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クラウドについての「所有から使用へ」という説明の本当の意味

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「所有」から「使用」へ

クラウド・コンピューティングの説明としてよく使われる表現です。しかし、この説明を「システム資源を調達する手段が変わること」程度にしか受け取っていないとしたら、その本質を見誤ることになります。

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少し考えて欲しいのですが、私たちは電気を使うために発電機を所有しているでしょうか。電気のないキャンプ場や山間の工事現場は別として、私たちは発電機などを所有しなくても電気を使うことができます。私たちは、もはやそれが当たり前のこととして受けとめています。しかし、工場で電気が使われるようになった20世紀初頭は、そうではありませんでした。いまのような安定した電源を手に入れるためには、発電機を所有しなければならなかったのです。それには、大きな初期投資を必要とし、維持管理にも多大なコストをかけなければならなかったのです。

昔の工場も、いまの私たちも必要なのは「電気」です。その電気を使うために発電機を所有しなければならなかったら、そうするしかありません。しかし、いま私たちは、コンセントにプラグを差すだけで電気を使えるようになり、発電機を持つ必要がなくなりました。

この「発電機」を「システム資源(コンピューターや記憶装置など)」に置き換え、「電気」を「サービス(計算能力や記憶容量など)」に置き換えたらどうなるでしょうか。つまり、「システム資源を所有せずにサービスを直接手に入れることができる仕組み」が、クラウド・コンピューティングということになるのです。「サービス」を「所有」を伴わずに手に入れることができる仕組みとも言えます。

私たちは、目的のために手段を必要とします。だから、私たちは「サービス」という目的のために「システム資源を所有する」という手段が必要だったわけですが、もっと手軽で安価な手段が登場すれば、そちらに移ろうとするのがユーザーの心理なのです。

しかし、「手段」が確立し社会に浸透すると「何の必要のためにこの手段が必要なのか」という「目的」がかすれてしまい、その手段を守ることに執着してしまう人たちが登場することはしばしばあるものです。例えば、産業革命期に起こった熟練工による機械打ちこわし運動(ラダイト運動)は、その典型です。この運動は、繊維工業が手作業から機械生産にシフトして行く中、多くの手工業職人は失業しなければならならず、それへの反発から起こったとされています。

このような過激な運動ではありませんが、システム資源を構築し所有することを前提としたビジネスを長年続けてきたSI事業者や情報システム部門がクラウドへの対応に逡巡しているのも、目的化した手段にこだわり続けているからだと言えるのではないでしょうか。しかし、より便利で経済的なところへ向かう流れは水の流れのごとく逆転することはできません。その流れにうまく乗っていくしかないのです。

「使用」から「所有」へという流れは、決して企業情報システムにだけ言えることではありません。例えば、Airbnb は、個人所有の住宅を宿泊施設として貸し出すサービスで、192カ国の33,000の都市で80万以上の宿を提供しています。また、UBERは、個人所有の自動車をタクシーとして配車するサービスで世界54カ国、250都市以上でサービスを展開しています。

これまでは、ホテルであれば、宿泊のための設備や従業員を所有しなければなりませんし、タクシー会社なら自動車を「所有」しなければなりませんでした。しかし、「使用」を前提に考えれば、個人の持ち物を「シェアする(共用)」することで、目的とするサービスを手に入れることができます。宿泊施設や自動車だけではなく、普段使わないモノを貸し出したり、自分の仕事の合間に空いた時間を提供したりといったモノやコトをシェアすることで成り立つ経済を「シェアリング・エコノミー」と言います。

ただ、自分の所有物でない以上、シェアのルールに従い利用しなければならないわけで、これは所有することとは勝手が違います。様々な制約や使い勝手の悪さもあります。しかし、それを割り切り工夫すれば、安いコストでこれまで以上のサービスを手に入れることができるのです。その便利が不便を上回ったとき、この流れは大きな勢いして世の中を変えてゆくことになるのです。

クラウド・コンピューティングもシステム資源をシェアして共同利用する仕組みと捉えることもできます。そして、便利が不便を越える大きな変化の節目を向かえつつあるのです。

インターネット隅々までいきわたり、モバイルやIoTの普及によって人やモノは常につながり、いまの状態を簡単に把握できるようになりました。このような社会基盤が出来上がったことが、「シェアリング・エコノミー」を成り立たせているのです。クラウド・コンピューティングは、そんな「シェアリング・エコノミー」のひとつのカタチとして、コンピュータの計算能力や記憶容量、プログラムの開発環境や実行基盤、さらには業務アプリケーションをシェアし「使用」することで、本来の目的であるサービスを提供する手段として、その存在感を高めつつあるのです。当然、そこにふさわしいビジネスのあり方は、「所有」とは異なることは当然のことなのです

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【ビジネス戦略版】(67ページ)
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目次

  • 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
  • 第1章 クラウドコンピューティング
  • 第2章 モバイルとウェアラブル
  • 第3章 ITインフラ
  • 第4章 IoTとビッグデータ
  • 第5章 スマートマシン

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