2011年5月11日22時54分
東日本大震災で津波被害を受けた地域の復興策として検討される高台への集団移転。菅直人首相の強い意向を踏まえ、復興構想会議の目玉提言に位置づけられそうだが、自治体の財政負担や厳しい住民合意の条件が足かせになり、移転は簡単には進みそうにない。
宮城県気仙沼市唐桑町の舞根地区(52世帯)は44世帯が津波で流された。「みんな住む場所がなくなったのだから」と集団移転を望む声が高まり、津波の心配のない高台への移転を考えはじめた。
安全な土地への移転に国が補助金を出す「防災集団移転促進事業」を知り、住民たちは避難所で話し合いを重ねた。先月24日、事業を使って移転を目指すことで合意。ところが、リーダーの畠山孝則さん(66)は気仙沼市の担当者から「市内の他の地区で事業に参加するところが増えたら厳しい」と言われた。
同事業では移転先の造成費などの4分の3は国が出すが、残り4分の1は市町村が負担する。2001年の有珠山噴火後、152戸が移転した北海道虻田町(当時)では町の負担が8900万円にのぼった。今回の震災の被災規模は桁違いで、集団移転が増えれば市の負担は膨らむ。宮城県は「国が全額補助しないと成り立たない」と制度改正を求めている。
財源問題が解決しても、住民合意の壁が立ちはだかる。20世帯を超える住民が事業を利用するには、その半数以上が集団移転に合意する必要がある。
宮城県南三陸町歌津の伊里前地区(約410世帯)は約270世帯が流失。千葉正海さん(55)は「仲間と一緒に住み、『昔は下さ家あったんだ』と言える歴史を作る」と高台移転への意欲を語るが、住民は散り散りになって話し合いすらままならない。
震災から2カ月、宮城県内で合意が確認されているのは舞根地区だけで、規模の大きい集落は軒並み難航している。(山本奈朱香、田伏潤)
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菅政権は高台移転を促す仕組みとして、防災集団移転促進事業に期待を寄せる一方、広い地域が被害に遭った東日本大震災に現行制度が対応できていないとみて改善策を検討し始めた。
内閣府に設けた被災者生活支援チームは、国負担分の大幅引き上げのほか、小集落の移転を可能にするため、10世帯以上としている規模の条件を緩和することを検討している。
首相の諮問機関「復興構想会議」も関心を持ち始めた。五百旗頭真議長は「この事業は非常に足りないものがある」と明言した。
メンバーの達増拓也・岩手県知事は、被災前の価格で国が宅地をまとめて買い取って集団移転しやすくすることを提案。7日、同県陸前高田市を訪れた五百旗頭氏も「そのようなことは当然なされなければいけない」と同調し、首相への提言に盛り込む考えを強くにじませた。(津阪直樹)