+比)が上昇する(redox shift)。
NADH/NAD+比が上昇すると、TCA回路の代謝が抑制され(NADH2+が生成されなくなる)、アセチル-CoAが蓄積し(アセチル-CoAがTCA回路で代謝されなくなる)、脂肪酸分解(β-酸化)が、抑制される。
NADH/NAD+比([NADH] / [NAD+]比)は、以下のような関係が存在する。
K=[オキサロ酢酸][NADH]/[リンゴ酸][NAD+]
なお、K=6.2×10-6。
NADH/NAD+比は、ミトコンドリア内では0.1、細胞質ゾルでは、0.002に、維持される。
ミトコンドリア内では、通常は、TCA回路から生成されるNADH2+を、呼吸鎖(電子伝達系)で利用し、ATPを生成している。
肝臓では、ATP消費量(需要量)が多い時(アミノ酸代謝や脂肪酸合成など)には、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルにより、細胞質ゾルのNADH2+を、ミトコンドリア内に、輸送し、呼吸鎖でATPを生成する。
肝臓は、空腹時などには、ミトコンドリア内、脂肪酸をβ-酸化(脂肪燃焼)させ、NADH2+やFADH2を生成し、呼吸鎖で利用し、また、ケトン体を生成する。
アルコールの代謝により、脂肪酸分解(脂肪酸のβ-酸化)が障害される:アルコールの代謝により、NADH2+が、細胞質ゾルに増加すると、ミトコンドリア内で脂肪酸をβ-酸化しなくなり、脂肪酸の増加(蓄積)が起こる。
また、トリグリセリド合成が促進される:ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)から、G-3-PDH(NADH2+をNAD+に酸化する)による、グリセロール 3-リン酸の合成が促進する。グリセロール 3-リン酸の合成の増加は、β-酸化(脂肪燃焼)の減少による脂肪酸の増加と合わさって、トリグリセリドの合成が、促進する。トリグリセリドは、VLDLとして、血中に分泌されるが、過剰にトリグリセリドが合成されると、肝臓に蓄積し、脂肪肝を発症する。
アルコール分解(アルコール代謝)において、アルコールが、アルコール脱水素酵素などにより代謝されるには、補酵素(NAD+)が必要(NADH2+に還元される)。また、アルコール分解で生成された酢酸が、肝臓内で、アセチル-CoA合成酵素(Kmは、約1mMと高い)により、アセチル-CoAに変換され、脂肪酸合成に利用される(中性脂肪が合成される)には、補酵素(CoA)が必要。他方で、補酵素(NAD+、CoA)は、脂肪酸分解(脂肪酸のβ-酸化と、アセチル-CoA生成)にも必要。アルコール分解と、脂肪酸分解(β-酸化)は、補酵素(NAD+、CoA)の利用に関して、ミトコンドリア内で、競合する。その為、大量に飲酒すると、アルコール代謝により、補酵素(NAD+、CoA)が使用されると、脂肪酸代謝に必要な補酵素が不足し、脂肪酸分解が抑制される。また、アルコール分解により、酢酸が生成され、中性脂肪の合成が亢進し、肝細胞内に、中性脂肪が蓄積し、アルコール性脂肪肝になったり、血液中の中性脂肪が、増加する。
b.アセトアルデヒドがミトコンドリアや微小管を障害する
アルコール代謝で生じるアセトアルデヒドには、肝細胞のミトコンドリア機能障害作用や、微小管機能障害作用がある。
ミトコンドリア機能が障害されると、脂肪酸分解(β-酸化)や、アセトアルデヒド酸化が、抑制され、肝細胞内に、脂肪酸や、アセトアルデヒドが、増加する。
微小管機能が障害されると、分泌蛋白(アルブミンなど)の分泌が障害され、細胞内に分泌蛋白が貯留して、細胞内水分が増加し、肝細胞は、風船化(ballooning)する。
