「医学部生は医者以外になるな!」と言わないで――18歳で人生決めますか?ちきりんの“社会派”で行こう!(1/3 ページ)

» 2010年08月09日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん(Twitter:@InsideCHIKIRIN)。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2008年10月20日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 医学部を卒業したのに医者にならない人が増えていて、そのことについて業界内から違和感や憤りの声が挙がっていると聞いたことがあります。

 似たような話は昔からあり、「防衛大学校を出たのに任官を拒否する人が増えている」と報道されたり、バブル時代には「工学部を出たのに銀行に就職する学生が増えている」と批判されたりしました。

 今や工学部を出て技術者以外の職を選ぶ人は珍しくありませんが、そのうち医学部を出た人も(今の工学部出身者と同じくらい)医者以外の職業を選ぶようになるかもしれません。

 工学部より医学部の方がその動きが遅いのは、「医者の社会的地位が、技術者の社会的な地位より相対的に高いから」ではないでしょうか。もしくは、「医学部は工学部より入学するのが難しいので、捨てるのがもったいないから」なのかもしれません。同じように似合わない服が2枚あっても、安い服より高い服の方が捨てにくいのと同じです。

 一般に、大学の学部は高校生の時に決めます。細かい専攻は2年生後半に選ぶ大学もありますが、防衛大学校や医学部に入る人は、18歳の時に「自衛官になる!」「医者になる!」と決める必要があります。

 この「自分の一生の職業を18歳の時に決める」というのは、すごいことだと思いませんか? 多くの人は22歳の就職活動時でも職業選択に大いに迷うし、数年働いてから「やっぱり違う」と思い直す人もいます。

 18歳なんて世の中のことがほとんど分かっていないだけでなく、自分のことさえ理解できていない年齢です。自分がどんな生活を送りたいか、どんな仕事を面白いと感じるか、そういうことが分かっている高校生は多数派ではないでしょう。

 だから、医学部を選んだ高校生の中には、「成績が良かったから」「親が勧めたから」という人も少なからず存在します。そう考えると、18歳で医学部を選んだ人のほとんどが実際に医者になっていることの方がむしろ驚くべきことです。ほかの職業もすべて18歳で決めろと言われたら、多くの人が反対するでしょうし、そもそもそんな制度は成り立たないでしょう。

 もちろん、若い時から「オレにはこの道しかない」と確信を持っている人もいるので、そういう人はできるだけ早く、その道に集中できる環境が望ましいでしょう。でも、そんな人はごく一部です。医者だからといって18歳で選んだ職業に、実際に100%就業するのが当然という考え方は、最初から無理があるように思います。

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