第III部 わが国の防衛のための諸施策 

3 在日米軍などの兵力態勢の再編(第3段階)

(1)概要
 在日米軍の兵力態勢再編は、アジア太平洋地域における抑止力となっている在日米軍の安定的なプレゼンスを確保し、日米安保体制を基盤とする日米同盟を新たな安全保障環境に適応させ、わが国の平和とアジア太平洋地域における平和と安定を確固たるものにするためのものである。
 これらの再編案の実施により、同盟関係における協力は新たな段階に入り、地域における同盟関係の能力強化につながる。また、今後実施される措置は、日米安保条約の下での日米双方のコミットメントを強化すると同時に、沖縄を含む地元の負担を軽減するとの日米双方の決意を示すものである。
 この再編案の実施のための施設整備に要する建設費そのほかの費用は、ロードマップにおいて明示されない限り日本国政府が負担し、米国政府は、これらの案の実施により生ずる運用上の費用を負担するとされている。在日米軍の再編は、沖縄をはじめとする地元の負担軽減と抑止力の維持に資する重要な課題であり、わが国が負担すべき経費の内容を精査した上で、適切に予算上の措置を講じることとされている2
 その再編の概要は、図表III-2-2-8およびIII-2-2-9のとおりであり、以下、その具体策および進捗状況について説明する。
 
図表III-2-2-8 在日米軍などの兵力態勢の再編
 
図表III-2-2-9 「ロードマップ」において示された再編に関する主なスケジュール

(2)沖縄における再編
 沖縄には、現在、多くの在日米軍施設・区域が所在している。
 特に、沖縄における米海兵隊(在沖米海兵隊)は、その高い機動性、即応能力により、わが国の防衛をはじめ、06(同18)年5月のインドネシアのジャワ島における地震への対応など地域の平和と安全の確保を含めた多様な役割を果たしている。
 米国は、世界的な軍事態勢見直しの一環として、太平洋においても兵力構成を強化するための見直しを行っている。今後の安全保障環境において、事態の性質や場所に応じて、より柔軟かつ適切な対応を可能とするため、この地域における海兵隊の緊急事態への対応能力の強化や、これらの能力の適切な形での分配を行うとしている。この見直しにより、地域の諸国との安全保障協力の拡大が可能となり、安全保障環境が改善される。
 この海兵隊の再編との関連で、沖縄の負担を大幅に軽減することにもなる総合的な措置が、次のとおり特定されている。

ア 普天間飛行場代替施設など
 米海兵隊普天間飛行場は、在沖米海兵隊の航空能力に関し、
1) ヘリなどによる海兵隊の陸上部隊の輸送機能
2) 空中給油機を運用する機能
3) 緊急時に航空機を受け入れる基地機能
といった機能を果たしている。
 一方で、同飛行場は市街地の中心にあって、地域の安全、騒音、交通などの問題から、地元住民より早期の返還が強く要望されてきた。このため、普天間飛行場の持つ機能について、それぞれ次の措置を講じ、同飛行場を返還する。
(ア)ヘリなどによる海兵隊の陸上部隊の輸送機能
a SACO最終報告に基づく計画に関する状況
 96(同8)年12月に取りまとめられた「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO:Special Action Committee on Okinawa)最終報告において、普天間飛行場については、5〜7年の間に、十分な代替施設が完成した後、全面返還されることで合意された。
参照 本節4

 同報告以降の普天間飛行場代替施設(代替施設)に関する経緯は、図表III-2-2-10のとおりであり、02(同14)年には代替施設の基本計画が決定され、04(同16)年には環境影響評価手続きを開始したが、工事着工に必要な手続きとして03(同15)年から行ってきた現地技術調査が必ずしも円滑に進まなかったこと、および代替施設建設に9年半が必要と見積もられたことから、普天間飛行場の移設・返還には、さらに十数年近くの長期間を要することが見込まれた。
 