アルコール性肝障害で、肝臓が腫大するのは、トリグリセリドが蓄積することだけでなく、分泌蛋白と水分が、肝細胞内に、貯留することが、原因と言われる。
さらに、酸素消費量が亢進し、肝細胞は、比較的な低酸素環境に置かれ、肝細胞壊死や、線維化が起こる。
2).アルコールの線維増生作用
アルコールは、肝内プロリンプールを増加させ、コラーゲン合成酵素を活性化させる。
アセトアルデヒドは、肝臓の線維産生細胞によるコラーゲン合成を促進させる。
その為、アルコール性脂肪肝は、アルコール性肝線維症に、信仰することがある。
アルコール性脂肪肝では、自覚症状として、全身倦怠感、食欲不振、悪心などの症状が見られることもある。
血液検査では、高脂血症、高乳酸血症、高尿酸血症などが見られる。
γ-GTP値が、上昇する。
AST(GOT)の上昇は、軽度のことが多く、上昇しても、500単位までで、AST>ALT(GOT>GPT)のパターンで、上昇する。
なお、アルコール性脂肪肝では、糖新生は、抑制され、(グリコーゲン貯蔵量が減少することもあって、)低血糖を来たしたり、乳酸アシドーシスや、高尿酸血症を来たす。
過剰飲酒により、消化管や膵臓の機能が低下し、また、飲酒時の食事内容が偏ると、低栄養状態になることもある。
偏食を伴なう飲酒によって、摂取するビタミン類が不足し、また、飲酒したアルコールの代謝により、ビタミン類が消費されてしまう。
必須脂肪酸や、ビタミンB6(ピリドキシン)や、ビタミンB5(パントテン酸)が欠乏すると、脂肪肝を発症させ易くする。
アルコール性肝障害(脂肪肝や肝硬変など)を来たすような飲酒家は、ビタミンB1、ニコチン酸、葉酸などのビタミン類が欠乏し易い。
アルコール脱水素酵素(ADH)では、ニコチン酸が消費され(補酵素としてNAD+が必要)、肝ミクロゾームエタノール酸化酵素(MEOS)では、ビタミンB1が消費される。
酒のみを飲んで、御つまみや野菜を摂取しないと、ビタミン類が不足して、肝障害を助長する。
(肝硬変の)肝癌の予防に、抗酸化物質として、1日、ビタミンCを500mg、ビタミンEを100〜300mg、β-カロテンを6mgと、大量に摂取すると、良いと言う説もある。
アルコール性肝障害は、アルコールの代謝で生成されるアセトアルデヒドによる肝障害(ミトコンドリア障害)と、過剰飲酒による消化管や膵臓の障害による栄養障害(栄養素の消化吸収不良)が起きている。
アルコール性肝障害は、禁酒が必要:アルコール性肝障害(特に、アルコール性脂肪肝)は、禁酒により、治癒することが多い。アルコール性肝障害、特に、アルコール性肝炎は、肝硬変に移行するおそれが高い。アルコール性肝硬変は、5年生存率が、禁酒者では約70%だが、過剰飲酒継続者は30〜40%に過ぎない。
非アルコール性脂肪肝(NASH:ナッシュ)から、脂肪肝炎が発生するには、脂質の過酸化(過酸化脂質)が関与している。
非アルコール性脂肪肝で脂肪肝炎を発生した患者の3〜4割の患者は、肝臓に過剰に鉄が蓄積して(血中フェリチン値が上昇)、炎症、繊維化、発癌を増悪化させている。
6.アルコールと血小板凝集能
適度のアルコールの摂取(適度な飲酒)は、プロスタサイクリン/トロンボキサン(PGI2/TXA2比)の比を増大させ、血小板凝集能を低下させたり、アスピリンによる出血時間を延長させる。
また、適度な飲酒は、HDLを増加させ、動脈硬化を予防する。
しかし、大量、長期の飲酒は、弊害が多い。毎日飲酒するアルコール量が多い程、血圧が高くなる。
アルコール多飲(飲酒)は、肝臓でのVLDL合成を促進させ、脂肪肝、V型高脂血症を来たす。
7.アルコール代謝と食事
ADHに主経路の反応で、アルコールが、アセトアルデヒドに代謝されると、NAD+が、NADH2+に、還元される。NADH2+は、NAD+に、再酸化される必要がある。
