上位の批判的レビュー
5つ星のうち1.0「火花」の比較対象には成り得ない
2015年8月29日に日本でレビュー済み
先日火花を読み終えてから、昔のことを思い出した。ポプラ社と齋藤氏が行っていた会見である。当時テレビで見た記者会見では、斎藤氏やポプラ社の関係者が真剣な表情で「斉藤氏の受賞は偶然。作品を評価したら水嶋ヒロだった」と訴えていたことを思い出した。5年前に立ち読みで数ページ読んだ時点で「これは。。。」と思ったが、火花が楽しめたので「ひょっとするとKAGEROUにも読むに値する何かがあるのでは」と思ったら買うしかなかった。
アマゾンで中古本を発注。数日後届いた本書の装丁は傷一つなく新品に見まがうほど綺麗で以前の持ち主がとても大事にしていたのだと思う。
20ページ読んだ頃には全てを悟ったがそれでも全部読むことにこだわった。そして人生で初めて本を読む苦痛を味わった。一体これはなんなのか。なんだというのか。あまりの不出来に動揺した。すでに過去のレビューで言われている内容と同じかもしれないがそれでも言わせてもらう。 知識が浅い、文章力が低い、何より思想がない。「命」を真剣に考えているかもしれないが、深くは考えていないことがこれほどまで顕著に出る本は他にあるまい。新聞や雑誌で書いてある情報と筆者の思い付きをつぎはぎにしてストーリーを構成している。
「...全部で百社近く回ったんじゃないかな?見事に全部落ちたね。落とされるたびにおまえは誰からも必要とされない人間なんだって言われているような気がしてさ。」
リーマンショック時の就活生インタビュー記事をコピペしたかのような、深みのない文章である。
「ヤスオはホカホカの牛丼をまるで練習を終えた野球部員のようにガツガツと口に運んでいた。」
こんな情けない表現がところせましと並ぶ。
「もう一度あの「クソ長い階段」を下りて別の場所を探しに行くことなど考えただけでも気が滅入る。」
ハードボイルドっぽさを出そうとしたのか、見ているこっちが恥ずかしくなる。
それにしても役者という稀有な経験を積んだ著者が、何故ここまで浅はかな小説を書くのか。「斎藤」という肩書きにこだわり水嶋ヒロという立場を除外して執筆したからだろうか。俳優という仕事をテーマにして命を書けばもっと説得力のある本が書けただろう。「火花」は芸人をテーマに執筆しており、又吉氏がもつすべてをぶつけていた。だからこそ芥川賞受賞は別にしても賛否分かれて評価される部分があるのだろう。ビジネスマンの自殺を書くならせめて取材してきた方がいい。移植についても死ぬ気で調べた方がいい。人間はハンドルで動くぜんまい人形ではない。
もしこのレビューを見てくださった方が火花受賞で「KAGEROU」を思い出し、読もうとしているならやめた方がいい。そうでなくても止めた方がいい。愚にもつかないギャグと、およそ思いつきにすぎない安いSFを見せられるだけである。
「哀切かつ峻烈な「命」の物語」と評したコピーライターはどんな気持ちで書いたのか。重要なシーンで「僕は死にませ~ん」等とギャグを放つ本どんな命の物語があるというのか。
そして編集はなぜこんな本に賞を与えたのか。本当に色いろ泣けてくる。