高利貸が取ったカネはどこに行ったのか。

 引き続いて武富士の話である。過払い問題の本質は、利息制限法で規定される金利以上に借り手が過去払っていた金利の返還である。武富士の全過払い債務は1-2兆円だという報道が出ていたが、この幅広いレンジに戸惑うものの、年間1000億弱のキャッシュアウトがここ数年続いている事からすれば、感覚的にはそんなものだと思う。武富士の2010年6末の利息返還引当金は2100億だから、概ね10-20%を引き当てている計算だ。仮に、全過払い債務を中心値の1.5兆円とすると、武富士自己資本は1500億であり、2100億の引当を充当しても、単純な引き算では1.14兆という天文学的マイナスになる。もう少し精緻に計算するには税金の要素が必須だが、今後武富士が利益をじゃんじゃん上げられるとは思えないけれど、仮に40%の税効果が使えたら、6200億ちょっとの債務超過である。税前ベースに直すと1兆円ちょいだ。武富士が一旦利息として受け取った金額の内、1兆円が会社に残っていない。このカネは果たしてどこに行ったのだろう。
 まず考えつくのは、儲けが創業家を中心とした株主に抜かれた部分である。武富士の上場は96年で、96年以降10年3月期までの純利益累計は僅かに1230億である。これは、07年3月期と09年3月期の合計7000億を超える巨額赤字が足を引っ張っているからで、これが無ければ上場していた15年平均累計で8600億、年平均570億の利益を上げていた。ただ、この利益の内、株主に行ったのは配当分で、これは15年累計で1970億である。利益を上回る分が配当として結果的に株主に流出していた訳だ。ただ、過払い損失無かりせばベースで、15年合計の配当性向は23%だから、別に非難される様な数字では無い。また、過払いの歴史は長いが、武富士の上場歴もそれなりに長いので、上場後のフローで概ね計算は代替できるだろう。
 ここで重要なのは、別枠でキャピタルゲインはあるにせよ、借り手から受け取った利息を資金原資とすると、会社に無い1兆円の内、1970億しか株主に抜けていないということである。ざっと8000億がどこかに消えている。さてどこかと。しきりに税前税後と言っているので、お気づきの事と思うが、おそらく一番大きいのは国が税金として徴収した分である。引当は有税だが、簡便的に07年3月期の巨額赤字の前までは普通に税金を払っていたとすると、上場後それまでの累計純利益は8400億、税率をなめて40%とすると、税金分は5600億である。半分以上が税金に消えた事になる。
 まだ残りが2400億有るが、これは何かと。利益と配当と税金は見たので、残りは損益計算書上で税引き前利益より上にある費用項目の筈である。最初はリスク相当分かなと思った。しかし、今の消費者金融ビジネスは、かつてほど高収益では無いが、何とか利息制限法の範囲内で貸して、トントンからちょい利益を出せている。弁護士介入の増加と、貸金業の衰退によるリファイナンス能力の低下により、大手消費者金融のデフォルト率はかつてより今の方が高いのに回っているのである。ここからすれば、高リスクなので高利で貸しているという以前の消費者金融側の主張は誤りであって、過去負担していたリスク分は小さかったので、そこに消えたという事は無い。次の主要費用項目は支払金利だが、これは変動費で、かつ今の方が規模縮小で絶対値は縮んでも、スプレッドは上がっているだろうから、上記のリスク相当分の議論と同じで、以前の方が単位あたりの負担が軽く、消えたお金では無い。
 それで、色々と考えてみると、おそらく営業経費なのでは無いかという推論に行き着く。武富士の全盛期だった2000年代初頭は、1000億前後の利益をあげる為に、1000億の営業経費を掛けていた。それが今では400-500億と半減している。具体的に言えば、かつて200億有った人件費は半減、150億内外の賃貸料・減価償却も半減、同じく150億前後の広告宣伝費(!)は3分の1である。人と店舗と広告に払っていた500億が、今や200億ちょっとという状況なのだ。おそらくは、借り手から徴収した高い利息で社員と店舗と懐かしい「¥結び」を維持し、広告を打って集客していたのだと思われる。高い利息が高いコスト構造を可能にしたということだ。よって、利息が下がった今では店舗もCMも見なくなるという訳である。もし今のコスト構造で2000年初頭もビジネスが出来ていたら、この分は丸儲けになり、丸儲けの内税金と配当を引いた分は自己資本として会社に残っていた筈である。今より年間500億も経費が高ければ、全盛期との規模の差の勘案とか厳密な議論では無いが、2400億が消えるには十分な使い道である。
 まとめれば、利息制限法以上に取った高い金利の内、会社に残っていない約1兆円相当は、ざくっと55%が税金、25%が人と店舗と広告他の営業経費、20%が株主への配当に消えたという事である。比較的低所得者層と思われる消費者金融利用者の多大なる金利負担で、国と社員と非都心の駅前ビルオーナーとテレビ局・広告代理店、そして株主が食っていたという構造だ。故意じゃ無いにしても、国は出資法と利息制限法という二重構造を放置することで、結果的に大手4社合計でおそらく2兆円とかが、乏しい税収の足しになった。しかし、その原資が主に低所得者層の税後収入であるというのは、逆進性の極みで、天を仰ぎたい感じである。そして、武富士はたまたま起きた法令解釈の変化と規制強化で苦しむことになったが、今の長期化する不況には、すべからく企業一般が苦しんでいる。敷衍してみれば、国・正社員・非都心の駅前ビル・テレビ業界などが、いま環境激変に大変きつい思いをしているのは、要は企業に潤沢なマージンが無いと救われないセクターはそこだという事なのである。

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