カタラーゼやMEOSによる副経路の反応では、NADH2+は、NAD+に、再酸化される必要がないので、ミトコンドリアの酸化系に依存しない。その為、副経路の反応では、アルコールのアセトアルデヒドへの代謝速度が、速い。しかし、アセトアルデヒドが、さらに、ALDHにより、酢酸に代謝される反応では、NAD+が、NADH2+に、還元される。ミトコンドリアの電子伝達系で、NADH2+が、NAD+に、再酸化されないと、アセトアルデヒドが蓄積する恐れがある。
空腹時には、脂肪酸のβ-酸化系が亢進し、NADH2+が生成され、電子伝達系で、NAD+に酸化される。
空腹時には、脂肪酸のβ-酸化系で生成されるNADH2+が酸化される為、エタノールが、ADHやALDHにより代謝される際に生成されるNADH2+が、NAD+に、再酸化されにくく、エタノールの代謝速度が、抑制される。
その為、空腹時に飲酒すると、アルコール(エタノール)の代謝(分解)が遅延して、早く酔ったり、長く酔いが続くと言われる。食事を食べながら飲酒すると、悪酔いしない。
また、アルコール常飲者では、カタラーゼやMEOSによる副経路の反応が亢進して(カタラーゼやMEOSの酵素活性が亢進している)、エタノールからアセトアルデヒドへの代謝は、促進され、アセトアルデヒドが蓄積しやすい。そして、空腹のまま、大酒をすると、ALDHに必要なNADH2+が、NAD+に、再酸化されにくく、アセトアルデヒドが、ALDHにより、酢酸へ代謝されないので、アセトアルデヒドによる肝障害を起こし易くするおそれがある。
飲酒前後に緑茶を飲むと、二日酔いが予防されると言う。
緑茶抽出物は、アルコールの代謝を促進させ、(血中の)アルコールやアセトアルデヒド濃度を低下させる。
緑茶に含まれるカフェイン(苦味成分)は、肝臓のアセトアルデヒド分解酵素(=ALDH)の活性を亢進させ、アルコールやアセトアルデヒドの分解を促進させる。カフェインは、高温の御湯の方が、溶け出し易い(苦味が強くなる)。
緑茶に含まれるカテキン(渋味成分)は、胃からのアルコールの吸収を抑制する。カテキン類の含量は、煎茶(せんちゃ)が多く、玉露や抹茶は少ない(カテキン類は、茶葉が日光に当たると増加する)。
なお、緑茶に含まれているテアニン(アミノ酸:旨味成分、甘味成分)は、茶葉が、日光に当たると、カテキンに変化してしまうので、玉露や抹茶に多く含まれている。テアニンは、グルタミン酸(Glu)に似たアミノ酸であり、神経細胞のグルタミン酸受容体に結合し、神経細胞死を抑制すると言う。
カフェインやカテキンは、高温(90℃)の御湯の方が、溶け出し易く(渋味が強いが香りは良い)、テアニンは、低温(50〜60℃)のの御湯の方が、溶け出し易い(旨味がある)。
コーヒーは、毎日1杯以上飲用すると、アルコール性肝硬変の発症を抑制する。特に、コーヒーを毎日4杯以上飲用すると、アルコール性肝硬変の発症率が、5分の1に低下する。コーヒーを飲用していると、血中のASTなどの肝臓由来の酵素値は、低下する。
アルコール性肝硬変の発症には、大量の飲酒だけでなく、性別(女性の方がアルコール性肝硬変を発症し易い)、栄養状態、食事内容など、他の因子も関与すると考えられている。
コーヒーに含まれる何らかの成分(カフェイン?)が、アルコール性肝硬変の発症を予防すると考えられている。
ゴマに含まれるセサミンは、アルコール分解(アルコール代謝)を促進し、飲酒後の血液中からのアルコール消失を促進する(悪酔いの原因となるアセトアルデヒドによる毒性を、軽減させる)。
焼酎は、アルコールとして、エタノールのみを含み、アルデヒドに分解され易いので、二日酔いし難いと言う。
8肝硬変.
