非国民通信

ノーモア・コイズミ

学生は結構わかっている

2010-09-02 22:57:19 | ニュース

企業と学生の相互発見を阻む
大学と企業の間にある見えない断絶(DIAMOND online)

 これは昨年度、ある就職情報会社が発表した就職人気企業ランキング。つまり大学生が選んだ人気企業のベスト20です。

 一見して、その傾向がわかりますね。このランキング、言い換えると「産業・企業のことを良く知らない者が選んだ人気企業」ということになります。

 もうひとつ、別のランキングを見ていただきます。

 最初のランキングとは、顔ぶれがかなり違います。

 これは、かつて週刊ダイヤモンドが毎年まとめて特集化していた「企業イメージランキング」の、ある年の結果です。

 選んだのは、週刊ダイヤモンドの読者層。つまり、企業で一定期間働いた実績のある中堅ビジネスマンに投票してもらった結果です。

 このランキングからは、企業で働くオトナが評価する企業は圧倒的に製造業が多いことがよくわかります。一方、就職人気企業ランキングをみると、学生には製造業がほとんど人気がなく金融、広告、商社、シンクタンクに人気が集中しています。

 さて、今日は久々に登場のお笑いダイヤモンドです。ここでは学生が選んだ「就職人気企業ランキング」とダイヤモンド読者が選んだ「企業イメージランキング」が並べられています。引用元の著者はダイヤモンドの読者層を「企業で一定期間働いた実績のある中堅ビジネスマン」と定義していますが、この辺からして怪しいですよね。まぁ、根拠などなくとも自明の真理のごとく断言してこそダイヤモンドらしいと言えます。そもそも、中堅ビジネスマンを悪者に仕立て上げることで若年層や非正規雇用層に間違った被害者意識を植え付けようとしてきたのがダイヤモンドの社是ではなかったのでしょうか。こういう場面だけ都合良く「中堅ビジネスマン」の代弁者のような顔をされても、こちらとしては肩をすくめるほかありません。

 ともあれ、文脈からすると学生の選んだ「就職人気企業ランキング」を「わかっていないガキの選択」、読者が選んだ「企業イメージランキング」を「わかっているビジネスマンの選択」と位置づけているようです。前者を改めさせ、後者に近づけること、これがミスマッチ解消の道だと、長すぎるので引用はしませんが全体の趣旨としてはそんなところが説かれています。本当にそうなのでしょうか? そもそも「就職人気企業ランキング」が「企業イメージランキング」に一致したところで、応募者と採用予定数に大きな差がある限り、ミスマッチは解消されませんし。

 引用元記事では「企業イメージランキング」は製造業に、「就職人気企業ランキング」はサービス業に偏っていると指摘されています。その指摘は間違ってはいないのでしょうけれど、もうちょっと別の味方はできないものでしょうか? たとえば「国内需要の掘り起こしが期待できる産業」と「国外に市場を求めざるを得ない産業」とか、あるいは「高付加価値産業」と「新興国との低価格競争を続けざるを得ない産業」とか。こうした視点で見てみると、むしろ学生の方が未来志向の選択をしていることがわかります。高付加価値産業や新規内需を掘り起こせそうな企業が含まれているのは、「企業イメージランキング」ではなく「就職人気企業ランキング」の方ですから。

 とりわけ自動車なんてのは、今や日本よりも賃金水準の低い国でも必要十分な製品が作れるだけに、他業種に比べても新興国とのコスト削減競争に巻き込まれやすいわけです。また、ある程度まで国が豊かになると、車を必要としている人には車が行き渡ることになります。こうなると国内で車が新たに売れるのは、古いモノを捨てて新しいモノに買い換えるときに限られがちになる、不況や賃金抑制がなくとも国内需要はどうしても先細りとなってしまいます。浪費文化の強い社会ならいざ知らず、モノを大切にする文化の元では、ものづくりは持続可能な産業ではない、売り続けるためには新たな顧客を求めて海外に拠点を移していかなければならないわけです。そんな限界のある自動車メーカーをトップに選ばなかった学生サイドこそ、先見の明があるといえるでしょう。

 日本には製糸業が花形だった時代があります。ご存じの通り製糸業は廃れて新たな産業に取って代わられたわけですが、もし「日本は製糸業を中心とした国家であるべきだ」みたいなイデオロギーが幅を利かせ、どれほど収益性が悪化しようとも製糸業にこだわり続けたとしたらどうなったでしょうか? 疑いなく日本は製糸業と心中する羽目に陥った、世界経済の発展から取り残され、永遠の発展途上国となるほかなかったはずです。そうではなく、製糸業から時代にあった産業へとシフトしてきたからこそ、90年頃までの発展があったわけです。製糸業がそうであったように、現状の製造業中心の考え方もまた時代に合わせて改められねばならない、「あくまで製造業が軸であるべし」といった呪縛から脱してこそ、ようやく世界経済の歩みについて行くことができるといえます。

 これから就職しようとする学生は、明示的にではあれ漠然とではあれ、少なくともランキングを見る限りでは「わかっている」ようです。一方でダイヤモンドのような経済誌とその読者層は今なお製造業原理主義にとらわれていることが、やはりランキングから推定されます。学生の選択には希望が窺えるのに、より強い立場にいる人はまるっきり「わかっていない」、何とも絶望的なことです。製造業偏重を止めてサービス業や高付加価値産業に軸足を移せば求職者側とのミスマッチも減少して一石二鳥なのですが、政府筋や財界筋も、あまり経済合理性に沿った選択をするタイプではないですしねぇ……

 

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