図表III-2-2-10 普天間代替施設に関する経緯

 さらに、04(同16)年8月の宜野湾(ぎのわん)市における米軍ヘリ事故の発生もあり、同飛行場が市街地のただ中に所在することによる危険性の問題が顕在化し、早期移設・返還が必須であることが改めて強く認識された。
 これらのことから、周辺住民の不安を解消するため、一日も早い移設・返還を実現するための方法について、在日米軍再編に関する日米協議の過程で改めて検討を行ってきた。

b 代替施設に関する検討の考え方
 在沖米海兵隊は、航空、陸上、後方支援の部隊や司令部機能から構成されており、実際の運用において、これらの機能が相互に連携し合うことが必要である。このため、普天間飛行場に現在駐留する回転翼機が、訓練、演習など日常的に活動をともにするほかの組織の近くに位置するよう、代替施設についても、沖縄県内に設ける必要があるとの認識に至り、その上で検討を行った。
 なお、検討においては、近接する地域、軍要員の安全、地元への騒音の影響、藻場などの自然環境に対する影響、平時・緊急時における運用上の所要などを含む複数の要素を考慮した。

c 代替施設の概要
 このような認識のもと、日米間で集中的に検討した結果として、05(同17)年10月の「共同文書」において、「キャンプ・シュワブの海岸線の区域とこれに近接する大浦湾の水域を結ぶL字型に普天間代替施設を設置する。」との案が承認された。
 その後、名護(なご)市をはじめとする地元地方公共団体との協議を行った結果、06(同18)年4月、代替施設について、「共同文書」において承認された案を基本に、地元地方公共団体の要求する周辺地域の上空の飛行ルートを回避すべく、滑走路を2本設けることとし、1)周辺住民の生活の安全、2)自然環境の保全、3)同事業の実行可能性に留意して建設することに、名護市、宜野座村との間で合意した。今後、防衛省と沖縄県、名護市、宜野座村および関係地方公共団体は、代替施設の建設計画について誠意をもって継続的に協議し、結論を得ることとした。
 この合意を踏まえ、ロードマップにおいて、代替施設を「辺野古(へのこ)崎とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ」形で設置することとした。この施設においては、2本の滑走路がV字型に配置される。滑走路はそれぞれ1,600mの長さを有し、2つの100mのオーバーランを有する。各滑走路のある部分の施設の長さは、護岸を除いて1,800mとなるとしている。
 この施設は、合意された運用上の能力を確保するとともに、安全性、騒音および環境への影響という問題に対処するものであるとしている。
 この代替施設は、SACO最終報告において示されたとおり、普天間飛行場に所在するヘリコプターのほかに、短距離で離発着できる航空機の運用をも支援する能力を有するものとなる。この施設からの戦闘機の運用は計画されていない。
 さらに、代替施設をキャンプ・シュワブ区域内に設置するため、同区域内の施設および隣接する水域の再編成などの必要な調整が行われることとしている。
 この代替施設の工法は、原則として、埋立てとなり、14(同26)年までの完成が目標とされる。代替施設への移設は、同施設が完全に運用上の能力を備えたときに行われることとしている。
(図表III-2-2-11 参照)
 
図表III-2-2-11 普天間代替施設の概念図

 このように新たに合意された代替施設は、陸上部分をベースに工事を行うことができ、より早期かつ着実に建設することが可能であり、一日も早い移設の実現を可能とするものである。また、海上に設置する部分を少なくするなど、環境への影響にも極力配慮するものである。
 この代替施設の建設について、06(同18)年5月、沖縄県知事と防衛庁長官(当時)との間で、「政府案を基本として、1)普天間飛行場の危険性の除去、2)周辺住民の生活の安全、3)自然環境の保全、4)同事業の実行可能性に留意して、対応することに合意する。」ことなどを盛り込んだ「基本確認書」を取り交わした。

d 地元との調整状況
 政府は、06(同18)年5月30日の閣議決定において、同年5月1日の「2+2」会合で承認された案を基本として、政府、沖縄県および関係地方公共団体の立場や普天間飛行場の移設に係る経緯を踏まえて進めることとし、早急に建設計画を策定することとした。さらに、具体的な代替施設の建設計画、安全・環境対策および地域振興については、沖縄県および関係地方公共団体と協議機関を設置して対応することとしている3
 これを受けて、同年8月、「普天間飛行場の移設に係る措置に関する協議会4」が設置され、本年4月までに9回の協議会が開催されているところである。また、昨年7月に開催された、第8回協議会の合意に基づき、同協議会の下に「普天間飛行場の危険性の除去に関するワーキングチーム」および「普天間飛行場代替施設の建設計画・環境影響評価を円滑に進めるためのワーキングチーム」が設置され、政府と沖縄県などの実務者が密接に協議している。