肝硬変では、肝臓は、肝細胞壊死により、線維が増生し(肝線維症:肝繊維症)、残存した肝細胞が強く再生し、線維で囲まれた種々の大きさの肝細胞の塊(再生結節:中心静脈が存在する)を形成している。
肝硬変(Liver cirrhosis)のcirrhosisと言う言葉は、ギリシャ語のkirrhosis(橙黄色の意味)に由来している。
肝硬変では、易疲労感、全身倦怠感、食欲不振、腹痛などの自覚症状が現れる。
肝硬変は、アルコールの過剰摂取、ウイルス性肝炎(B型)などが、原因で起こることが多い。
アルコール性肝硬変は、アルコールの直接的肝障害作用(アルデヒドの細胞障害作用)により肝細胞が障害されるのが、一次的原因で起こる。また、栄養障害(ビタミン類や蛋白質摂取の不足)は、アルコールの肝障害作用を促進させる。
飲んだアルコールの総量が多い程、肝硬変に罹り易くなる。1日平均160g以上15年間飲み続けると、約80%の症例は、アルコール性肝炎やアルコール性肝硬変になる。
アルコール性肝硬変は、脂肪肝を伴なうことが多い。
肝硬変で肝機能がかなり低下すると(非代償期)、黄疸、腹水、浮腫、精神症状、出血傾向など、重篤な症状が見られる。
浮腫や腹水は、肝機能障害の為、肝臓でのアルブミン生成が低下し、低アルブミン血症になり、血漿膠質浸透圧が低下し、門脈圧が上昇し、肝リンパが漏出することが主因で起こる。さらに、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)の活性亢進による二次性高アルドステロン血症や、近位尿細管でのNa再吸収増加により、浮腫や腹水が増悪する。肝臓は、アルブミンを、1日10〜15g生成する。血清アルブミンが3.5g/dl以下に低下すると、腹水、下腿の浮腫(むくみ)が現れる。
出血傾向は、肝臓での凝固因子の生成が低下することが原因で起こる。肝硬変では、食道静脈瘤や、胃・十二指潰瘍から出血することも、多い(貧血や、黒色便が見られる)。
皮膚は、黄疸に加え、メラノーシスの為に黒色調を帯び、くも状血管拡張、手掌紅斑が見られる。肝硬変で見られる手掌紅斑は、手の辺縁部や指は、潮斑が見られるが、手の中心部は、潮斑が薄い。
血液検査の肝機能検査(AST値など肝逸脱酵素値)は、肝障害の診断(肝病変の量的変化の評価)には有用であっても、どう言う病気かの確定診断(肝硬変であると言う質的な変化の評価)には、役立たない。
肝硬変が末期になると、肝臓は線維化して、肝細胞量が少なくなるので、破壊される肝細胞量も少なく、血液中のAST(GOT)値、ALT(GPT)値は、むしろ、低下する。
肝硬変の三大死因は、肝不全、消化管出血、肝癌の合併。
アルコール性肝硬変では、肝臓に脂肪が蓄積し、他の原因による肝硬変に比して、肝臓が大きい(肝腫大)。
禁酒をすると、急速に肝腫大の程度が、軽減する。
肝硬変では、食事摂取量が減少し、亜鉛(Zn)が欠乏し易い。
肝硬変で門脈圧亢進症になると、小腸粘膜が萎縮し、小腸からの亜鉛吸収率が、低下する。
亜鉛は、血液中では、アルブミンや、α2-マクログロブリンや、アミノ酸などと結合して、輸送される。肝硬変では、肝臓でのアルブミン生成が減少する為、アルブミン結合亜鉛は減少し、また、アミノ酸結合亜鉛は増加し、尿中への亜鉛排出が増加してしまう。
亜鉛が欠乏すると、肝臓での蛋白合成速度が低下したり、尿素回路に於けるアンモニア処理能が低下したり、細胞膜が酸化し易くなり(lipid peroxidationが亢進)、細胞膜が不安定化し、肝細胞障害や肝線維症(線維の増生)が起こり易くなる。
亜鉛は、コラーゲン合成にも必要なミネラルであり、亜鉛が欠乏すると、皮膚の傷の修復が遅れ、潰瘍などを形成することもある(昔から、亜鉛華軟膏など、亜鉛は、皮膚疾患の疾患の治療に用いられて来た)。
表1 食品中の亜鉛含量(可食部100g当たりのmg含量:五訂食品成分表2005より引用)
食品名 |
Zn |
Fe |
Cu |
Ca |
P |
糸引納豆 |
1.9 |
3.3 |
0.61 |
90 |
190 |
木綿豆腐 |
0.6 |
0.9 |
0.15 |
120 |
110 |
凍り豆腐 |
5.2 |
5.8 |
0.55 |
660 |
880 |
精白米 |
0.1 |
Tr |
0.02 |
1 |
7 |
食パン市販 |
0.8 |
0.6 |
0.11 |
