ラジオ波熱凝固療法について

この数日間、乳がんにおけるラジオ波熱凝固療法という治療法についてツイッター上で見かけることがあり、色々考えていた。
asahi.com 乳がん「切らずに治す」は限定的に 乳癌学会が警鐘

ラジオ波は乳がんに限らず、外の部位のがんにも使用されるらしい。
肝臓の場合
この記述を見ると、1999年から臨床に応用されているらしい。
そして、Googleでラジオ波で検索すると、ダイエットや美容にも使われていることが伺える。
Google 検索結果

実は、私がまだ手術を受ける前だかそれくらいに、ラジオ波についての特集がTVでやっているのを見て食いついた記憶がある。
そのときの私は、切らずに済むことばかりを考えていた。
やはり胸は失いたくない。
失った直後は、胸を回復することばかり考えていた。
今だって、できることなら再建をすぐにでも受けたい。

でも、最近は考え方が変わってきた。
最初は胸のない生活は惨めで悲惨だと思っていた。
確かに胸がないことの悲しみは変わらないのだが、がんのことを知るにつれ、改めてこの病気の恐ろしさ、そしてまだ自分がやっと経過診察に入ったところだということ、この10年はずっと再発や転移の恐怖と共にいきなければならないことを思うと、「胸を切らないリスク」について真剣に考えているところだった。

私は告知から15日間で手術を受けた。
その間は不安で不安で仕方がなかったが、他の人は2ヶ月も3ヶ月も待つ人もいる。
その間の気持ちはとてもじゃないが言葉にはならない。
きらないといけない怖さと、本当にがんなの?と信じたくない気持ち、そしてもしがんなら、手術を待つ間にどんどん大きくなるのではないかという不安。

そんなときに「きらずに済む」といわれたら、飛びつきたくなるのは当然の心理状態だと思う。
ラジオ波治療は大雑把に言うと、針のようなものを患部に刺し、60〜80度の熱でがんを死滅させるというものらしい。焼ききるようなイメージか。
この治療のメリットは、
・長期入院しなくて済むこと
・体への負担が軽い (痛みが軽度)
・術後の回復が早い (術後から普通の生活が可能)
・他の病気を持つ方でも治療が可能
ということらしい。
しかしデメリットは、
・自費のため費用が高い
・長期にわたるデーターがない
・効果の判定が困難
・長期間にしこりが残る場合がある

自費ということは相当な額になると思う。
あるウェブページでは『本法は新しい治療のため当日の費用は全額自己負担(32万円)となります。』と書いてあった。
この新しい治療というのが曲者である。

この上げられているデメリットの恐ろしさが分かるだろうか。
『日本では現時点で約10施設に臨床導入され、すでに治療数は200人を超えています。』とあるが、たった200人程度で効果を検証するのは危ないといえる。

日本は年間、1万人の女性が乳がんで亡くなっている。
年間約5万人が乳がんに罹患して、治療を受けている。
そして日本には標準治療がある。
がん情報サイト 乳がんの治療


標準治療は、ステージによるが手術、抗がん剤放射線治療の3つがセットになっている。
もちろん、この組み合わせはそれぞれの症状により変わるし、量も人によって違う。
私は最初標準治療と聞いたときに、「個人個人の症状よりも、とりあえず治療するパック」のようなイメージがあったが、それは間違いだった。
治療はあくまでも個人個人のオーダーメイドであり、標準と呼ばれているのは、膨大な数の患者と医療者による検証結果により導き出された治療ということだと、今では思う。

私の主治医が言うには、一番大事なのは抗がん剤、二番目が手術と放射線だという。
手術と放射線の優先順位は、タイプなどによるらしい。
局所をすばやく取り除き、抗がん剤で全身に散らばっているがん組織を叩く。これが乳がん治療の基本だそうだ。

手術が二番目だからといって、簡単なものではないと思う。
がんは固まっている部分だけを切り取ればいいのではなく、その周りの健康な組織も含めて切りとらなければならないらしい。
あやまってがん組織を切ってしまうと、そこから拡散すると聞いた。
つまり、手術は「うまく手早くきる」ということと「正確な範囲を理解し切り取る」というこの2つが大事なようだ。
外科手術だけでなく、病理診断や腫瘍の範囲をきちんと探る検査がほとんどを決める、といっていた。
だから、外科医一人で出来るものではなく、複数の医師や薬剤師たちがチームになって治療に当たっている。

チーム医療については、現実で来ていない部分も多いだろうし、日本の医療制度の中ではなかなか難しい面もあるようだが。


ラジオ波の治療では患部のみ焼ききる印象だが、実際はどうなのだろうか。
私はリンパ節に転移していた。
そういうことは実際手術しなければ分からないらしい。
主治医曰く「手術はがんの切除も目的だが、切る前にほとんど範囲が分かって居なければ手術できないし、リンパ節に関しては切ってみて初めて分かることが多い」との事だ。

先ほど上げたラジオ波のデメリットは、メリットと同じように扱えるレベルに私は思えない。

確かに、放射線治療だけで済む人、抗がん剤放射線だけという人、手術をせずに済む人もいるらしい。
しかし、それはその人のがんの進行度やタイプをよくよく調べないと分からないし、基本的には標準治療を良く検討した上での結論でなければならないと思う。

私だって切りたくなかった。
でも、きらなければ危なかった。これは事実なのだ。

「胸か、命か。」この選択が、今ほどはっきりとクリアに見えている自分は、今までにない。