e 環境影響評価の実施状況
 環境影響評価については、07(同19)年8月、沖縄県知事などに環境影響評価方法書(方法書)を送付し、公告・縦覧の手続を経て、咋年3月、沖縄県知事意見などを踏まえた方法書に対する追加・修正資料を沖縄県知事などに送付し、方法書に沿った調査を開始した。本年3月、四季を通じた1年間の調査を終了したことから、環境影響評価準備書を作成し、4月1日、沖縄県などに送付した。翌2日から5月1日まで公告・縦覧するとともに、説明会を開催するなど、環境影響評価の手続を進めている。

(イ)空中給油機を運用する機能
 普天間飛行場に所在する空中給油機KC-130(12機)については、ロードマップにおいてSACO最終報告と同様、岩国飛行場(山口県)に移駐することとなっている。
KC-130は、訓練および運用のため定期的にローテーションで鹿屋(かのや)基地(鹿児島県)およびグアムに展開することとなっており、鹿屋基地での訓練および運用について、日米間で協議中である。

(ウ)緊急時に航空機を受け入れる基地機能
 緊急時における新田原(にゅうたばる)基地(宮崎県)および築城(ついき)基地(福岡県)の米軍による使用が強化される。このための施設整備は、実地調査実施の後、普天間飛行場の返還の前に必要に応じて実施される。また、役割・任務・能力に関する検討において、日米の共同訓練を拡大するとしているが、整備後の施設は、このような訓練活動のためにも活用されることを想定している。
 さらに、代替施設では確保されない、長い滑走路を用いた活動のため、緊急時における米軍による民間施設の使用の改善について、日米間の計画検討作業において検討されるとともに、普天間飛行場の返還を実現するための適切な措置がとられるとしている。

(エ)普天間飛行場の危険性除去に向けた取組
 07(同19)年8月、防衛省は、普天間飛行場の危険性の除去に向けた取組策として、1)住宅高密集度区域を極力避けるなどの離着陸経路の改善、2)クリヤーゾーン5の拡充など、エンジントラブルの際、同飛行場の場周経路から安全に帰還するための施策、3)夜間に滑走路を見えやすくするための施設の改善、4)目視から自動への航空管制システムの改善などの諸施策を発表し、その着実な実施を図っているところである。
 昨年2月には、日本政府が夜間に滑走路を見えやすくするための施設の改善およびクリヤーゾーンの拡充について日本政府が実施することを、日米合同委員会で合意した。

イ 兵力の削減とグアムへの移転
 アジア太平洋地域における米海兵隊の能力の再編に関連し、現在沖縄に所在する第3海兵機動展開部隊(IIIMEF:Marine Expeditionary Force)の要員はグアムに移転6され、また、残りの在沖米海兵隊部隊は、再編される。この沖縄における再編により、IIIMEF要員約8,000名とその家族約9,000名が部隊としての一体性を維持するような方法で14(同26)年までに沖縄からグアムに移転され、沖縄に残る米海兵隊の兵力は、司令部、陸上、航空、戦闘支援および基地支援能力といった海兵空地任務部隊の要素から構成されることになっている。
 グアムへの移転経費については、日米双方が応分の分担を行うとの観点から米国との協議を行い、06(同18)年4月に行われた日米防衛首脳会談において、移転にともなう施設・インフラ整備に係る経費について、図表III-2-2-15のとおり分担することで合意に至った。

参照 本節3項

 在沖米海兵隊のグアム移転は、米軍再編を進め、沖縄の負担を軽減するために、極めて重要な事業である。防衛省としては、米軍再編をロードマップに基づいて着実に行っていきたいとの考えのもと、日米両政府でロードマップの実施のあり方などにつき随時協議を行ってきた。
 その中で、わが国の直接的な財政支援として措置する事業(「真水」事業)について、平成21年度に予算措置すべき事業の具体的な内容およびその所要経費、ならびに基本的な事業の実施スキームについて、日米間で共通の理解が得られたことから、平成21年度予算に基盤整備事業および設計事業のための経費(約346億円)が予算措置された。
(図表III-2-2-12 参照)
 
