新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

リストラなう!その4 バレまくり!の恐怖

 今夜は昨日とうって変わって暖かい!ですね。ちょっと風があるので、せっかく満開を迎えた桜が散ってしまうんじゃないかと心配です。でもその風も暖かい。空気の温度が数度違うだけでこんなに幸せになれるなんて、俺って単純だなあ。
 2カ月後には野良犬になるわけだが、春風は野良犬の気持ちもウキウキさせるんだ。素晴らしいぞ春風。まあ、今はまだ首に鎖がついているんだが。
 俺は野良犬になる!って決意はしたんだが、実際のところまだ辞めてないわけで、退職願の受理もされてないわけで、普通の会社員なのだ。雇われ、月給取り、宮仕えだ。これが問題で、会社員であるうちは遵守すべき決まり事が多いのだ。しかもその多くが不文律というやつで、誰もはっきり教えてくれないし、いまいち頭の悪いたぬきちにはピンと来ない。だからこんなブログを書き始めたんだが——。


■ついに2ちゃんに晒され!
 不用意に書き始めたブログを、大勢の人に読まれるのにやっと慣れた。最初は本当に目眩がした。「はてぶ」の際限もなく続くブックマークとコメントを見ていたらグラッときたのだ。でも、それもなんとか慣れた。
 と思ったら、今度は別の事態が発生した。
 どうも身近なやつに読まれているようなのだ。
「このたぬきちってやつ、誰ですか?」
 よそのセクションで誰かが誰かにそう訊いてたらしい。読んだのか?
「これ、君でしょ」
 ニヤニヤと会心の笑顔で近づいてくる先輩。この人も対象者だ。飄々としてて憎めない。
「………なんで知ってるんですか!?」
「URLがね、どこからともなく流れてきたんだよ」
 そんなわきゃ、あるわけないだろ。メールってのは差出人も受取人もはっきりしてるもンじゃないか。
 iPhoneがぶるっと鳴ってメールが届いた。開くと、「気をつけろ。不用意なことを書くな。隠忍自重」とある。ご忠告ありがとう。だけど、誰だお前——?
 なんだか誰もが僕をチラチラ見てるような錯覚に陥る。こんな気分は十年前鬱病やって、帽子かぶらなきゃ外出できなかった時以来だ。
 向こうの席でまたニヤニヤして僕を招くやつがいる。
「これ、知ってる?」
 ウインドウズLIVEメールの画面に、見慣れたURLが。これかぁ。
「向かいの会社の編集部から来たんだよ」
 うう、頭が痛い。お調子者どもが。いや最大のお調子者は俺か。まことにwebの伝播力というのは凄いのう。
 ていうか、僕、これでも気をつかって社名とか伏せてるんですけど。なんでバレるかなー?
 そして午後、いつも見慣れたグダグダを読みたくて某2ちゃんねるの某スレッドを訪れた。
——! ここにもURLが貼ってある。
 ついに来たか。2ちゃんねる
 この匿名巨大掲示板は、その片隅に出版社のゴシップばかり集まったカテゴリーがあり、この会社のスレッドももう何年も続いていた。ずっと以前にあった「O羽の杜の怖い話」とかいうスレッドは傑作だったけど(山田伯爵邸跡の怪談とか面白かったんですよ)、会社のスレッドはあんまり面白くなくて、不満分子とゴシップ好きが散発的な会話を続ける、雑居房の落書きみたいな状態だった。時々実名を出して集中的に個人をDISる書き込みがあったりして、いかにも陰湿で醜い掲示板だ。俺もDISられたり、連呼されたり、スパムコメントをつけられたりするのだろうか?? F5砲とか?
 とはいっても僕個人は2ちゃんは嫌いじゃない。むしろ、光輝く時代のあった素晴らしいメディアだったと思う。今は凋落してるけどね。とくに鬱病で休職したときはメンヘル板にはお世話になりました。メンヘル板住人だったみんな、元気かなー? 自殺なんかしてないといいがなー。
 話を元へ戻そう。2ちゃんねらって何を根拠にこんな晒し方をするかなー。そのスレッドタイトルには特定企業の社名が入ってるけど、見当違いなこと書かれてこの会社さんも迷惑だろーに。
 などとしらばっくれてみたけど、遅いかナ?