29 |
83 |
うどん生 |
0.3 |
0.3 |
0.08 |
18 |
49 |
ごま乾 |
5.5 |
9.6 |
1.66 |
1200 |
540 |
さんま生 |
0.8 |
1.4 |
0.11 |
32 |
180 |
まぐろ赤身生 |
0.4 |
1.1 |
0.04 |
5 |
270 |
豚ひき肉 |
2.5 |
1.1 |
0.07 |
8 |
170 |
若鶏むね皮なし |
0.7 |
0.2 |
0.03 |
4 |
200 |
若鶏もも皮なし |
2.0 |
0.7 |
0.05 |
5 |
190 |
鶏卵全卵生 |
1.3 |
1.8 |
0.08 |
51 |
180 |
牛乳生乳 |
0.4 |
0.1 |
0.01 |
130 |
110 |
プロセスチーズ |
3.2 |
0.3 |
0.08 |
630 |
730 |
たらこ生 |
3.1 |
0.6 |
0.08 |
24 |
390 |
しじみ生 |
0.42 |
5.3 |
0.42 |
130 |
86 |
牡蠣生 |
13.2 |
1.9 |
0.89 |
88 |
100 |
ほうれんそう生 |
0.7 |
2.0 |
0.11 |
49 |
47 |
肝硬変の患者は、肝臓でのグリコーゲン貯蔵量が少なく、夜間から早朝にかけて、グリコーゲン分解により、ブドウ糖を十分に血中に供給出来ないので、筋肉を異化(分解)し、アラニンなどのアミノ酸から、糖新生を行い、ブドウ糖を血中に供給する。従って、夜間、睡眠前に、軽食(200kcal程度の御握り、パン、肝疾患用経口栄養剤など)を摂取すると良いと言う。夜食を摂ると、筋肉の異化が防止されると言う。
肝硬変の患者は、食後の肝臓での糖取り込みが、減少して、食後高血糖になり易い。肝血流を確保する為、食後30分間程度、安静にして、臥床することが推奨される場合もある。肝血流量は、寝た姿勢(臥位)から立ち上がる(立位になる)と、約30%減少し、また、運動すると、約50%減少する。
非代償性肝硬変の患者は、塩分制限を行い、1日の食塩摂取量を、3〜7gに制限する。蛋白は、分岐鎖アミノ酸(BCAA)を多く含む、魚肉、鶏肉、乳類を摂取する。
高アンモニア血症を予防する為に、蛋白質制限を行うが、BCAAを含有する肝疾患用経口栄養剤で、不足するアミノ酸を補う(BCAAは、肝臓でより、骨格筋で代謝される)。
肝硬変患者は、肝臓でのアルブミン生成が低下し、低アルブミン血症になる。肝硬変になると、血液中に芳香族アミノ酸(AAA)やメチオニンが増加し、BCAAが低下する。
肝硬変患者は、高蛋白食を摂取しても、血清アルブミン値は上昇せず、むしろ、アンモニアが上昇してしまい、高蛋白食が、肝硬変の治療に、有害な場合がある(蛋白不耐症)。
肝硬変患者にBCAAを投与する(内服させる)と、同じ量の蛋白(ラクトアルブミン)を投与した場合より、食欲やQOLが改善し、肝不全など、肝硬変合併症が少ない。
BCAAは、mTOR(mammalian target of rapamycin)分子を介して、蛋白合成を促進させる。
肝硬変患者は、夜間就寝前に、軽食(late evening snack)を摂取すると、夜間の空腹時間が短縮され、夜間の蛋白合成が増加する(糖新生による筋肉の分解が抑制される)。
軽食(late evening snack)としては、簡単に調理可能で、糖質や蛋白質(アミノ酸)を含んだ食物が良い(200kcal程度の御握り、パン、肝疾患用経口栄養剤など)。
肝疾患用経口栄養剤(BCAA製剤のアミノレバンEN、へパンED)は、夜間に摂取した方が、蛋白合成が促進される。
アミノレバンENは、1包(50g)を約180mlの水又は温湯に溶かして(溶液の量は、約200mlになる)、1日3回食事と共に経口摂取する。アミノレバンEN1包(50g)には、総カロリーが約200kcal/200ml、蛋白質は、13.5g含まれている。アミノレバンENには、BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)などのアミノ酸が含まれているが、アラニンは含まれていない。アミノレバンENには、ビタミンA(パルミチン酸レチノール)、ビタミンD(エルゴカルシフェロール)、ビタミンB1(ビスベンチアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ナイアシン(ニコチン酸アミド:ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビタミンC(アスコルビン酸ナトリウム)、ビタミンE(酢酸トコフェノール)、ビオチン(ビタミンH)、ビタミンK1(フィトナジオン)、葉酸、カルシウム(グリセロリン酸カルシウム)、鉄(クエン酸第一鉄ナトリウム)、亜鉛(硫酸亜鉛)、銅(硫酸銅)なども、含まれている。
