マグロ最前線 うおまるコラム/養殖まぐろと蓄養まぐろの違いは?

1990年代は、一般のスーパーや回転寿司で販売、使用されているマグロをいえばメバチの脂物が主流でした。本マグロ、ミナミマグロは価格的、品質の安定にも無理があったようです。

しかし最近はあちこちで見かけるようになり、今や日本の出回っている高級マグロの約3分の1を占めるまでなってきました。生産量は毎年着実に増加していますし、既に年間を通じて切れ目ない供給体制が整っております。

養殖、蓄養の出現でスーパーの求めている条件つまり供給が安定している、価格も天然に比べて安価、品質もプロ以外の人が取り扱っても扱いやすい。このように供給量・価格・品質をうまくクリアーした商材といえるようです。知らず知らずのうちに寿司屋や居酒屋などで食べている可能性はあるかもしれませんね。

"養殖"はタイ、ハマチで馴染み深いですが、"蓄養"という言葉は最近使われ始め、あまり馴染みがないと思います。ところで消費者で"養殖マグロ"と"蓄養マグロ"も同意であると思っている方もおられますが・・・さてさて違いは?

われわれの業界では地中海、メキシコ、オーストラリア産は”蓄養マグロ”、日本産のモノは”養殖マグロ”と呼んでおりますが、日本農林規格(JAS)法では、給餌した水産物はすべて『養殖』表記をするよう義務付けられているので、店頭では”養殖マグロ””蓄養マグロ”も同じ”養殖マグロ”という表記になります。

"養殖"とは稚魚(卵からかえったばかりの魚)から育てたマグロ。もしくは、卵からふ化させた完全養殖のことを指します。(2002年7月に串本で成功)産地は完全養殖に成功した和歌山の串本を始め、沖縄(本部)、奄美大島、長崎(福江)がこの部類に属します。

日本は、世界中のマグロを買いあさる、当然風当たりは強い。ワシントン条約の対象にもなったことは記憶に新しいと思います。そこでマグロの資源を保護し、一方で確保することが重要になってくる。稚魚(天然の小さなマグロ)を獲って育てる豪州や西欧諸国の蓄養では資源保護にならないため、卵から成魚まで一貫生産することが必須、そんな思いがあったようです。

和歌山串本では、養殖に着手したのが1970年、32年の歳月を費やして平成14年に成功しました。それまでのご苦労は、並大抵ではありません。いけす10基は直径31m、水深10〜15m、常時5000〜6000匹を養殖しています。 マグロを育てるには、酸素をたっぷり含んだきれいな水に恵まれている場所を選択。稚魚は簡単に入手できたが、定置網にかかったマグロは、衝突したり暴れたり傷ついたりしてすぐに死んでしまいます。またエサとか水温調節、水温管理など色々と試行錯誤をしながら、いけす養殖を始めて9年目に、5歳のクロマグロが世界で始めて自然産卵そしてふ化にも成功しましたが、2ヶ月も持たずに全滅しました。大きくなっても産卵しない。この繰り返しが12年も続いたと言われています。

クロマグロの成魚は1回につき1千万個以上の卵を産む。しかし成魚に育つのは1匹だと言われる。成魚になるまでは、幾つものヤマがある。ふ化後7日間〜10日間の間に大半が死んでしまう。20日ほど経過すると今度はエサを与えても共食いが起きます。30日〜60日たつと猛スピードで泳ぐようになり、水槽にぶつかって死ぬ。サバほど成育すると、水槽から海中のいけすに移動されるわけですが、ここでも網に引っかかったり、衝突したりする。マグロは非常に光にはパニックになるくらい過敏に反応する。マグロを1キロ増やすには、イワシ、サバなどエサが15キロほど必要です。当初の卵から成魚までの生存率は0.1%だったが、努力を重ねて現在では3%まで高まった。 現在では、串本よりも奄美大島で人工孵化し出荷するのが大半です。

ベンチャー企業としてアーマリン近大が、販売を手掛け入荷時期を調整しながらほぼオールーシーズン対応しており、平成16年関西の百貨店に初出荷。平成17年9月には日本橋三越本店で週一匹のペースで販売。首都圏や関西のスーパーでもマグロを販売促進することで大学の名前が浸透するとともに、生産履歴を公開することで安心安全を売り物にし週に10本〜15本出荷し、年間売り上げも3億円まで成長してきました。また2007年4月には初めてアメリカ、ロサンゼルスに出荷しました。但し、大手スーパーや百貨店に大量販売するにはまだ難しい現状ですし、 課題もないわけではありません。要するに稚魚がなければ養殖業は成り立たないし、漁師の高齢化も懸念材料の一つです。稚魚(数百グラム)は壱岐、対馬、四国、紀伊半島で獲られ、高値で買い取られています。

"蓄養"は言葉通り「蓄え養う」と書きます。若魚や成魚(成長した魚)特に脂の薄いマグロを捕らえて生け簀(直径約50m)でエサを与えて育てたマグロです。スペイン、マルタ、イタリア、トルコ、クロアチア、キプロスの本まぐろ。オーストラリアのミナミマグロがこの部類に属します。

成魚からエサ(イカ・イワシ・サバ)を与えて天然モノでは約1〜2割しかないトロの部分を約2〜4割り増やすと言われています。

生け簀は海と違って狭いので必然的に運動量は少なくなり、身も柔らかくなります。その上エサを与えるので当然トロの部分が増えるわけです。

スペイン(カルタヘナ)では、本マグロの好漁場である地中海で、春から夏にかけて脂の抜け落ちた俗にいう「やせまぐろ」が回遊している。従来は缶詰(シーチキン)の材料であったが、蓄養して出荷すれば現地価格の20倍ぐらいにはなるとの予測で事業を1995年から始めました。

現在では、需要と供給のバランス、値動きを見て日本に届く5日前まで発注すればよいシステムが構築されています。スペインの成功は地中海沿岸のクロアチア、マルタでも蓄養が始まり、フランス、イタリアでも参入計画が進んでいると聞いております。日本への出荷は9月〜5月頃まで。

オーストラリア(ポートリンカーン)では、1991年から事業が始まりました。港から約20km離れた沖合の湾内に、直径約40mのいけすで、12月頃、回遊して来る体重20k〜30kぐらいのマグロを捕獲し、6〜8ヶ月ほどかけて約40k〜50kの大きさにする。トロ身を増やすためにイワシをエサとして与える。イワシ臭を抑えるために出荷の2〜3日前までと言われています。赤の色を発色させるために、エビの頭部も時々エサにすると言う。日本への出荷は、5月〜9月頃です。

日本漁業に批判的、操業規制にうるさい豪州や西欧諸国でも、外貨を稼げる養殖、蓄養には意欲的であります。このマグロは高騰してきたトロの価格を是正する点や身近に食べれるようになった点では評価はできると思います。

しかし問題点もあります。なぜなら日本での消費が伸びて、生産を増やそうとすれば、元となる「やせマグロ」をたくさん獲らなければならない。工業製品のような供給システムは、整ってきたがその材料(マグロ)は有限な海洋システムであるという構図は、蓄養でもなんら変わりはないということです。

お問い合わせメール魚丸商店

2002.9.30

 

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