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継続的にサービスを続けられるビジネスモデルを模索
北海道大学・ツルハ:ICTを活用した遠隔健康相談の実証実験を実施

2010/12/28
増田克喜

 北海道大学大学院保健科学研究院とドラッグストアを全国展開するツルハ(本社札幌市)は、ネットワーク経由で遠隔健康相談を行う「Health Network System」(HNS)の実証実験を実施している。シスコシステムズの遠隔医療技術プラットフォームである「Cisco HealthPresence」とコンティニュア対応全自動血圧計などを利用して、同大学保健科学研究院の相談員がツルハドラッグを訪れた顧客に対して健康相談を実施。両者は、実証実験を続けながらビジネスモデルを模索している。
 


 

 全国的な地域医療の崩壊が社会問題となる中で、その要因の1つに医療資源の地域偏在が挙げられる。特にその傾向が顕著な北海道では、医療者だけでなく保健・福祉に関する資源も都市部に集中している。

●保健師などによる遠隔相談で健康維持・増進活動の可能性を探る

北大保健科学研究院教授の小笠原克彦氏

 そうした問題に対応する1つの方法として、北海道大学大学院保健科学研究院(以下、北大保健科学研究院)を中心に、Health Network Systemプロジェクトが進められている。ICTを活用することで、都市部に集中する保健・医療資源を地方で有効活用する試みである。調剤薬局を併設するドラッグストアに遠隔健康相談端末を置いて、北大保健科学研究院の保健師・助産師・看護師が相談員となり、相談者(地域住民)の健康相談に対応する。相談内容は、診察・診断行為に関わらない未病対策と、健康維持・健康増進のための保健相談に絞り込む。

 HNSプロジェクトを推進する北大保健科学研究院教授の小笠原克彦氏は、実証実験の主な目的として以下の5つを挙げている。(1)最先端のセキュリティ技術と高速ブロードバンドを活用した遠隔健康相談の可能性の検討、(2)遠隔健康相談のためのシステム・相談方法の開発と医療・介護への展開の可能性の検討、(3)健康相談に関する物理的・心理的なアクセスの分析、(4)地域住民の健康維持や健康増進意識の変化探索を目的にドラッグストアチェーンの店舗網を相談スポットとして活用する可能性の検討、(5)出産・育児などで離職した保健師や看護師の人的資源の有効活用、である。

ツルハの取締役常務執行役員・調剤運営本部長 後藤輝明氏

 「調剤薬局の薬剤師と保健師・助産師・病棟経験のある看護師などが協力して健康相談にあたることで、ネットワーク経由であっても、地域住民は安心してヘルスケアに関するアドバイスを受けられるのではと考えました。加えて、インターネットなどにより医療情報が氾濫している中で地域住民がそれらを適切に選択できような助言や、受診を希望する相談者に対して、どこにどのような病院・診療科があるといったコンシェルジュ的な役割も果たせます」(小笠原氏)とプロジェクトの意義を述べる。

 一方、相談者のアクセスポイントとしてプロジェクトに参加したドラッグストアチェーンのツルハドラッグを運営するツルハの取締役常務執行役員・調剤運営本部長 後藤輝明氏は、参画した目的・意義を次のように述べる。

 「一般用医薬品(OTC)、化粧品、日用雑貨などで同質化した競争になっているドラッグストア業界で、当社は『お客様の生活に豊かさと余裕を提供する』という理念を掲げ、健康を切り口に、調剤部門の併設をはじめ、さまざまな取り組みを展開しています。遠隔健康相談の一翼を担うことは、地域住民のセルフメディケーションの意識向上はもとより、会社理念に合致するプロジェクトです。しかも、新たなビジネスモデルを作れる可能性もあります」。

 日常業務の中で、薬剤師は調剤や服薬指導などで多忙を極めており、顧客の健康相談や食生活指導などに関わることはできないのが実状。「お客様が食事や生活改善のために話を聞きたいと思っても、薬剤師は十分な時間を割くことができません。来店した際に保健師や看護師が遠隔で相談を受けてくれれば、有益な健康相談が可能になります」(後藤氏)。

●対面相談に限りなく近い環境を実現するシステムを選定

 小笠原氏は、遠隔健康相談システムの開発にあたって、システム要件としてネットワーク遅延がないことと、映像のクオリティの高さを挙げたという。「遅延があるとコミュニケーションの阻害になり、ストレスを感じて会話が成立しなくなります。従って、実際の面談に限りなく近いスムーズな伝送環境が必要と考えました。また、健康相談を行う上で、相談者の顔色や表情は貴重な情報ですから、画質の高さも重要な要件です」(小笠原氏)。さらに、相談員が機器操作を簡単にできることはもちろん、高齢な相談者も多いと考えられるため、簡単な操作で利用できることも重要視した。

 こうした要件で実証実験に採用されたシステムが、シスコシステムズの「Cisco HealthPresence」だ。同システムは、テレプレゼンスと呼ばれるテレビ会議システムと、ユニファイドコミュニケーションの技術を融合した遠隔医療技術プラットフォーム。フルハイビジョンクラスの高画質動画、クリアな音声、ネットワーク接続された医療・健康機器などを通じて、双方向のコミュニケーションとコラボレーションを可能にするシステムである。

シスコシステムズの「Cisco HealthPresence」を設置したブース内部の様子(ツルハドラッグ元町駅前店で撮影)

 

 店舗側(相談者側)には、フルハイビジョン対応カメラが付属した37インチ大型ディスプレイとIP電話、映像・音声データなどを符号化・復号化するコーデック機器で構成される基本ユニットを置く。さらに、デジタル血圧計や患部などを撮影するハンディカメラ、プリンター、これらを制御するPCが接続されたシステムも設置する。

 一方、相談を受ける側の北大保健科学研究院の遠隔健康相談室と、血圧計やハンディカメラを除いた同様のシステムが設置されている。システムはインターネットともつながっており、Web画面や血圧計で測定したデータを取り込むアプリケーション画面をメイン画面にインサートし、相談者と相談員が情報を共有しながら会話できる。なお、店舗側のシステムは、相談者のプライバシーを考慮し、全面が囲われたボックス型の相談ブース内に設置している。

 実験開始当初は、オムロンの上腕式全自動血圧計「HEM-1040」とパナソニックのヘルスケア向けタブレット型モバイルPC「タフブック CF-H1」をUSBで接続していた。現在は、コンティニュア規格に対応したエー・アンド・デイの全自動血圧計「診之助(TM-2656VPW)」に変更し、コンティニュア規格対応のCF-H1にBluetoothでデータを転送している。コンティニュア対応血圧計にしたことによるメリットを、シスコシステムズのシステムエンジニアリング&テクノロジー公共・医療担当ソリューションズアーキテクト 岩丸宏明氏は次のように指摘する。
 

「Health Network System」の概要

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