とても適当なスナップショット講座

<ピント合わせ編>

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 さて、フルマニュアルカメラを使うに当たって、露出の次に面倒なのは、間違いなくピント合わせが来ることだろうと思う。

 ピントというのは非常に重要であり、ピントがビシッと来てシャープな画像は誰がみても気持がよいものだ。もちろん、昔からピントを外したり、ワザとブラして雰囲気を出す場合はあり、それが時には正解な時もあるが、撮る写真の大半がブレたりピンが来ていなかったりというなら、それは一度カメラの持ち方と、ピント合わせの仕方という基本的な操作をバカにせずに真面目に練習した方がよい。ここではあくまでピントが来ている写真を撮る、と言うことが前提となる。

 絞りとシャッタースピードは、カメラを構える前に決めておけば済むことで、これは意外と時間がかからない。しかし、ピント合わせというのは、ちゃんと合わせようと思うと、カメラを構えてから作業をするのである程度時間がかかる。

 しかしながら、50mm以下の焦点距離を持つカメラにおいては、素晴らしい解決方法が一つある。

ピント目測

 「お前はふざけとるんか」

と仰るかた、ピント目測をバカにしてはならない。ピント目測カメラというのは非常に多く、しかも有り難いことに値段が非常に安い場合が多い。これさえマスターしてしまえば、あなたの写真とカメラ選択の自由度はさらに広がる。

 私が現在一番使いやすいカメラというのは(もちろんスナップショットにおいてだが)、ローライ35。この後継機である T-2や派生型である T-proofなどと比べると、ピント目測であるだけスピーディで使い心地がよい。T-2に至ってはピント中抜け、という有り難くない問題点で有名になってしまっている。

 最近の風潮で何が何でもAF搭載、というのはちょっと考え物だと思う。マニュアルフォーカスの方が使いやすいと思っている人はかなり多いはずだと思っているがいかがなものだろう。T-2やG-1,G-2に至ってはマニュアルフォーカスができない素人が買うようなカメラではないはず。何でわざわざAFにしたのだろうか、といつも首を傾げるが、これは好みの問題も大きく関わってくるから、私があれこれ言う事ではないかも知れない。関係ないけど、私の知り合いで長年MFで頑張ってきたが、寄る年波で老眼になり、MFで思うようにピント合わせができなくなってしまい、しょうがないからAFに移行した、という方がいる。こういう場合はAFというのはありがたいものであろう。私はAF完全否定論者ではない。

 しかしながら、ピント目測となると、これは老眼だろうが近眼だろうが、全く関係がない。何といって目でなく心で被写体との距離を測る。実際とある本に、ピント目測カメラは被写体に対する集中力が高まる、と書いてある。私は何気なくピント目測をやっていたが、実はとても素晴らしいことなのだと知った。

 さて、ピント目測はよいが、いきなり距離感もないのに当てずっぽうで目測ピントをやってもうまく行かない。本格的に距離感をマスターされたいのなら、道路にチョークで1m、2m、3m、4m、5mと線を引いて、距離感を養うのが一番良いだろう。また道路の幅を基準に距離を知るという方法もある。ご存じの方は少ないと思うが、道路の幅というのは数種類あるが、だいたい規格で決まっているのである。これは自分の家の回りにある道路を実際に計っていただきたい。

 こう書いても実際に実行される方は非常に少ない、と私は断言できる。でも本当に距離感を養いたいのだったら、絶対に上記の方法を実行されることをお勧めする。私は実行した。

 しかしながら、もっと手っ取り早く距離感を養いたい、と仰る方に、今回大サービスでとっておきの方法を書いてしまう。これはスナップショットだけに通用する方法である。

 まず、レンジファインダーか一眼レフカメラ、マニュアルでピント合わせができるカメラを用意して街中に行き、撮りたいものをちゃんとピントを合わせて撮ってみる。シャッターを押した後、必ずその距離を確認するのである。フィルム一本程度消費したぐらいではあまりわからないかも知れないが、3本4本と撮っていくうちに、一つの法則を発見されるはずだ。

「スナップショットにおいては、撮りたいものの距離というのはだいたい決まっている」

この撮りたいものの距離、と言うのは人によってさまざまなので、私がここで何メーターであると断言はできないが、私の場合は 3.5m。私にとってこの距離が、被写体にカメラを意識されずに撮影できる最低の距離であろうと思われる。

 とりあえず、自分の距離を発見したら、その距離にピントを固定してしばらく撮る。距離が 1mとか無限遠とかにある被写体のことはしばらくは忘れていただく。いきなりあれこれやると混乱してしまうので、とりあえず簡単なことから始めていくのが私のポリシーだ。

 私の場合は 3.5mにピントを固定して、絞りはF5.6に固定。シャッタースピードは前のページに書いたように、随時変化させるがとりあえずカメラを構える前に決めておく。後は被写体を発見したら距離を3.5mあたりに詰め、おもむろにカメラを構え、パシッ。カメラを構えている時間はAFよりも遙かに短い。巷で言われる

「MFはAFよりも"ある意味"速い」

というのはこのことである。もちろんサンニッパ(300mm、f2.8)を使ってピント目測ができるか、というとこれは全く違う次元の話である。あくまで標準〜広角系のレンズを使っての話で、ピント目測はとりあえず、標準までの焦点距離でと言うことを念頭に置いていただきたい。