図表III-2-2-12 平成21年度予算における「真水」事業の内容

 また、わが国による多年度にわたる資金提供をはじめとする日米双方の行動をより確実なものとし、これを法的に確保するため、日本政府は本年2月17日に米国政府と「在沖縄海兵隊のグアム移転に係る協定」(第3海兵機動展開部隊の要員及びその家族の沖縄からグアムへの移転の実施に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定)に署名し、同年5月19日、本協定は発効した。

参照 資料41

 加えて、防衛省としては、民活事業も含め、平成21年度以降本格化するグアム移転事業に対応するために、グアム移転事業室を設置するなど、必要な体制整備を行った。

ウ 土地の返還および施設の共同使用
(ア)嘉手納(かでな)飛行場以南の相当規模の土地の返還
 嘉手納飛行場以南の人口が集中している地域に、在日米軍施設・区域が所在しており、その合計は約1,500haである。前述の普天間飛行場の移設・返還およびグアムへのIIIMEF要員の移転に続いて、沖縄に残る施設・区域が統合され、嘉手納飛行場以南の相当規模の土地の返還が可能となる。
 ロードマップでは、6つの候補施設(キャンプ桑江(くわえ)、キャンプ瑞慶覧(ずけらん)、普天間飛行場、牧港(まきみなと)補給地区、那覇港湾施設、陸軍貯油施設第1桑江タンク・ファーム)について、統合のための詳細な計画を作成するとしており、現在、日米間で協議中である。
(図表III-2-2-8参照)

(イ)SACO最終報告の着実な実施
 96(同8)年のSACO最終報告は、在日米軍の能力および即応態勢を十分維持しつつ、沖縄県民に対する米軍活動の影響を軽減するものであり、その着実な実施は重要である。一方、SACOによる移設・返還計画については、ロードマップにより、再評価が必要となる可能性があるとされた。

(ウ)沖縄における在日米軍施設・区域の共同使用
 沖縄における自衛隊施設は、那覇基地をはじめ限られており、その大半が都市部にあるため、運用面での制約がある。沖縄にある在日米軍施設・区域の共同使用は、沖縄における自衛隊部隊の訓練環境を大きく改善するとともに、共同訓練や自衛隊と米軍間の相互運用性を促進するものである。また、即応性をより向上させ、災害時における県民の安全性の確保に資することが可能となる。
 このような考えのもと、キャンプ・ハンセンは、陸自の訓練に使用することとされ、咋年3月から訓練が開始されている。また、空自は、地元への騒音の影響を考慮しつつ、米軍との共同訓練のために嘉手納飛行場を使用することとしている。

エ 再編間の関係
 ロードマップにおいては、全体的な再編パッケージの中で、沖縄に関連する再編は、相互に結びついており、特に、嘉手納飛行場以南の統合および土地の返還は、IIIMEF要員およびその家族の沖縄からグアムへの移転にかかっている。また、沖縄からグアムへのIIIMEFの移転は、1)普天間飛行場代替施設の完成に向けた具体的な進展、2)グアムにおける所要の施設およびインフラ整備のための日本の資金的貢献にかかっているとされている。

(3)在日米陸軍司令部能力の改善
 キャンプ座間(神奈川県)に所在する在日米陸軍司令部は、高い機動性と即応性を有し、かつ、統合任務が可能な司令部となるよう、07(同19)年12月に第1軍団(前方)・在日米陸軍司令部として発足し、昨年9月末に改
7された。これは、米軍全体の変革の中における、米陸軍の世界的な改編を踏まえたものでもあるが、改編後の在日米陸軍司令部は、引き続き「日本国の防衛および極東の平和と安全の維持」を中核的任務とするものである。
 また、各種事態への迅速な対応のため、機動運用部隊や専門部隊を一元的に管理する陸自中央即応集団司令部を12(同24)年度までにキャンプ座間に移転8し、改編された在日米陸軍司令部との連携強化を図ることとしている。
 この改編にともない、相模総合補給廠(ほきゅうしょう)(神奈川県)内に戦闘指揮訓練センターその他の支援施設が米国の資金で建設される。さらに、キャンプ座間および相模総合補給廠のより効果的かつ効率的な使用のため、それぞれ一部返還などの措置が講じられることとなっており、昨年6月には相模総合補給廠の一部土地(約17ha)の返還について、日米合同委員会において合意された。