2ちゃんねらー情報弱者なのか(含む俺)?
 前日の異様な訪問者数の増加は、TwitterのRTを中心としたものだった。ずっと以前だったら2ちゃんねるが一番傑出したメディアだったので、すぐに情報は2ちゃんに集約され、もっとずっと早くURLを晒されていたことだろう。
 しかし、予想したより一日も二日も遅かった。2ちゃんのずっと前に社内の一部にはURLが流出してたし。これもたぶんTwitterの線が疑わしい。2ちゃんに集まっている人は、こう言っちゃ悪いが、今や他の新しい媒体をキャッチアップできない、どっちかというと情報弱者な感じがする。新しい情報はなかなか入らないし、発言もただの鬱憤晴らしや遠吠えが多くて、参考にならないからだ。面白くもない(そのグダグダ感も捨てがたいのだが)。
 反対にTwitterは、多くのフリーランサーが実名で参加しており、僕が見たところでは社員編集者や営業、そして書店さんの公式や個人アカウントが仮名で、それでもゆるーく人物の特定を許すように集まって、わりと発展性やオチのある話をしている。最近僕のタイムラインはある書店チェーンの連絡板みたいになってるし…。ボブ・ディランのコンサートやスワローズの試合の詳報が飛び交ってて面白いゾ。それはさておき。
 今回わかったのは、今熱い情報が集まるのは、圧倒的にTwitterで、2ちゃんねるはその破壊力も伝播力も失いつつある、ということだ。若さを失いつつある、という感じだ。もともとマスコミ関連のスレッドは特定の書き手が何人かいただけの過疎スレだったかもしれないし。
 そして、このブログをもっとも広めてくれたのは……あらら、一昨日の佐々木俊尚さんのツイートだったのね。しかもなんか具体的な企業名言っちゃってるし! 
 そうか、大恩人のしわざじゃーしょうがないな。許そう。いやいや、諦めよう。
 でもとりあえず、このブログでは社名を出さないスタイルは当面変えないしそれが正解だと認めもしませんので、解釈とかしたい方は自己責任でご判断くださいね。


