【コラム】余った博士やポスドクはどうするべきか?

折角なので、余った博士はどうするべきかについて意見を書いておきます。

ここでは研究事務、機器管理、技術の維持継承、広報、特許、産業移転、などが挙げられており、実現性はともかく中学高校の教師もこれに含まれるでしょう。
http://d.hatena.ne.jp/sivad/20101121/p1#c

しかし、日本の国家予算が困窮している今、上記のような仕事に対して給与を出す余裕は全くありません。あるとしたら、既存の人をクビにする必要があり、政治的に不可能です。

そもそもなんで博士が余るようになったかの事情は先で紹介されている本に詳しく書かれているそうですが、大まかな流れはここでもわかります。
http://d.hatena.ne.jp/sivad/20091115/p1

その引用先で下記のように書かれています。
“ある有名繊維系大企業の幹部で、自身も博士号を持つ某氏は科学技術基本法に関わる講演会で、「日本では構造改革が必須であり、大企業は2000万人規模のリストラを行う必要がある。そこで博士号を取得した大学院生たちが起こしたヴェンチャーによって今後10年間、毎年200万人程度の雇用を創出する」と述べておられた。
(中略)
ヴェンチャーを担う人材については「そして次代を担う若者には、学歴や肩書きへの意識に捕らわれず、新しいヴェンチャーに飛び込む気概を見せて欲しいと思う」と言われているだけである。“


恐らくこれに近い文面が予算を請求するときに盛り込まれていたと思われます。まさか、アメリカの外圧がきついので導入しましたとは書かないでしょうから。
しかし、現実にはどうでしょうか?

ヴェンチャーなどほとんど立ち上がっていません。みんながアカデミックポストに就けることだけを想定して研究していました。それは教える方もそうです。

私も省益のために予算を獲得するための詭弁だろうと思っていました。
しかし、一番最初にこの意見を言った人は実はそうではないのではないかと最近思い始めました。

今、日本の成長率、競争力は急激に落ちています。そして、日本には資源も、自給出来るだけの作物も安い労働力もありません。あるのは技術だけです。

自分が総理大臣になったら、そういうときにどうするか。
やっぱり、技術を上げる政策を取るはずです。
よって、ポスドク1万人計画は別にアメリカの外圧がなくても、いつかは取られていた政策の可能性があります。その場合、生産性を上げるのが目的ですからもちろん今と同様アカポスを増やすなんて事はしないでしょう。

そして、その引用先ではこのようにあります。
http://skasuga.talktank.net/diary/archives/55.html
「もちろん、余剰博士自身の努力は必要で、過度な競争社会に突入してしまった世界情勢の中で余剰博士にだけ救世主が顕れるなどということはあり得ないだろう。」

ここでも、そうだけど、だいたいどこの意見でもさらっと流されているのが、余剰博士自身の努力は必要って部分。それでいて、何故か、国が何とかしろという論調のものが多い。


そもそも研究職にとって最も幸せなポジションってどこかというと、実は教授ではありません。好きな分野の研究ができて、アカハラのないボスのところで教育指導をする必要もないポスドクをすることです。さらに言うと、別にポスドクである必要すらありません。日本には研究生というお金を貰わなければ、払わなくても良い、働く時間もフレキシブルな研究が出来る立場が既にあります。何も制度を変える必要は全くありません。問題は、ポスドクにしろ、研究生にしろ、老後も生活出来るだけの収入が得られるかどうかだけなんです。


博士は日本の企業に雇って貰えないと言います。コミュニケーションに問題があるとか、周りに合わせることができないとか色々言われますが、そんなことはどうでも良い時代になっています。
大企業に勤めたところで、社畜の度合いは強くなり、あるのは会社のブランド名だけ。
アカポスを含め、公務員もそのうち給与はどんどん減ってくるでしょう。頭数も減ってくるのでその分雑用と感じている仕事も増え、研究どころではなくなってくるはずです。
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51776931.html

だいたい普通の博士のスペックってこんなものですよね。
英語を読むことが出来て、留学していれば海外の文化や考え方もある程度理解している。
サイエンスをしていたわけだから論理的に考える力は人並み以上であり、実験の経験からどれだけリスクを取れば、どれだけ失敗するかといった小さな経験も積んでいるわけです。

企業が雇ってくれないからという理由で、コミュ力不足、社会人失格みたいな雰囲気があって自信喪失しているような感じがありますが、実は超ハイスペックであることに代わりはありません。ニートの人にこれだけのスキルと経験を身につけるのにどれだけの努力が必要でしょうか。

まさにスタートアップするのに最も適したスペックと言っても過言ではありません。
しかし、磯崎さんの言うように10億、100億といった商売を狙う必要はありません。
だって、最終的な目標は本当のサイエンスをすることですから。

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと

アニマルスピリッツで生活出来るだけのお金は自分で稼いで、余った時間を研究に捧げる。
今の余った博士達が、今の時代に目指すべきはこういったポジションだと思います。

どうやって稼ぐのか?
すでに資格を持っている人はMDとして働く、薬剤師として働く。
家業を継ぐといった比較的簡単なものから。情報商材を作って売る。
英語の発音の教師を目指す(指導は夜が多いので昼間は時間が取れます)。
研究で使っていた技術がすぐ医療の特殊な検査に使えるならそれで会社を立ち上げても良いでしょう。
iPhoneアプリを開発して売る。個人輸入してヤフオクで売って儲ける(年間300万から3000万はいけます。)欧米で売られているけど、日本で売られていないブランドなんていくらでもありますからね。

そのためにも、できるだけポスドクをする。その代わり、空いた時間にこつこつと事業の準備をしておく。それくらいのリスクマネージメントはやっておくべきでしょう。


アメリカの大学院生は基本的に給与を貰って実験をしています。一方、日本は授業料を払って実験しています。地方大学の普通の教室にはポスドクなんていませんから、そういった若者の力が日本の科学を支えてきたわけです。しかし、これからの時代、そういった若者も減ってくるでしょう。まず、少子高齢化があります。また、医学部は新しい研修制度のせいで基礎研究をする医師は激減しています。最近のポスドク事情からnon MDの人も就職を優先する傾向があるでしょう。困るのは教授です。若者は入ってこない。スタッフの数は減らされて雑用は増えます。


これからの日本はお金を貰わずに研究をする人が研究業務を支えていく時代になっていくべきではないでしょうか。そういった人達はキャリアアップが目的ではありませんから、ゲームに参加する必要もありません。純粋なサイエンスだけを追究出来ます。教授は経験豊富な人が研究業務を進めてくれるのでwelcomeでしょう。
もちろん、お金を貰えず、キャリアアップも出来ないなら研究はしないという人もたくさんいるでしょう。でも、そんな風にお金やキャリアアップが目的ならゲームに参加すれば良いんです。ゲームに参加せずにキャリアアップすることは不可能ではないですよ。日本のビックラボで働いて強力なコネを作っておくとか、最もホットな分野で研究するとかすれば可能ですが、それ以外では十分な研究機器の揃った大きなラボを作ろうと思ったらほぼ不可能でしょう。

会社に入っても、公務員になっても、アカポスになっても将来は絶望的ですが、人件費は減らされても恐らく研究費だけは微減で済むはずです。日本には技術しかないと思っている人が多いからです。

また、アニマルスピリッツを発揮する人が増えることがきっと横のつながりも強くすると信じています。何故なら、別に自分の縄張りを守る必要もないからです。

純粋なサイエンスが存在するのは日本だけだと書きましたが、それを守るためにはこういったアプローチを取るしかないと思うわけです。