(4)横田飛行場および空域
ア 共同統合運用調整所の設置
 司令部間の連携向上は、統合運用体制への移行とあいまって、日米両部隊間の柔軟かつ即応性のある対応の観点から極めて重要である。さらに、横田飛行場(東京都)に所在する在日米軍司令部は、「指針」の下の各種メカニズム9においても、重要な位置を占めている。これらを踏まえ、後述の空自航空総隊司令部の移転にあわせ、共同統合運用調整所10を設置することとし、来年度を目標として、その施設およびインフラの整備を完了し、運用を開始する予定である。

イ 空自航空総隊司令部の移転
 府中(東京都)に所在する空自航空総隊司令部は、わが国の防空を任務とするほか、BMDにおける司令部機能も保持している。防空およびBMDにおいては、対処可能時間が短いため、特に日米間で必要な情報を迅速に共有する意義が大きい。そのため、来年度を目標に、同司令部を関連部隊とともに米第5空軍司令部の所在する横田飛行場に移転することとしており、整備を進めているところである11。これにより、前述の共同統合運用調整所の設置とあわせて、防空およびBMDにおける情報共有をはじめとする司令部組織間の連携を強化することが可能になる。

ウ 横田空域
 米軍は、横田飛行場において、首都圏西部から新潟に広がる横田空域の進入管制を行っているが、その空域を飛行する民間航空機の運航を円滑化するため、次の措置が追求される。
(ア)空域通過の手続に関する情報提供プログラムを06(同18)年度に立ち上げ
(イ)空域の一部について、軍事上の目的に必要でないときに管制業務の責任を一時的に日本側当局に移管する手続を06(同18)年度に作成
(ウ)空域の一部について、返還空域を06(同18)年10月までに特定の上、08(同20)年9月までに管制業務を日本に返還
(エ)横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件の検討12を09(同21)年度に完了
 これを受けて、06(同18)年9月より上記(イ)の措置が開始されるとともに、同年10月には、1)08(同20)年9月までに日本側に返還される空域の特定、2)横田ラプコン(RAPCON:Radar Approach Control)施設への自衛隊管制官の併置について、日米両政府で合意に達した。
 上記1)の措置については、咋年9月25日に羽田空港西側に隣接する部分約40%が削減され、管制業務が日本に返還された。また、上記2)の措置についても、07(同19)年5月から空自管制官の併置が開始されており、この経験から得られる教訓は、横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件の検討に際し考慮されることとなる。
(図表III-2-2-13 参照)
 
図表III-2-2-13 横田空域
 
横田ラプコン施設における米空軍管制官と併置された空自管制官

エ 横田軍民共用化
 横田飛行場の軍民共用化については、03(同15)年5月の日米首脳会談において、その実現の可能性について、日米両国政府共同で検討していくこととなった。これを受け、政府関係省庁(内閣官房、外務省、国土交通省、防衛庁(当時)、防衛施設庁(当時))と東京都との実務的な協議の場として「連絡会」を設置し、累次議論が行われてきた。
 また、日米両国政府は、共用化により横田飛行場の軍事上の運用や安全などを損なわないとの認識のもと、06(同18)年10月以降、スタディ・グループにおいて具体的な条件や態様に関する検討を実施してきたところであるが13、今後の更なる調整およびその検討結果を踏まえ、日米両国政府で協議の上、適切な決定を行うこととしている。

(5)厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機の移駐など
ア 米空母展開の意義
 米国の太平洋艦隊のプレゼンスは、アジア太平洋地域における海上交通の安全を含む地域の平和と安定にとり、重要な役割を果たしている。米空母は、その能力の中核となる役割を果たしており、空母およびその艦載機の長期にわたる前方展開能力を確保するため、わが国においてその拠点を確保する必要がある。これまで通常動力型の米空母キティ・ホークがこの地域に展開し、横須賀(神奈川県)にも寄港してきたが、就役以来40年以上が経過し、その退役が迫っていたことから、昨年9月、その任務を92(同4)年に就役した原子力空母ジョージ・ワシントンと交替した。
 原子力空母は、原子炉から生み出されるエネルギーによって推進することから、燃料を補給する必要がない上、航空機の運用に必要な高速航行を維持できるなど、戦闘・作戦能力に優れている。原子力空母ジョージ・ワシントンの展開により、わが国周辺に米海軍の強固なプレゼンスが引き続き維持されることは、わが国の安全および地域における平和と安全の維持に役立つものであり、かつ、日米同盟への米国の深い関与を象徴的に示すものでもある。
 なお、米海軍の原子力艦の安全性に関し、米海軍は原子力空母ジョージ・ワシントンを含めたすべての原子力艦について、港に停泊中は通常、原子炉を停止させることや、また、日本において原子炉の修理や燃料交換を行うことはないことなど、その安全面での方針を守り続けることを確約している。政府としても、引き続きその安全性確保のため、万全を期する考えである。