■見てるのは2ちゃんねらだけじゃない
 こうしていろんな人から見られていることがわかった「リストラなう」日記だが、よくよく考えると、いちばん問題なのは2ちゃんねらのみなさんじゃなくて、会社が見てるかどうかなのだ。会社が、この不用意で迂闊なブログを読んだら、「会社の不利益になることを書き散らした件」とかで僕を罰しないとも限らない。
 そう考えると正直、首筋が寒くなる。
 なにしろ僕はまだ野良犬じゃなくて、この首には頑丈な鎖がかけられているから。餌を飼い主からもらってる、依存してる立場だ。飼い主の顔色をうかがうのは辛いのう。
 今日、総務の偉い人が部屋にやってきて、営業の偉い人を呼び出して消えていった。あれは僕のことを相談してるんじゃないだろうか? あの不用意なやつ、目障りなやつ、気にくわないのでクビだっ!とかなるんじゃなかろうか、このブログ読んだりしたら。ぶるぶるぶる。
 自己規制すべきか。
 うーん。
 けっこう逡巡した。たっぷり2分くらい。
 で、自己規制を考えないでもなかったけど、やらないことにした。基本、今回のリストラに関して知ったことは全部書く。
 ただし、個人に迷惑をかけたくないので、特定個人のことは書かない。また、公共の利益に反することがあればこの限りではない。
 また、間違ったことを書いてしまったら、きちんと検証して糺す。訂正依頼があったら話し合って、経過を含めて書く。という風に原則を決めた。
 なぜ書くのを辞めないかというと、こんなこと始めちゃった僕にはもはや、外部の人に対する説明責任があると考えたからだ。この会社はこれまでほとんど情報公開をしてこなかった。今回のリストラの件も、業界紙のごく短い記事で「始めた」ことは報道されたが、その後について、あるいは途中で社員の身に何が起きているかは皆目見当がつかない。僕ら社員ですら、隣の同僚に何が起きているか、知ることができない。
 これが社内の雰囲気を悪くしている元凶だ。リストラの地獄に特有の現象だ。
 だから僕は、状況に風穴を開けるために、このブログを書き始めたんだ。いま気づいた。
 もしかしてこっぴどく叱られるかもしれない。退職金を取り上げられるとかあるかもしれない。そう考えると正直恐怖だが、そんなことなさいますか?
 そしてもう一つ、僕は取引先である書店のみなさんに、何が起きているか、そこで僕は何を感じているかを伝えたいのだ。これこそ説明責任だ。
 リストラの話は書店業界にも当然伝わっている。リストラが簡単にはうまくいかないこともみなさんは重々ご承知だ。あのおっとりとした会社がリストラなんて、どうなるの? そう心配してくれる方が何人もいる。
 今日はTwitterで「倒産しないためのリストラですから、今の時点で早合点して返品するような書店員が出ないことを祈ります」と投稿してくださった方がいた。この方は本当によくしてくださる、大恩ある方だ。その通りだ。そして、僕らはそれを忘れがちだ——。倒れまいとして今苦しんでいるのだ。踏ん張っているのだ。僕らは。会社も。
 

■続・佐々木俊尚本のどこから勇気をもらったか
 いや、正直、こんな状況下でもしも会社に睨まれたらどうしよう、って悩みましたよ。それなのにこんなブログ始めちゃって、さらに計算違いで大勢の人に読まれるようになってしまい、迂闊千万。
 でも、こういう状況のことも佐々木俊尚さんはすでに書いていた。迷った僕が教えを請いに行く前に、答えはすでに書店の平台に置かれていたのだった。
 それがこれ。
 そしてやっぱり決定版はこれ。
 前者は、webを使って自分をソーシャル化する方法、ソーシャル化する意味、リスク管理について書かれた本だ。今回の僕の悩みは、この本を読むと氷解した。僕は、僕なりの方法であまり洗練されてないけど、間違ったことはしてないぞ。そう確信できた。こうやって情報をオープンにすることのほうが、クローズドでいるより強いんだ。とくに個人はオープンソース(?)になってしまうことで、ずっとずっと強くなる。
 後者は昨日も紹介した、ノマド(誰にも頼らない)仕事術の本。この本は本当に勇気が出る。
正規雇用が消滅していき、すべての人々が契約社員フリーランスとなる社会へ。
 会社に頼っていれば何とかなった時代から、自分自身で人生を切り拓かなければならない時代へ」
(まえがきより)
 今僕たちが必要としている物の見方が、ズバリとここに記されている。以下、この本は、大変ハードルが高いと思ってしまう「誰にも頼らない生き方働き方」を、iPhoneクラウドコンピューティングを使えば割と楽に実現できるんだよ、と悪魔の囁きをくれるのだ。
 ただし、そのためには自己管理が重要だ。会社員でいたこれまでは、自分のメンテを会社の保険機構に一任しっぱなしだったり、二日酔いで出社しても平気な自堕落だったりした。個人をベースに生きるとは、そういう甘えたことはできないということだ。そのための方法、注意力や緊張感を持続させる方法、緊張をほぐす方法なども、佐々木さん自身の私生活をオープンにしながら紹介してくれる。ここがシビレた。著者自身がここまで自分を晒していいのか、手の内を見せていいのか。
 いや、いいんだ。本当に大事なことは、隠すべきじゃない。共有すべきだ。
 僕はそう感じた。だから、辞めることを決めたとき、ブログを書こうと思ったのだ。(つづく)