マーケティング3.0 (フィリップ・コトラー) は、ソーシャルメディアによる表面上の変化だけが現在のパラダイムシフトを起こしているのではないことを教えてくれる必読書。

4023308390 「マーケティング3.0」は、文字通りマーケティングの第一人者と言えるフィリップ・コトラーが最近のマーケティングをめぐる変化について書いた書籍です。
 個人的にもコトラーには非常に大きな影響を受けた人間ですので、当然昨年この本が出た直後にすぐ買って読んでいたのですが、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
(ちなみに英語版の原著も買っていたものの、英語で読むのがつらく放置してあったのは公然の秘密です) 
 
 このマーケティング3.0は日本語版では副題に「ソーシャル・メディア時代の新法則」と入っているため、ソーシャルメディア活用が話題の中心のように勘違いされる方も少なくないようですが、この本が取り上げているのはマーケティングにおける本質的な変化です。
 日本においては「マーケティング」というといわゆる広告宣伝であったり、もっとするとリサーチであったりというイメージを持たれる方も少なくないのですが、実際にはマーケティングというのはあのピーター・ドラッカーも企業が持つべき機能としてマーケティングとイノベーションの2つをあげているように、企業の経営において非常に中心的な役割を果たす概念です。
 何しろ「Market +ing」ですから「市場+ing」なんですよね。
 そんなマーケティングの基本概念を導いていたコトラーが、今回のマーケティング3.0では本質的な環境の変化が起こっていることを大きく強調しており、個人的には非常に刺激になりました。 
 特にネット業界の人間は、ついつい昨今の変化がインターネットだけによって引き起こされていると錯覚しがちですが、この本で3つの変化があげられているように、実はネットによる表面上の変化だけでなく、様々な根本的なパラダイムシフトが現在起こっているというのは忘れていけないポイントのように思います。
 
 マーケティングのあるべき姿について、基本から考え直すためにも、必読書だと言えると思いますし、ソーシャルメディアによる表面上の変化に一喜一憂すべきではないということを教えてくれる本だと思います。
 マーケティングや広告に携わる人だけでなく、ネットやソーシャルメディアに関わる全ての人に是非読んで欲しい一冊です。
【読書メモ】
■マーケティングの変遷
・マーケティング1.0 製品中心のマーケティング:1対多数の取引
・マーケティング2.0 消費者志向のマーケティング:1対1の関係
・マーケティング3.0 価値主導のマーケティング:多数対多数の協働
■ソーシャルメディアの二つのカテゴリー
・表現型ソーシャルメディア (ブログ、Twitter、YouTube、Facebook、Flickr等)
・協働型ソーシャルメディア (Wikipedia、ロトン・トマト、クレイグズリスト等)
■インターネット利用者の74%がブログを読む日本とは異なり、アメリカのブログ読者は27%前後しかブログを読まない。だが、読者の割合こそ低いが、アメリカのブログ読者は34%がインフルエンサーだ。
■マーケティングの進化
・第一期:取引志向で、どのようにして販売するかに焦点を当てていた。
・第二期:関係志向になり、どのようにして顧客に継続購入させるかに主眼を置く
・第三期:企業の製品開発やコミュニケーションに消費者を参加させる方向に移行