アルコール性肝硬変を疑われる症例の中には、HCV(C型肝炎ウイルス)が原因のC型肝硬変の症例もいる。日本では、肝硬変の原因は、50%がHCV(C型肝炎ウイルス)、20%がHBV(B型肝炎ウイルス)、15%がアルコール性肝硬変、残り15%が他のウイルス性肝障害、自己免疫性肝障害、代謝性肝障害と言われる。
肝硬変の死因は、46.4%が肝癌、34.4%が肝不全(肝性昏睡)、8.2%が消化管出血(食道静脈瘤破裂)と言われる。
アルコール性肝硬変(アルコール性肝炎)では、右肋骨下を押すと、肝臓が刺激され、痛みを訴えることが多い。
アルコール性肝炎や脂肪肝では、肝細胞内に、中性脂肪や水分が蓄積している。
便秘(宿便)は、腸内細菌によるアンモニアの産生や吸収を増加させ、肝硬変(肝不全)の高アンモニア血症を増悪させるので、食物繊維などを増やして、便通を良くする。
便秘を防ぐ為には、食物繊維(腸内の善玉菌を増加させ、アンモニアの産生や吸収を抑制する)の多い、納豆(蛋白質も多い)、バナナ(セロトニンも多い)、リンゴ、ヒジキ、サツマイモ、ゴボウ、カボチャ、ライムギパンなどが推奨されている。
肝硬変患者は、早朝空腹時に、安静時エネルギー消費量が増加し、糖質の燃焼率が減少し、脂質の燃焼率が増加している(蛋白質の燃焼率はほぼ変化していない)。肝硬変患者では、肝臓が萎縮し、グリコーゲン(糖質の貯蔵量が減少し、肝臓からの糖供給能が低下し、糖質より脂質をエネルギー源として利用している。
肝硬変の患者が夜食(Late Evening Snack:LES)を摂取すると、蛋白異化が抑制される。また、遊離脂肪酸やケトン体が低下する(糖新生の為の脂肪分解が抑制される)。
9.その他
・シジミ(蜆貝)は、アラニンやグルタミンなどのアミノ酸を豊富に含んでいて、肝臓でのアルコール分解を促進させる。
二日酔いの朝は、シジミの味噌汁が有効。
シジミは、塩分濃度が高い環境で育った方が、アラニンなどのアミノ酸含有量が多くなる。
シジミは、まず、塩水(1%程度の濃度)で砂抜きをする。その後、水を切って、シジミが重ならないように静置し、水を含ませた紙タオルで覆って、30分〜3時間(出来れば一昼夜)、常温(夏場は25度以下)で、空気にさらすと、シジミのアミノ酸含有量が増加する。これらの処理の後、食べきれないシジミは、冷凍保存する(6カ月程度は、味が落ちることなく保存が可能)。
シジミは、二日酔いの予防には良い食品であり、また、シジミは胆汁分泌促進作用があり、黄疸に良いと言われる。しかし、シジミは、鉄分も含んでいて、肝機能が低下している人には、健康上、良くない場合もある。
貝類のアミノ酸スコアは、シジミ(しじみ貝)は95、アサリは81であり、必須アミノ酸を比較的多く含んでいる。
・ペルオキシゾームでは、PPAR-αを介して、脂肪酸酸化酵素群の発現が誘導される(脂肪酸が燃焼・分解される)。
エタノールは、PPAR-αの発現を抑制する(脂肪酸の燃焼が抑制される)。
アルコール摂取は、中性脂肪を増加させる。
おまけ:アルコール発酵
酵母菌は、酸素が少ない嫌気状況では、アルコール発酵をするので、二酸化炭素(炭酸ガス)が発生する(注3)。
C6H12O6→2 C2H5OH+2 CO2+2 ATP
アルコール発酵では、まず、解糖により、グルコース(ブドウ糖)から、ピルビン酸(Pyruvate)とATPが生成される。
Glucose + 2 ADP + 2 Pi + 2 NAD+ → 2 Pyruvate + 2 ATP + 2 NADH2+ + 2 H2O
さらに、ピルビン酸から、ピルビン酸デカルボキシラーゼにより、アセトアルデヒドと二酸化炭素(CO2)が生成される。ピルビン酸デカルボキシラーゼは、動物にはない酵素で、チアミンニリン酸(TPP)を含む。