参照 3節6項3
 
横須賀港に入港する米原子力空母ジョージ・ワシントン〔U.S.Navy〕

イ 空母艦載機の拠点
 空母艦載機については、空母の横須賀展開時の拠点として、厚木飛行場(神奈川県)が現在利用されているが、厚木飛行場は市街地の中心に位置し、特に空母艦載ジェット機の離発着にともなう騒音が、長年にわたり問題となっていた。
 今後、日米安保体制とその下での空母の運用を安定的に維持していくためには、これらの問題を早期に解決することが必要である。
 また、岩国飛行場については、滑走路移設事業終了後には、周辺地域の生活環境への影響がより少ない形で、安全な航空機の運用が可能となる。
 これらを考慮し、第5空母航空団は、厚木飛行場から岩国飛行場に移駐することとした。この移駐は、F/A-18、EA-6B、E-2CおよびC-2機(計59機)から構成され、1)必要な施設が完成し、2)訓練空域および岩国レーダー進入管制空域の調整が行われた後、14(同26)年までに完了する。
 この移駐にともない、岩国飛行場における運用の増大による影響を緩和するため、移駐が滑走路の沖合移設後に行われることに加え、岩国飛行場の海自EP-3機などの厚木移駐、普天間飛行場から岩国飛行場に移駐するKC-130機の海自鹿屋基地およびグアムへの定期的なローテーションでの展開、岩国飛行場の海兵隊CH-53Dヘリのグアム移転などの関連措置がとられる。
 これらにより、岩国飛行場周辺の騒音は、住宅防音の対象となる第一種区域の面積が約1,600haから約500haに減少するなど、現状より軽減されると予測される。また、滑走路の沖合移設により、離着陸経路が海上に設定されることとなり、安全性も今以上に確保される。
(図表III-2-2-8参照)
 空母艦載機着陸訓練については、恒常的な空母艦載機着陸訓練施設について検討を行うための二国間の枠組を設け、恒常的な施設を本年7月またはその後のできるだけ早い時期に選定することが目標とされている。なお、「共同文書」においては、空母艦載機着陸訓練のための恒常的な訓練施設が特定されるまでの間、現在の暫定的な措置に従い、米国は引き続き硫黄島で空母艦載機着陸訓練を行う旨確認された。

ウ 岩国飛行場民間航空再開
 山口県や岩国市などの地元地方公共団体などが一体となって民間航空再開を要望していることを踏まえ、同飛行場の民間航空再開と米軍の運用との関連などについて問題点などを整理し、その可能性を検討するため、協議を行ってきた。その結果、05(同17)年10月、米軍の運用上の所要を損なわない限りにおいて、1日4往復の民間航空機の運航を認めることについて合意された。
 その後、ロードマップにおいて「将来の民間航空施設の一部が岩国飛行場に設けられる」とされたことから、日米間で調整し、同飛行場における民間航空施設の位置について07(同19)年5月、防衛省から地元地方公共団体に説明を行ったところである。

(6)弾道ミサイル防衛(BMD)
 弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)に関しては、役割・任務・能力に関する検討でも確認されたように、日米双方が、それぞれのBMD能力の向上に応じて、緊密な連携を継続することとされた。
 06(同18)年6月、弾道ミサイルに関する高い探知・追尾能力を持つ新たな米軍のBMD用移動式レーダー(AN/TPY-2:いわゆる「Xバンド・レーダー」)・システムが、空自車力(しゃりき)分屯基地(青森県)に配備され、運用が開始された14。このレーダーにより得られるデータは日米で共有され、これによりわが国に飛来するミサイルを迎撃する能力や国民保護、被害対処のための能力が向上する。
 また、同年10月、米軍のペトリオットPAC-3が嘉手納飛行場および嘉手納弾薬庫地区に配備されたほか、同年8月以降順次、西太平洋地域に前方展開しているイージス艦にBMD能力が付与されている。
 このように米軍のミサイル防衛能力がわが国に配備されることは、弾道ミサイル攻撃に対する防御能力が向上し、在日米軍の抑止力も維持され、わが国国民の安全の確保にもつながるものである。

