放射線量、福島第1周辺地域以外は健康心配不要
34道府県、平常値の範囲を超えず
東京電力福島第1原子力発電所の事故に伴い、放射性物質の影響を心配する人が多い。文部科学省が公表している全都道府県の放射線量の測定結果をみると、東北や関東の一部で平常値を超えているものの、健康被害につながる水準を下回り、4月以降は緩やかな減少か横ばいの傾向が続いている。34の道府県は事故後、線量が平常値の範囲を一度も超えていない。日本のほとんどの地域では健康についての心配は不要だ。
文科省は47都道府県のそれぞれ1地点で測定したデータを集計し、3月15日からウェブサイト(http://www.mext.go.jp/)で公表している。4月21~28日の1週間で記録した放射線量の最大値をみると、平常値の範囲を超えているのは福島、茨城、宮城、栃木、埼玉、千葉の6県だ。
このうち福島の数値は毎時1.9マイクロ(マイクロは1000分の1ミリ)シーベルトと突出しており、平常時の50倍近い値になっている。次に高い茨城は毎時0.131マイクロシーベルト。茨城の平常値に比べれば3倍弱だが、山口の平常値が最大で毎時0.128マイクロシーベルトということを考えると、異常というほどの数字ではない。山口をはじめ、西日本には地質の影響で普段から線量の高い県が多いことが知られる。宮城、栃木、埼玉、千葉の4県の数値はいずれも毎時0.1マイクロシーベルト以下だ。
こうしたことから、福島以外の都道府県では、線量は気にするような値ではないといえそうだ。そもそも近畿以西や北陸、北海道などの34道府県では福島第1原発の事故後、線量が平常値の範囲を一度も超えていない。
東北や関東の放射線量は、福島第1原発で水素爆発が相次いだ直後の3月15~16日ごろがピークだった。関東の一部では雨の影響で3月21~22日にかけて線量がわずかに増加したが、その後はどの地域でも減少傾向が続いている。新たな放射性物質の大量放出が起きていないうえ、半減期の短い放射性ヨウ素が徐々に減っていることが要因と考えられる。
一般の人が浴びてもよい放射線量の基準値は、自然の放射線や医療用エックス線などを除いて年間1ミリシーベルトまでとされる。ただ、実際に健康被害が生じる線量は基準よりもずっと多く、一度に浴びた場合でも100ミリシーベルト以下なら健康への影響は認められない。
仮に放射線量が「毎時11.4マイクロシーベルト」の場所に1年間ずっと滞在したとすると、浴びる線量は年間で約100ミリシーベルトになる。文科省が調べた47都道府県の数値はこの値を下回っている。また屋内にいれば放射線量は屋外の2分の1~10分の1程度まで下がる。大気中の放射線を気にして特別に何か対策を取る必要もない。
ただ、福島県内ではより放射線量の高い地域がある。特に福島第1原発の北西では線量が高く、4月28日に原発から約30キロメートル離れた浪江町で毎時17.9マイクロシーベルト、飯舘村で同9.5マイクロシーベルトなどを記録した地点があった。こうした地域はこれまでの積算の放射線量による影響が無視できなくなってきたことから「計画的避難区域」に指定された。
文科省は福島県内での測定地点を増やすなど、観測体制を強化している。測定結果は毎日ウェブサイトで公表している。
観測地点 | 4月21日午後2時~28日午後2時の間の最高値 | 過去の平常値の上限 | 福島第1原発事故後の最大値と測定日(※) |
---|---|---|---|
北海道(札幌市) | 0.040 | 0.105 | - |
青森県(青森市) | 0.037 | 0.102 | - |
岩手県(盛岡市) | 0.042 | 0.084 | - |
宮城県(仙台市) | 0.086 | 0.051 | 0.199(3/15) |
秋田県(秋田市) | 0.050 | 0.086 | - |
山形県(山形市) | 0.060 | 0.082 | 0.129(3/20) |
福島県(福島市) | 1.9 | 0.046 | 19(3/16) |
茨城県(水戸市) | 0.131 | 0.056 | 1.035(3/16) |
栃木県(宇都宮市) | 0.070 | 0.067 | 1.318(3/15) |
群馬県(前橋市) | 0.045 | 0.049 | 0.562(3/15) |
埼玉県(さいたま市) | 0.065 | 0.060 | 1.222(3/15) |
千葉県(市原市) | 0.052 | 0.044 | 0.313(3/15) |
東京都(新宿区) | 0.073 | 0.079 | 0.809(3/15) |
神奈川県(茅ヶ崎市) | 0.059 | 0.069 | 0.182(3/15) |
新潟県(新潟市) | 0.062 | 0.153 | - |
富山県(射水市) | 0.067 | 0.147 | - |
石川県(金沢市) | 0.060 | 0.127 | - |
福井県(福井市) | 0.059 | 0.097 | - |
山梨県(甲府市) | 0.052 | 0.066 | 0.069(3/15) |
長野県(長野市) | 0.060 | 0.097 | 0.107(3/15) |
岐阜県(各務原市) | 0.070 | 0.110 | - |
静岡県(静岡市) | 0.049 | 0.076 | 0.089(3/15) |
愛知県(名古屋市) | 0.049 | 0.074 | - |
三重県(四日市市) | 0.063 | 0.078 | - |
滋賀県(大津市) | 0.049 | 0.061 | - |
京都府(京都市) | 0.054 | 0.087 | - |
大阪府(大阪市) | 0.052 | 0.061 | - |
兵庫県(神戸市) | 0.049 | 0.076 | - |
奈良県(奈良市) | 0.061 | 0.080 | - |
和歌山県(和歌山市) | 0.047 | 0.056 | - |
鳥取県(東伯郡) | 0.083 | 0.110 | - |
島根県(松江市) | 0.077 | 0.131 | - |
岡山県(岡山市) | 0.067 | 0.104 | - |
広島県(広島市) | 0.057 | 0.069 | - |
山口県(山口市) | 0.108 | 0.128 | - |
徳島県(徳島市) | 0.050 | 0.067 | - |
香川県(高松市) | 0.075 | 0.077 | - |
愛媛県(松山市) | 0.059 | 0.074 | - |
高知県(高知市) | 0.037 | 0.054 | - |
福岡県(太宰府市) | 0.049 | 0.079 | - |
佐賀県(佐賀市) | 0.060 | 0.086 | - |
長崎県(大村市) | 0.045 | 0.069 | - |
熊本県(宇土市) | 0.038 | 0.067 | - |
大分県(大分市) | 0.062 | 0.085 | - |
宮崎県(宮崎市) | 0.040 | 0.066 | - |
鹿児島県(鹿児島市) | 0.051 | 0.094 | - |
沖縄県(うるま市) | 0.036 | 0.057 | - |
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