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■佐藤泰子自選展 (5月2日まで)

2009年05月01日 23時21分25秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 
 目をつむる。
 じっとしていると、茫漠とした光が、まぶたの裏をゆっくりと移動していくのがわかる。

 わたしは、それを「見て」いるのか。

 残像は、実体のあるものではないだろう。
 目を開ければ、それは跡形もなくなってしまうものだから。

 でも、たしかにそれは、見えているのだ。

 ふいに脳裡をよぎる遠い記憶。
 あるいは、風のように心の中を吹きすぎる、たいせつな人へと寄せる思い。

 それらは残像に似ていないだろうか。


 佐藤さんは1936年、空知管内雨竜町生まれ。
 女子美短大を卒業、札幌で教壇に立ちつつ、自由美術展に出品を続けてきた。
 1975年には会員推挙、2003年には自由美術賞を受賞している(自由美術は、会員も対象)。
 また、89年以降は隔年、99年から2006年までは毎年、札幌時計台ギャラリーで個展を開いてきた。

 この間、描いてきたのは、一貫して抽象画である。
 今回、同ギャラリーの2階3室すべてを使って開いた「自選展」にも、1961年の作から近作までが並ぶが、すべて抽象画だ。
 ただ、この10年ほど描いている、パステルを用いて鮮烈な色彩を表現した「さくらさくら」や「finish」の連作を先に陳列し、過去へとさかのぼる構成になっている。

 筆者もその展示の仕方に共感した。
 初めて見るC室の旧作も見ごたえがあるが、やはり真骨頂は、A・B室の作品だと思うからだ。

 明滅するフラッシュのように、あざやかな色が、綿密なストロークの中に点在する画面。
 そこには、かたちもモティーフもないのに、画家の思いが光っている。
 ちょうど残像のように。




 「さくらさくら」(2000年)
 今回、最も大きな作品で、縦は116センチ、横は390センチにもおよぶ。
 パステルとは思えないほど堅牢なマティエールと、鮮やかな色彩は、写真ではとうてい再現できない。

 はらはらと舞い、ほんの数日のうちに散ってしまう桜の花。
 それは、まさにわたしたちの記憶の破片のようであり、残像のかけらのようでもある。
 ついにことばにならない、切れ切れの思いが、画面のあちこちにちらばる光と色に、しずかにこめられているのだと思う。




 最新作「からみあう情景」(2008年)
 163.0×163.0センチ。
 こちらは一転して、沈んだ色調。しかし、鈍くかったるい発色ではない。
 雨の日を思い出させるかのようなストロークが画面を覆っている。

 彼女の絵は、ピンクや灰色のほか、白やレモンイエローなども用いられている。ときには鮮烈すぎるように感じられても、バランスはとれ、不自然さはない。
 繰り返しになるが、なにも描かれていないようで、多くのことが描かれているのだ。
 


2009年4月27日(月)-5月2日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)


以下別項。過去の展覧会のリンクも別項に)


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