既刊書籍の電子化契約書を読み解く(2)

田代 真人

前回に続いてポイントを挙げよう。今回の契約書は、出版社が電子化権を独占するという内容になっている。これについては、池田信夫氏も指摘しているので多くは語らないが、やはり電子化して販売する期日や電子書籍書店などを明記していないのは問題ではなかろうか。例えば、2万点を電子化して販売するにしても、すべてを同時に発行するのは、相当なコストがかかる。であれば出版社の立場で考えると、当然“売れそうなもの”から電子化して販売するだろう。であれば“売れそうにないもの”は後回しにされるおそれもある。


著者にとっては、自分の作品がいつ電子化されるのかわからない状態が続くわけである。精神衛生上とてもよろしくない。出版社は大手であれば数万人の著者が相手になるので、一人あたりの編集者が担当する著者も多数になる。彼らにとっても、連日のように著者から入る「私の本はいつ電子化されるでしょうか?」という問い合わせに対応しなければならない。いつまでたっても届かない“蕎麦屋”状態になることは簡単に想像できるわけだ。

現在の紙の本であっても著者の不満を聞くことが多い。曰く「宣伝してくれない」「在庫切れの書店があるのに重版してくれない」などである。Twitter上では、「出版社は宣伝してくれる」とコメントしている方も多いが、出版社も発行書籍すべてを宣伝しているわけではない。売れそうなものであれば宣伝するがそうでないものは書店に配本するのみである。書店に配本して、売れそうな気配が感じられると少し宣伝してみるといった塩梅だ。

重版の判断も出版社にとっては頭が痛い。A書店で在庫切れになった場合、出版社の倉庫に在庫があれば、すぐに納品できる。しかし、在庫がない場合、重版するかとというとそうではない。A書店以外に在庫があれば、それらが1年後返本されることを恐れて重版ができないのだ。現状の仕組みではチェーン店でもない限り異なる書店にある在庫を回すこともできない。出版社は、いわゆる“市中在庫”がどれだけあるか正確にはわからないので、重版に踏み切れないのだ。

電子化すれば在庫の問題はなくなるので機会損失がなくなる。であれば絶版になった書籍は早く電子化したほうがいいのは確かだ。「契約内容に不満があれば契約しなければいい」との声もある。当然そうなのだが、完全なデータは出版社や印刷会社が持っていることが多く、彼らの協力なくして電子化するのは現実問題として結構な労力である。彼らの了承なく著者が自らページをスキャニングして販売することが可能なのかどうか、法的には曖昧なままである。

著者にとって出版社との契約交渉で時間と労力をかけるのも大変なことである。私自身、現在それをやっているが、個々の著者がおこなうのは難しいのではなかろうか。結局、出版社と著者の関係は、持ちつ持たれつという間柄なので、既刊本の電子化に関しても、双方ある程度の妥協が必要になると思われる。

あと一つのポイントは、また次回で。