(7)訓練移転
 訓練移転15については、当分の間、嘉手納飛行場、三沢飛行場(青森県)および岩国飛行場の3つの在日米軍施設からの航空機が、千歳(北海道)、三沢、百里(茨城県)、小松(石川県)、築城および新田原といった自衛隊施設において自衛隊との共同訓練に参加することとしている。
 07(同19)年3月以降、米軍の三沢、岩国、嘉手納飛行場から自衛隊の千歳、三沢、百里、小松、築城、新田原基地への訓練移転を行っている。
 
空自小松基地へ訓練移転中の米軍F-16戦闘機〔U.S.A.F〕

 また、日本政府は、実地調査を行った上で、必要に応じて、自衛隊施設における訓練移転のためのインフラの改善を行っている。
 なお、訓練移転の実施にあたっては、空自と協力して米軍を支援するとともに、訓練期間における周辺住民の安心、安全を図るため、関係地方防衛局が現地連絡本部を設置し、関係行政機関との連絡および周辺住民への対応にあたるなど、訓練移転の円滑な実施に努めているところである。


 
2)平成18年5月30日閣議決定「在日米軍の兵力構成見通等に関する政府の取組について」において、「政府としては、…法制面及び経費面を含め、再編関連措置を的確かつ迅速に実施するための措置を講ずることとする。他方、厳しい財政事情の下、政府全体として一層の経費の節減合理化を行う中で、防衛関係費においても、更に思い切った合理化・効率化を行い、効率的な防衛力の整備に努める。」とされている。

 
3)これにともない、建設地点を「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」としていた従来の閣議決定は廃止することとされた。(資料39参照)

 
4)構成員は、内閣官房長官、内閣府特命担当大臣(沖縄および北方対策)、防衛大臣、総務大臣、外務大臣、財務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣、沖縄県知事、名護市長、宜野座村長、金武(きん)町長および東(ひがし)村長

 
5)障害物を排除し、離発着の際の安全を確保するためのエリア

 
6)移転する部隊は、IIIMEFの指揮部隊、第3海兵師団司令部、第3海兵後方群(戦務支援群から改称)司令部、第1海兵航空団司令部および第12海兵連隊司令部を含む。対象となる部隊は、キャンプ・コートニー、キャンプ・ハンセン、普天間飛行場、キャンプ瑞慶覧(ずけらん)および牧港(まきみなと)補給地区といった施設から移転する。

 
7)米側によれば、08(平成20)年9月末の段階で要員は約70名であり、08(同20)年9月以降の要員計画などについては、検討中とのことである。

 
8)09(平成21)年3月5日、陸自中央即応集団司令部庁舎などの用地の共同使用について、日米合同委員会において合意された。

 
9)3節2参照

 
10)共同統合運用調整所は、防空およびBMDに関し、日米の司令部組織間での情報の共有や緊密な調整、相互運用性の向上など、日本の防衛のための共同対処に資する機能を果たすものである。

 
11)07(平成19)年7月に空自航空総隊司令部庁舎などの用地の共同使用について、昨年12月には防空指揮群庁舎や通信局舎などの用地の共同使用について、日米合同委員会において合意された。

 
12)この検討は、日本における空域の使用に関する民間および軍事上の将来のあり方を満たすような、関連空域の再編成や航空管制手続の変更のための選択肢を包括的に検討する一環として行われる。

 
13)ロードマップにおいて、本スタディ・グループによる検討は、開始から12か月以内に終了することとなっている。

 
14)レーダーは、その後、隣接する米軍車力通信所に移設された。

 
15)日米間の相互運用性を向上させるとともに、在日米軍飛行場の周辺地域における訓練活動の影響を軽減することを目的として、在日米軍航空機が自衛隊施設において共同訓練を行うこと。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む