就活エリートの迷走 (ちくま新書)就活エリートの迷走 (ちくま新書)
著者:豊田 義博
筑摩書房(2010-12-08)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

池田信夫氏のこのエントリーが話題になっている。

大学生が多すぎる

就職難の原因として、大学生が急増しており、しかも彼らは中堅・中小企業を志望しない。プライドだけ高くなった学生が多すぎる。

かなり端折って要約すると、そんな感じ?

うん、仰っていることはほぼ同意。まさに、私が『就活格差』(中経出版)や最新作『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)で指摘した内容である。

少しだけ、ツッコミというか、フォローを入れると、引用されているリクルートのワークス求人倍率調査は現在は2月に実施されており、就活生が大手企業を本格的に受け始める時期であり、選考が本格化する前である。

5月くらいまでに大手企業や人気企業を受け、上手くいかない人はひと通り落ち、中堅・中小企業を受けるかという流れになる。疲れてこの時点でやめてしまう人も多いのだけど。

『「若者はかわいそう」論のウソ』(海老原嗣生 扶桑社新書)で紹介されているように、大企業に就職出来る学生は求人が少ない時期で約4万人、多い時期で10万人(ただ、これは2008年ころの、金融機関などの求人が突出して多かった時期である)。これまた求人数にもよるが、結局25万人〜30万人の学生は中堅・中小企業に就職している。

また、池田信夫氏は
「大卒=大企業ホワイトカラー」という図式は崩れ、昔でいえば高卒の仕事しかないのに、それをいやがるから就職できないのです。

と仰っているが、「高卒の仕事」(という表現はどうかと思うけど)も少なくなっていることは、日本の雇用が直面している課題である。為替のレートや、海外戦略の強化などで、高卒の受け皿だった工場は海外移転が加速してしまった。

そして、日本に残された正社員の仕事は、コミュニケーションが出来ること、チームで働けること、厳しい環境に耐えられること、スピーディーに出来ることなど、求められることがどんどん高度化しているのである。

まぁ、中国、韓国の例でもそうだが、大学の数が増えると出口の混乱は起こるのである。韓国の大卒正規職就職率は08年で48.0%、全体でも68.9%だ。中国では来年、758万人の学生が卒業すると言われている。さて、国内でどこまで就職できるのだろう・・・?上海で聞いた「結婚するまでに就職できればいいと思っているんですよ」という意見は目からウロコだったけど。

「大卒は大手企業に正社員でホワイトカラーで入社できる」
と考えること自体が崩壊しているのだが、みんな信じている。

私の女子大の教え子たちも、講義が始まったばかりの頃は
「大企業で、一般職で、事務をしたい。将来は結婚したい」
という。
現在の日本の現実は・・・?
もちろん、講義を通じて目覚めていくのだが。



相変わらず、日々、就活をめぐる報道が加熱している。就活に関するデモも起こった。卒業後3年は新卒にせよという提案や、採用時期についての議論も起こっている。留学生採用も盛り上がりを見せつつある(実態については書きたいことがいっぱいあるけど、それはまた今度)。

就活は学生とその親、大学、企業、就職情報会社、国や地域など、関係する当事者が多く、いつも収拾がつかなくなる。

そして、合理的な意見から、感情論までが入り乱れる。建前と本音が交差する。立派そうな提案が、実は企業の採用戦略以外のなにものでもなかったり。

商社を始めとする採用時期の見直しについても、関係者からは熱い想いも聞こえてくるが、「企業や業界の取り組み」であり、「採用戦略」の側面があることも理解しなければならない。結局、学業を阻害する可能性は高いし、就活の早期化・長期化是正には必ずしもつながらない。これは朝日新聞ジンジュールの連載などで書いたので、参照して頂きたい。

この件に関して言うと、HRプロが大変興味深いデータをまとめてくれた。うん、別に時期を変えても学生は救われないよね。

一方、商社は経団連を通じ、他業界にも賛同を呼びかけているし、他業界が揃わない場合は見直すと言っている。まぁ、私は前述したように、就活の早期化・長期化是正にはつながらないと思うのだが、別に採用戦略なんだから、他業界が従わなくてもやればいいだろう。

そもそも、新卒一括採用は制度ではなく、慣行である。その中での横並びがいけないのだと思ったり。うん、人事担当者にしろ、そもそも日本の会社員にしろ、前を向かず、横を向く人が多すぎる。