■マーケティング3.0に導く3つの変化
・参加の時代と協働マーケティング
・グローバル化のパラドックスの時代と文化マーケティング
・創造的社会の時代とスピリチュアル・マーケティング
■マーケティングの未来 今日から未来へ
・製品管理:4P(製品、価格、流通、プロモーション) → 共創
・顧客管理:STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング) → コミュニティ化
・ブランド管理:ブランド構築 → キャラクターの構築
■消費者のコミュニティの3分類
・プール型:考えにつながる
 同一の価値を共有しているが、必ずしも互いに交流するとは限らない
・ウェブ型:互いにつながる
 互いに交流する。結びつきを支えているのはメンバー間におけるワン・トゥ・ワン・リレーションシップ。
・ハブ型:リーダーにつながる
 強力な人物の周りに引き寄せられ、忠実なファン層を形成する
■3i ブランドとポジショニングと差別化のバランスのとれた三角形
・brand identity(ポジショニング+ブランド)
・brand integrity(ポジショニング+差別化)
・brand image(差別化+ブランド)
■マーケティングとは、ブランドのユニークなアイデンティティを明確化し、本物のインテグリティで強化して、強力なイメージを築くこと
■ブランド・ストーリーの三つの重要な構成要素(ホルト)
・キャラクター
・プロット(筋書き)
・メタファー(比喩)
■消費者エンパワーメントは消費者カンバセーション(ネット上の会話)のプラットフォームになる。
 多数対多数のカンバセーションこそが、消費者ネットワークをこれほど強力にしているのである。ブランド・ストーリーは、消費者がそれについて語り合ってくれなければ何の意味もない。マーケティング3.0では、カンバセーションが新しい広告活動なのだ。
■カンバセーションはクチコミではないし、単なる推奨でもない。肯定的なクチコミが、満足した消費者による推奨なのだ。
■クチコミが1対1の対話にすぎず、メトカーフの法則に従うのに対し、カンバセーションは多数対多数で交わされるもので、より正確なリードの法則に従うのである。
■消費者にミッションをマーケティングする際の原則
・普通ではないビジネス
・人々を感動させるストーリー
・顧客エンパワーメント
■四種類の企業の価値(レンシオーニ)
・参加承認価値(permission-to-play value):入社時に備えているべき基本的な行動基準
・願望的価値(aspirational value):現在は欠けているが経営陣が根付かせたいと思っているもの
・偶発的価値(accidental value):社員の共通のパーソナリティの特性の結果得られるもの
・中核的価値(core value):社員の行動を導く真の企業文化
■社員の6つのセグメント
・楽をして稼ぎたがるセグメント
・柔軟なわき役のセグメント
・リスクと報酬を求めるセグメント
・個人の専門技能を生かしてチームとして成功したいと考えるセグメント
・確実な前進を目指すセグメント
・目に見える足跡を残したがるセグメント
■企業の崩壊の5段階(ビジョナリー・カンパニー3)
・第一段階:傲慢になり、わが社には多くのことができるとおもう
・第二段階:無謀な成長を積極的に追い求める
・第三段階:失敗の早期警報サインを目にしても、それを無視する
・第四段階:失敗が誰の目にも明らかになる
・第五段階:改革を行わなければ最終的に倒産する
■社会的課題に対するもっとも進んだ取り組み方は、コーズ・マーケティングである
 これは企業がマーケティング活動を通じて特定のコーズを支援するというものだ
■社会文化的変化を生み出す3段階
・社会文化的課題を特定する
・ターゲット構成集団を選ぶ
・変化を生み出す解決策を提供する
■破壊的イノベーションが本当に貧困を削減するための4つの要件
・貧困の中にいる何十億人もの人に影響を与えるほど規模が巨大であること
・何世代も続く永続的な解決策であること
・本当に効果的で変化をもたらす解決策であること
・右のすべてが効率的に実現されること
■ソーシャル・ビジネス・エンタープライズ(ムハマド・ユヌス)
 自社を取り巻く社会にインパクトを与えながら同時に利益も上げている企業
 SBEは非政府組織でも慈善団体でもない。
■グリーン市場の4つのセグメント
・トレンドセッター
・バリューシーカー
・スタンダード・マッチャー
・コーシャス・バイヤー
■マーケティング3.0の十原則
・原則1 顧客を愛し、競争相手を敬う
・原則2 変化を敏感にとらえ、積極的な変化を
・原則3 評判を守り、何者であるかを明確に
・原則4 製品から最も便益を得られる顧客を狙う
・原則5 手ごろなパッケージの製品を公正価格で提供する
・原則6 自社製品をいつでも入手できるように
・原則7 顧客を獲得し、つなぎとめ、成長させる
・原則8 事業はすべて「サービス業」である
・原則9 QCDのビジネス・プロセス改善を
・原則10 情報を集め、知恵を使って最終決定を

4023308390 コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則
フィリップ・コトラー ヘルマワン・カルタジャヤ イワン・セティアワン 恩藏 直人
朝日新聞出版 2010-09-07

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