さら、アセトアルデヒドから、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)により、エタノール(エチルアルコール)が生成される。この反応では、NADH2+が還元に使用され、NAD+に酸化される。
アルコール発酵中の酵母菌は、出芽をし、増殖をする。
酵母菌は、リンゴ酸、酢酸、乳酸、コハク酸などの有機酸も、生産する。
酵母菌は、嫌気環境下では、せいぜい数世代しか生育することが出来ないので、本当の意味での通性嫌気性菌とは言えない。
なお、酵母菌は、酸素が多い好気状況では、呼吸をするので、ピルビン酸を、二酸化炭素と水にし、エネルギー(ATP)を生成する。
エタノールの燃焼熱は、328kcal/mol。
注1:シトクロムP450(CYP)は、ヘム蛋白質で、小胞体(microsome:ミクロソーム、ミクロゾーム、マイクロゾーム)に存在し、種々の基質をNADPHと酸素(O2)により水酸化する酵素。
シトクロムP450は、肝細胞に多く存在し、薬物代謝(生体異物の分解)に関与したり、コレステロールやステロイドホルモンの代謝に関与する。
マクロライド系の抗生物質(EM、CAMなど)は、そのN-dimethyl基が代謝され、P450のヘム鉄とニトロソアルカン複合体を形成し、P450の酵素活性を失わせる(不活性化させる)。その為、P450で代謝される薬剤(テルフェジンなど)は、マクロライド系の抗生物質と併用すると、P450による薬剤の代謝が抑制され、薬剤の消失が遅延し、副作用が生じることがある。
注2:伊東細胞(Itoh cell)は、群馬大学の伊東俊夫教授により発見された。
伊東細胞は、一般には、肝星細胞(hepatic stellate cell)と呼ばれる。伊東細胞は、脂肪貯蔵細胞(fat-storing cell)、リポサイトとも呼ばれる。伊東細胞は、Disse腔(類洞外の、類洞内皮細胞と肝細胞との間の空間)に、存在する。
伊東細胞は、肝線維芽細胞系の細胞であり、筋線維芽細胞へ分化し、膠原線維(コラーゲン)を産生する。
伊東細胞は、肝線維化、更に、肝硬変を来たす。
伊東細胞は、ビタミンA貯蔵細胞でもあり、ビタミンAを、レチノールエステルとして、貯蔵する(ビタミンAを含んだ脂肪滴を含んでいる)。
伊東細胞は、類洞の血流調節にも、関与している。
肝臓では、門脈と動脈を流れて来た血液が、網目状の類洞(sinusoid:体循環の毛細血管に相当する)で混合され、肝静脈に流れ出る。肝臓は、門脈の終末(終末門脈枝)と、肝動脈の終末が、類洞(sinusoid)を形成し、中心静脈(終末肝静脈)に流入する。
体循環の毛細血管系のように、類洞は、肝臓の微小循環系として、肝細胞との種々の物質交換(栄養素、アンモニアなど)に、関与している。
毛細血管の内径は、ほほ一様で、約10μmなのに対して、類洞の内径は、不規則で、5〜30μm(時に、40〜50μm)。
肝臓の類洞壁を構成する肝類洞壁細胞には、クッパー細胞、類洞内皮細胞、肝星細胞、Pit細胞の4種類が存在する。
類洞内皮細胞(sinusoidal endothelial cell)は、類洞に沿って扁平な形状で存在する細胞で、類洞壁を形成する。類洞内皮細胞は、一般の毛細血管内皮細胞と異なり、基底膜を有していない。類洞内皮細胞と肝細胞の間には、Disse腔(Disse space)が存在する。Disse腔では、類洞を流れて来た血液と、肝細胞との間で、種々の物質交換が行われる。肝硬変になると、類洞内皮細胞下に基底膜が出現し、類洞内皮細胞小孔が減少する。
クッパー細胞(Kupffer's cell)は、類洞腔内に、類洞内皮細胞に接着して、存在する。クッパー細胞は、骨髄由来で肝臓に遊走したマクロファージで、貪食能や抗原提示細胞機能を有する。
Pit細胞は、NK細胞と考えられ、類洞腔内に、存在する。
注3:100gのグルコース(ブドウ糖)がアルコール発酵すると、約51gのアルコールが生成され、49gの炭酸ガスが発生するという。
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http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/200607/500848.html
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