水月光庵[sui gakko an]

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博士の完全雇用 信用回復こそ急げ

2010年07月07日 | 庵主のつぶやき
ポスドク問題の解決に、文科省と経済産業省が手を組んで乗り出すそうだ。(ポスドク:就職難解決へ 10年後の完全雇用目指し本腰 毎日新聞:2010年7月6日)

政府は、新成長戦略として「科学・技術立国」を高らかに謳い、先に発表された「2010年版科学技術白書」にも、博士の増産を目指すことが明記されている。その絡みなのだろう、博士課程修了者の完全雇用を二〇年に実現するという、壮大な目標も掲げる。

実現すれば、無論、こんな素晴らしいことはないが、いくつかの疑問が頭をもたげる。

たとえば、科学技術白書で説明される「博士の就職率」。
三割がポスドク、二割が進路不明、そして五割がなんと大学や企業などへの就職とある。

一般の人が見たら、誤解を招くような表現である。「結構、就職してるじゃないか!」と。

だが、この「大学や企業への就職 五割」という数字には、実は問題が含まれている。正規雇用での「就職」は(白書で説明されるような)五割もいないはずだ。大学や企業などでは、〝非正規雇用〟や〝任期付き雇用〟で働いている教員や社員も多数いるからだ。

よく指摘されるのは、「非常勤講師」の存在。各地の大学がまとめた院生の就職率の項目などに目をこらすと、「就職した人」のなかに、これが組み入れられているのを、結構な頻度で見かける。だが、非常勤講師は時給いくらで働くバイトの先生であることは業界では常識だ。なのに、「就職」にカウントされる。もし、大卒で仕事が見つからずコンビニでバイトする人を、「就職」欄に隠して入れて発表したとしたら、世間はどう思うだろうか。それと同じレベルのことが、大学院修了者に対する就職状況調べでは、いろんなところで半ば当たり前のようにして行われているから不思議だ。企業への就職でも同じことで、民間の登録会社から派遣されている博士だって少なくない。

そうした数字を含めて、やっと五割となっているのが実情ではないだろうか。
ついでに言うと、進路不明の場合は、フリーターなどになっているケースが少なくない。
とすれば、博士課程修了者のうちのまず五割以上が非正規雇用という現実が見えてくる。

こうした現実をきちんと把握しないまま、二〇年に完全雇用とぶちあげられても、多くの博士たちは内心しらけきっているはずだ。

いま大事なことは、根拠に乏しい調子のよい発言をすることではなく、もっとポスドク問題の現場の惨状を素直に見つめ、きちんとした現状把握を行い現実的な提言をしていくことではなかろうか。

この約二〇年のうちに進められてきた「大学院重点化」政策によって、多くの大学関係者の心に傷跡を残していることも無視できない。国の言うことに疑いの眼差しを向ける現場の教員や若手博士たちは少なくない。やるべきは、現場と国の信用の再構築である。それにより、新しく博士課程を目指す若い人たちにも初めて希望が見えてくる。

そして、もう一つ指摘しておかねばならないことは、もし、将来的に博士たちの完全雇用が為ったとしても、今現在数万人(十万人に迫ると言われる)にのぼるノラ(野良)博士たちの雇用問題はどうなるのか? ということだ。 科学技術とは直接関係しないと見られがちな文系博士はどうか? 恐らく放置のままだろう。十年後、彼らはきっとホームレス状態だ。

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