ライフネット生命が採用資格を30歳までの未経験者にすることが話題になった。この会社の取り組みは、愛と合理性、そして透明感があり評価できるが、これも「採用戦略」であることは意識しておきたい。別に、未内定の既卒者を誰でも救済する施策ではないことは理解しておきたい。


そんな中、私は今日も合説で講演をする。最近は毎日のように講演している。今年の就活生はどうだろうか。一言では言えない。層別に違う。大学によっても差があるな。同じ大学群の中でも違う。

危機感があることは間違いない。大学1年のときにリーマンショックという張り手を食らっている。大学に楽勝で入ったとしても、別に大学を出ても付加価値が上がるとは限らないし、ましてや就活が上手くいかない先輩たちをみていて、大学を出たからと言って就職が約束される時代ではないのだ。そりゃあ、危機感は持つだろう。

ただ、会っていると、昨年同時期よりもさらに、考えが幼稚で行動が雑だと感じることが多いんだな。うーん。


この就職難や、就活の早期化・長期化。肥大化により、新卒一括採用をやめろ、就活はけしからん、学生に勉強させろという議論は起こるわけだ。あるいは、世代間格差が指摘され、上の世代の既得権が批判されている。解雇規制緩和に関する議論が起こったりもする。


いつも現場で学生や大学関係者、人事担当者と会っている立場から言うと…。


「それで、学生は救われるのか?」
私の最大の疑問はここなんだよなぁ。


新卒一括採用を廃止しても、採用時期を遅くしても、学生は救われるんだろうか?雇用は増えるんだろうか?就活の早期化・長期化・肥大化はとまるんだろうか?学生は勉強するんだろうか?解雇規制緩和をしたところで、今の学生は採用されるんだろうか?


企業の求める人材の神様スペック化は止まらない。まぁ、一部見直しがあるけど。正直、学生に期待する要素は高くなっている。一方、バーを下げたところで学生は救われるかなぁ?


で、「勉強をさせろ!」と勉強する権利が主張されているけど、別の意味で「勉強させる」ということを学生に課すべきかな。日本は世界でトップクラスの「大学に入りやすくて出やすい国」となってしまったのだから。大学のあり方や勉強のさせ方は議論するべきなんだけど。もっとも、大学全入時代といいつつ、この言葉はプロモーション用の言葉で大学に行けない人、そして構造的に高卒の就職先がないことはもっと問題にするべきなんだけど。


最近、考えたことは、意味があるのは、「採り方」を変えることだったりして。採用のやり方が意味のない部分も含めて肥大化している。最近、人事に会うと「いかに母集団を減らすか」という話になったりする。「できるだけ目立たないようにしよう」なんてことを言う企業だってあるんだな。選考においても、意味のないプロセスの見直しをすることだったりして。


そして、育てる仕組みの再構築は日本企業が取り組むべき、今、そこにある危機である。


また、どのやり方にしろ、上位50%くらいまでしか救われない中、公的斡旋を増やすべきだと思ったり。


さて、水面下で、具体的な取り組みを始めようか。そう、お前は言うだけじゃないかとよく言われるわけだが、最近、黒子でやっている案件が多くて、言いたくても言えなかったりするんだね。


今日の気になるアイテムはこれ。出たばかりの本。早く入手しよう。…実際の評価は読んでから。アウトラインを読んで期待と不安が…。みんな、どう思う?

くたばれ!就職氷河期  角川SSC新書  就活格差を乗り越えろ (角川SSC新書)くたばれ!就職氷河期 角川SSC新書 就活格差を乗り越えろ (角川SSC新書)
著者:常見 陽平
角川SSコミュニケーションズ(2010-09-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

私の『くたばれ!就職氷河期』も絶賛発売中。おかげ様で、ご好評頂いているのだ。本日も嬉しい執筆依頼があった。ついにあの雑誌で書けるのね。頑張る。

そして、来年は社会人の働き方、生き方を伝える本を書くことにしよう。頑張る。

明日は沖縄に行って三校を行脚してセミナー。頑張る。毎日の一瞬一瞬に魂かけよう。日々、正しいと思ったことをマジでやろう。

おやすみなさい。愛しています。
↓よろしければポチリと
人気ブログランキング