 ここで絞りを f5.6に固定して、距離を3.5mに固定した場合の被写界深度をみてみると、Jupiter-8 50mm/f2.0の場合、2.7m〜5mとなっている。これはレンズによって違うので自分のレンズで被写界深度を確認していただきたい。2.7m〜5mという範囲は、自分で考えるよりもかなり広いから、充分目測ピントが実用になるわけである。

 被写界深度とは何ぞや?と仰る方に説明させていただくと、誤解を恐れずに簡単に言ってしまえば、ピントが合う範囲である。本当は違うかもしれないが、とりあえずスナップショットを撮る分にはその程度の理解で困ることはない。もし、被写界深度についての深い理解をご希望の方は、是非専門書を読んでいただくなり、サーチエンジンで探していただければ満足いただけると思う。そして深い理解を得た後に、私にわかりやすい言葉で説明していただければ有り難い限りである。

 また、絞りが f2.0とか絞りを開いた場合は被写界深度が薄いので、目測はかなりきつい、目測ピントは自分の距離感以外に運に左右されると思った方がよい。とりあえずF5.6が基本である、と考えていただければ幸いである。もちろん慣れてくれば、F4程度の絞りでも目測でいける。かなり鍛錬すればf2.8でもいけるような気がするが、スナップショットでf2.8ほどまで絞りを開けるのは稀なので、そこまで深く考えなくても良いような気がする。これはあなた次第である。

 被写界深度表示がついているレンズをまじまじと見ていただければ、ご理解いただけるはずであるが、ピントというのは距離が近くなるほどシビアである、という法則がある。こう言っては何だが、ピント目測の場合、近距離ではピンを外す場合が多い。しかしながら近距離のものを撮るときにはあまりスピードを必要としない場合が多く、じっくりピント合わせをしている時間があるときが多い。この場合は、ピント合わせの機構がついているカメラなら、じっくりピントを合わせていただければよいと思う。

 ピント目測カメラの場合、まず自分の腕をいっぱいに伸ばして、自分の目の位置から指の先までの長さを測っておくことをお勧めする。私の場合75cmである。これはもちろん人によって変わってくる。また、歩幅を知るのも大切である。私の場合前進50cm、後進40cm。後進の歩幅を測っておくと言うところがミソである。

 この二つを知っておくだけで目測ピントもかなり正確性と実用性を帯びてくる。どちらも 1mの物差しがあればすぐにでも測ることができるし、一回測っておけばまず一生変わることはないので、面倒くさがらずに今すぐにでも実行していただきたい。

 さて、ここで話は変わって、なぜそこまでスピードスナップにこだわるか、である。私はほとんどのスナップショッターがそうであるように、何も隠し撮りや盗み撮りがしたいわけではない。ただ単に自然な姿が撮りたいだけである。普通の人間というのはカメラ慣れしている俳優ではないから、カメラを意識するとまず自然な表情は得られない。スピードスナップの基本は、誰にも気付かれることなく空間を切り取ってくる、と言うことだと私は思っている。誰にも気付かれなければ、その場の雰囲気をぶち壊しにしなくてすむ。

 しかしながら、広義的に解釈すると、やっていることは隠し撮りや盗み撮りの範疇にはいるだろう。実際、某写真MLでこの手のスナップ手法が一度話題になって、予想したとおり、許可なく撮影するのはダメである、という結論に終わったようだ。

 つまり、街角スナップなど某MLの結論から言うと、基本的にはやってはいけないことなのである。やってはいけないことを敢えてやっている、という意識を持って、撮影に挑んでいただきたい。従って、カメラを叩き落とされても、怖いオッサンにタコ殴りにされても文句は言えない。肖像権侵害で訴えられても、自分でうまいこと対処するしかない。

 しかし残念ながら、街角スナップは絶対になくならない、写真雑誌を見ても、その手の写真はわんさと掲載されているし、WEB上にもいくらでも見つけることができる。

 「許可なく他人を取るのはダメである」と結論が一度でているからには、これ以上その手の論議は時間の無駄である。スナップの神様と呼ばれる木村伊兵衛もブレッソンも、早い話、勝手に他人を撮っているはた迷惑な野郎だ。我々も、やってはならないことをやっている、という意識を持って、さらなるスナップ技巧の向上を目指して日々鍛錬していこうではないか。

 こうやって結論づけてしまうと、案外不親切だと思う。ここで最後に被写体選びの大原則を書いてしまおうではないか。

「撮っても叱られない対象を撮る」

これは案外忘れられていることだと思うが、基本中の基本である。この大原則を破る必要があるのは報道カメラマンとか、パパラッチの分野だろうな。その他のスナップショットにしろ、風景写真にしろ、カメラを向けても叱られない、もしくはトラブルを起こさない対象を選ぶこと。これを忘れたらなりませんよ。

 風景写真だって、私みたいにロシアで知らずにFSBの建物を撮ってしまい、拘束されて3時間も4時間も尋問されたりしたら、これはもう明らかに「撮っても叱られない被写体を撮る」という大原則を犯した結果としか説明の仕様がない。

 あと気をつけないといけないのは、子供。子供を撮っても子供は怒らないだろうけど、あまり子供ばかり撮っていると、このご時世、あなたは別に他人様の子供に特別な感情はなくても、周りの人間から危険人物と誤解される可能性は高いので、充分気をつけて欲しいところである。

 まぁ、カメラを持って歩いていること自体が、かなり一般人離れしている、ということはやっぱり自覚しておいた方がいいと思うよ。

 それでは、成功を祈る。

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