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■KASUMI Exhibition “START LINE”-光と影の世界-(9月14日まで)

2009年09月13日 23時59分53秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(長文です)

 札幌の果澄さんは、札幌デザイナー学院を昨春に卒業したばかりのアーティスト。
 デザイン事務所に属さずフリーで仕事をしているが、北大オリジナルのポストカードや、札幌市交通局ウィズユーカードを手がけるなど、活動の幅を広げている。今回は、初個展(工房アルティスタ主催)。

 昨春の卒業制作展がとても良かったので、大いに期待して出かけたが、予想の通り、すばらしい個展だった。
 インスタレーションとして見た場合、冷静に鑑賞すれば、文字がいささか多すぎるとか、会場が暗いぶん引き立って見えるとか、いろいろ註文はつけられるかもしれない。
 でも、自分としては、そんな技術的なことはまったく些末な問題だと思う。
 会場にいると、彼女がすべての思いを作品にぶつけているのがひしひしと伝わってくるのだ。
 アートの創作にたずさわる人はたぶん、だれもがみな、全身全霊をかたむけているだろう。
 そのはずなのに、実際に展覧会に行くと、腕だけで描いている絵、手だけで作っているように見える立体がけっこう多いのだ。
 もちろん、アマチュアは創作が楽しければいいのであって、かならずしも全力をそそぐ必要はない。
 とはいえ、魂の抜けた作品ばかりでは、困るのだ。
 技術よりも意匠よりも様式よりも、きっと、アートでいちばんたいせつなのは、そこなのだ。





 “The world of light and shadow”
と題された作品は、手前に譜面台のようなものが置かれて、説明のテキストが印刷された紙が載っている。
 その突き当たりに、 a picthre“hikari”と題された絵画の大作が置かれ、そこに続く通路が、a light roadと命名されている。通路の右側には、a box of nature time、左側には、a box of myself time という木の箱が設置されている。
 いずれも横長の、わざと古めかしく見えるよう加工された箱で、人の視線の高さに据え付けられている。

 作品のテーマは「時」で、右側が自然の時間、左側がじぶんの時間-ということなのだろう。

 右側の箱の出だしには

風よ、星よ、海よ、空よ、「時」とはいったいなんなのだろうか。

などとテキストがトレーシングペーパーにつづられている。
 箱はライトボックスのように内側から照らされ、トレーシングペーパーにクマやシカ、森の絵が描かれている。
 トレーシングペーパーを二重にしているため、ぼわっとした感じを出しているのが、心憎い工夫だ。
 絵の手前には、家の周囲でひろってきた枝や松ぼっくりが置かれて、森らしい雰囲気をかもし出している。


           

 その左側には、白い花や小鳥をかたどった立体が配置されている。




 左側半分には、ザトウクジラの絵が描かれ手前に水がたまっている部分と、満点の星空がライトボックスで光っている部分とがある。
 この四つの部分が、風、星、海、空の、冒頭のテキストに対応している。

 鯨の絵の左側には、蒸気を出す装置が仕込んである。

 四つの部分の間には、間奏曲のように、船の絵などが挿入されている。

 そして

自分も自然も全てが、同じ時を生きているということ
いつも、心に描く風景がある

という文で、a box of nature time を締めくくって、鑑賞者の視線を、自然に奥の絵画大作「hikari」に誘導している。





 ほとんど下書きなしで、手が動くままに描いたという絵。
 まわりが板のままなのは、じぶんのまわりの自然を見せたい-という思いが込められている。
 絵の描かれた部分のまるい形状は、心の中にあるようなかたちとのことだ。

 群青の星空。
 地には白く光る、繁茂する植物。
 木の枝かと見まがうかたちは、動物の頭骨だ。

 「旅が好きで、実際には行けなくても旅へのあこがれがいつもある。自分のたどり着きたい風景ってここなのかなあと思って描いた」

 だから、下書きなしでも筆が進んだのだろう。

 筆者は卒業制作展のとき
「ニルヴァーナとは、ひょっとするとこういう境地でしょうか。」
と評したが、それと似た感覚を覚える。

 言葉にすると陳腐になってしまうけど、人生という旅の最終地点が彼女にはもう見えているのだ。それは、暗く冷たい世界ではなくて、こんなにも心あたたまる、なつかしい、癒やされる世界なのだ。
 さらにそこは、彼女だけが到着する地ではなく、人間一般の無意識の領野に広がっている、いわば「永遠の森」とでもいうべきところなのではないか。そんな思いすら浮かんでくる。

 なんだか、臨死体験とか、ユングみたいな話になってきた。
 平生その手の話をあまり信じない筆者であるが、この風景が、これほどスムーズに描出されているということは、確固たるイメージが彼女のなかにできあがっているにちがいない。
 ちょうど、村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の主人公「僕」が、世界の終わり(死の世界)について、壁に囲まれて図書館のある街というたしかなイメージを抱いていたのとおなじように-。
 
 
 長くなったので、a box of myself time については、続きのエントリで。


2009年9月9日(水)-14日(月)9:00-18:00(最終日-14:00)
さぱらホール(中央区南1西4 地図B)



□果澄's art home http://visionquest-jp.com/kasumin/
□ブログ 風と星をさがす旅 http://kasumiart.exblog.jp/

専門学校札幌デザイナー学院 卒業制作展(2008年2月)
ウィズユーカード、果澄さんがデザイン
えとのウィズユーカード


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
果澄さんの「神々の遊ぶ庭」 (怜な)
2013-09-18 20:36:41
こんばんは。

10月の下旬、仕事で富良野に行くので、開催中の展覧会を観に、カンパーナ六花亭に行ってきます。

調べていて分かったのですが、行きたい場所には、バスが動いていない。(六花亭、中富良野の富田ファームなど)、交通機関の不便なところですね。

時間の制約もあるので・・・、可能なら、富田ファームにも行きたいと思っています。
怜なさん、こんばんは (ねむいヤナイ)
2013-09-18 21:36:49
道内は札幌、旭川以外はほんとに不便ですよね。まあ、小樽と函館はまだマシですか。

いま果澄さんが個展を開いているところも、自動車なしでは非常に厳しいです。

ひとくちに「富良野」といっても、富田ファームは上富良野ですし、富良野市からはかなり遠いです。お気をつけて。
香澄さんの個展、観に行って良かったです。 (怜な)
2013-10-28 21:49:49
こんばんは。
まず、展示の配置が良かったです。広い空間の中央に、円形を囲むように、天井から吊り下げた外側5枚?の水墨画に、内側は油彩画です。
その円形は、中央に水の器、その回りは白い小石(白州)が撒かれていて、それらを囲むようにある、暗紅色の板模様は、この世とあの世の渡り廊下のような感じです。
そこから窓側に見えるのが、黒がかった長方形の作り物。 全体が神々の祭壇のようですね。

群青の空、海、生き物の世界は深い空間で、香澄さんの心に浮かぶ不思議な世界ですね。「愛ディア」と書かれていましたが、そんなところから、イメージが湧き出るのでしょうと思ったのが感想です。本当に行って良かったです。
怜なさん、こんばんは (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2013-10-28 22:36:19
富良野での果澄さんの個展、ごらんになったのですね。うらやましいです。自分はちょっと難しそうです。

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