ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

首相記者会見の「オープン化」を新聞各社はどう伝えたか

内閣記者会が主催する首相記者会見の「オープン化」*1を新聞各社がどのように伝えたか、また伝えなかったのか、電通が「日本の広告費」でインターネットが新聞を抜いたことを発表した際(新聞はインターネットが新聞広告費を抜いたことをどう伝えたか)と同じように各紙を購入して、まとめてみました。朝日、毎日、産経、東京はニュースとして取り上げていましたが、読売と日経は扱いなしと分かれました。

最も大きく扱ったのは朝日4面(政治)で『フリーの記者からは会見オープン化を一層進めるよう求める質問が相次いだ』など詳しく報じています。毎日は29面(社会)、産経は4面(総合)、東京は2面(政治)、いずれも写真付き。扱う面が微妙に違うのも興味深いものがあります。
読売は首相記者会見の関連記事を1、2、3、4面に、日経は3、5面に展開し、要旨もありましたが、オープン化に関する記述はありませんでした。各紙の見出しタイトルと大きさ、記事の抜粋です。<要旨>はオープン化記事ではなく、別建ての会見要旨に掲載されたものです。

  • 朝日新聞(13版):フリー記者らも40人、首相「開かれた会見 第一歩」(2.5段、写真あり)『加盟社以外の参加資格に「十分な活動実績・実態を有する」など一定の基準がつけられている点を踏まえ、首相は「まだ不十分だと思っている。さらにオープンに努めたい」』『閣僚の記者会見の一部がオープン化されていない状況についても質問が出たが、首相は「国民に開かれた内閣の姿を示す必要がある。閣内不一致と言われないよう、私のほうから(オープン化を)申してまいりたい」と述べた』
  • 毎日新聞(14新版):鳩山首相会見を フリー記者開放、約40人出席(ベタ、写真あり、上杉隆氏写る)『約1時間の会見では、14の質問があったが、うち4問が主催する内閣記者会以外の国内のフリー記者から。大半は「首相主催の会見を開く考えはないか」「他省庁の会見もオープンにする考えはないか」といった記者会見に関する内容だった。鳩山首相は「検討する」などと答えた』『<要旨>私が記者会見をオープンにしていくので、全大臣に「私は開きましたよ」と言う。閣内不一致と言われないように統一を目指す』
  • 産經新聞(14版):首相がオープン会見、珍質問など続出(囲み、写真あり)『出席したフリーランス記者の上杉隆氏は「世界中のジャーナリストにかわって御礼申し上げたい。質問はありません」と珍質問。「個人の能力を超えたことを平野博文官房長官に要求するのは酷だ。官房長官のチェンジも視野にないか。国民の切なる願いだ」(日本インターネット新聞の竹内尚文氏)という激辛質問も飛び出し、平野氏は苦笑いするしかなかった』『<要旨>首相官邸ホームページで、記者会見の質問者の氏名を公表すべきだ。私が主催する記者会見をより多く開くことも検討したい』
  • 東京新聞(11版S):「開かれた」首相会見 辛口意見も、フリー記者ら10人が初参加(囲み、写真あり)『首相は冒頭発言で「開かれた会見への第一歩を踏み出した」と意義を強調した。首相の弟、鳩山邦夫元総務相の秘書だったフリー記者は、首相会見のオープン化について「世界中のジャーナリストに代わってお礼を申しあげる。質問はありません」と賛辞を贈った』
  • 参考、共同通信(47news):首相会見初のオープン化 フリー、ネット記者が参加『首相会見のオープン化は初めてで、首相も「開かれた会見への第一歩を踏み出した」と意義を強調した』

首相官邸のホームページにも、既に会見と質疑応答が掲載されていて、(注)質問者の氏名の掲載については現在検討中、との記載があります。映像は政府インターネットテレビで見ることが出来ます。
NHKスペシャル「激震 マスメディア 〜テレビ・新聞の未来〜」でもコメントしましたが、ネット生中継や政府の情報発信によって誰もが会見の様子を確認できるようになると、マスメディアが何を伝えて、何を伝えなかったかも明らかになるようになりました。個人的には、読売や日経が記者会見のオープン化を伝えなかったのは、悪いとか問題とかいうものではなく、読者が編集方針を理解して読み解けばよいでしょう(どの新聞も同じ方が気持ち悪い。客観報道を名乗るのは早くやめた方がいい)。 読み手のリテラシーも問われることになります。
また、せっかく指名されたのに「質問ありません」は残念でした。ネットでは、既存マスメディアの質問は下らない質が低い、といった批判もありますが、これではネットのレベルも…と言われかねず、実際に産経に珍質問と書かれてしまいました。上杉氏や神保さんらフリージャーナリストの力でオープン化が実現した経緯は間違いありませんが、記者会見に参加することは目的ではなく手段のはず。オープン化したとはいえ誰もが参加できるわけではなく、時間の都合もあり質問できる人も限られます。ジャーナリストは、国民に代わって質問しているということを忘れず、既存メディアかネットかフリーかという対立ではなく、個人として質問でも競い合うようになることを望みます。
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*1:参加は従来の日本新聞協会の加盟社に加えて、特派員や雑誌記者が一部認められていたがオブザーバー参加で質問は出来なかった。今後は1)日本専門新聞協会会員社に所属、2)日本雑誌協会会員社に所属、3)外務省が発行する外国記者登録証保持者、4)日本インターネット報道協会法人会員社に所属、5)署名記事を提供し十分な活動実績・実態を有する―の、いずれかに該当すれば参加できるようになる。いわゆる「外務省基準」が採用されている