写真●日本マクドナルド マーケティング本部 上席部長の宇井昭如氏
写真●日本マクドナルド マーケティング本部 上席部長の宇井昭如氏
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 「“やらないよりマシ”という姿勢で臨むデジタルマーケティングは“やらない方がマシ”。コンテンツをかたっぱしから配信するのではなく、厳選した情報を最小限の量だけ提供することが重要だ」---。2010年10月19日、ITpro EXPO 2010展示会のSales & Marketing Solutionフォーラム基調講演に、日本マクドナルド マーケティング本部 上席部長の宇井昭如氏(写真)が登壇。「『日本マクドナルド』 Digital marketing成功の秘訣」と題して講演した。

 同社は1997年から2003年にかけて減収が続いたが、2004年を境にV字回復を果たしている。新メニューの投入や24時間営業店舗の設置、地域別価格の導入といった施策が業績回復をけん引した。また、2007年以降の業績の伸びは、「デジタルマーティングの成功によるところが大きい」(宇井氏)という。

 2007年から、同社はデジタルマーケティングに注力し始めた。まず、他社に先駆けて電子マネーを導入。全国の約3300店舗で、Edy、iD、WAONを使えるようにした。また、モバイルサイト「トクするケータイサイト」を開設し、携帯電話用のeクーポン「かざすクーポン」の配布を開始した。「折り込みチラシで配布する紙のクーポンは企画から配布まで3カ月かかっていたが、eクーポンなら思い立った即日に配布できる」(宇井氏)。2008年には全クーポンの50%程度だったeクーポンの配布数は、現在85%にも増加している。

 2009年からは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用したBuzzマーケティングに着手。ブロガーを招待した新メニューの試食会を開催し、その模様をUstreamで中継した。さらに、全国の約3100店舗に導入しているBBモバイルポイントを通じて、来店者のニンテンドーDSに体験版ゲームやゲームキャラクターを配布するサービスを開始した。

 宇井氏は、これらのデジタルマーケティングが成功した要因を3つ挙げる。1つは、「デジタルマーケティングの潜在力を正しく理解して、正しい投資をしたこと」(宇井氏)だ。宇井氏は、「デジタルマーケティングを成功させるためには、その効果を過少にも過大にも評価してはいけない」と指摘する。「2007年から2008年にかけて、TVコマーシャルを廃止してBuzzマーケティングに特化する企業が増えたが、結局うまくいかなかったケースが多い。デジタルマーケティングを過大評価してしまった結果だ」(宇井氏)。同社では、eクーポンの割合を増やしつつも、紙のクーポンを廃止することはないという。

 2つ目は、デジタルマーケティングを統率するための組織を作ったことだ。同社は2007年7月に、NTTドコモと共同出資をしてThe JVという新会社を設立し、そこにデジタルマーケティング専門の組織を設置した。「製品プロモやブランディング、IRやリクルートなど、社内にはマーケティングのチャネルを欲しがっている部署がたくさんある。枠が固定されているTVコマーシャルと違って、Webサイトのスペースは無限大。全社のWebコンテンツを統括する部署がないと、Webで提供する情報が爆発して、マーケティング効果が弱まってしまう」(宇井氏)。

 「デジタルマーケティングは、コンテンツの量が少なければ少ないほど効果がある」と宇井氏は説明する。同社のWebサイトやモバイルサイトでは、リンクを必要最低限にとどめ、文字数を極力少なくしている。配信するコンテンツもThe JVの組織が厳選して、絞り込んでいるという。

 最後は、「カスタマー100%思考」のマーケティング方針だ。「マスマーケティングは“企業が伝えたいこと”を訴求する。一方、デジタルマーケティングは“100%顧客が求めるもの”を提供しなくてはならない」(宇井氏)。番組の合間に放映されるTVコマーシャルを見るという行為は受動的行動だが、目当ての企業サイトを検索して閲覧する行為は能動的行動だ。デジタルマーケティングでは、顧客を企業サイトへ誘導するために、100%顧客のためのコンテンツを用意しておかなければいけない。

 同社のWebサイト/モバイルサイトで提供しているコンテンツは、「顧客に近くて有益なものだけに絞り込んでいる」(宇井氏)。1900万人以上の会員数を誇る同社のモバイルサイトには、コンテンツプロバイダーから無料でゲームなどを配布させてほしいという引き合いが多く寄せられるが、基本的にすべて断る方針だという。「サイトのトップページには、スクロール不要の情報量しか載せない。顧客に“うざい”と思われないことがデジタルマーケティングの基本だ」(宇井氏)。