コーレーグス

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コーレーグス

コーレーグスは、

  1. トウガラシ属全般を意味する沖縄方言[1][2]。こちらが本来の意味である。
  2. 島とうがらし泡盛に漬け込んだ沖縄県調味料。今日ではもっぱら、こちらの意味で使われる。コーレーグースコーレーグースーコーレグスーなどの表記・発音も見られる。

来歴[編集]

琉球国由来記によると、唐辛子は18世紀前期までに薩摩藩を経由し沖縄に伝来したと書かれている。コーレーグスの語源とされる高麗胡椒という名称も、この時に同時に伝わったものと考えられる。

調味料のコーレーグスの正確な起源は不明である。なお、ハワイ移民した沖縄県民が帰郷時に伝えたチリペッパーウォーターをヒントに作ったという説もある[3]。この調味料はもともと「コーレーグスジャキ」(コーレーグスザキ[4]と呼ばれていた。唐辛子そのものを指してコーレーグスと呼ぶことが少なくなった現在は、もっぱら唐辛子を泡盛に漬けた調味液を指す言葉となっている。

語源[編集]

「高麗胡椒」は少なくとも16世紀以前から使われている唐辛子の古称であり[5]九州地方の一部では方言として現在も残存している。唐辛子が薩摩から伝わったというのが事実であるならば、これが沖縄風に訛った(「コーライゴショー」を沖縄方言の発音で読めば「コーレーグシュー」となる[6][7])と考えるのが自然であろう。これ以外にも高麗草(コーレーグサ)、高麗薬(コーレーグスイ)という漢字を当てたり、泡盛の貯蔵期間が長いものを「クース(古酒)」と呼ぶことと関わりがあるとする者もあるが、いずれの説も根拠に乏しく、特に裏付けとなる文献などは存在しない。

特徴[編集]

島とうがらし由来のカプサイシンジヒドロカプサイシンがコーレーグスの辛味を形成し、泡盛のアルコール度数によって両者の比が変わり後味などに影響している[8]。香りについては島とうらがしの2-イソブチル-3-メトキシピラジン泡盛3-メチル-1-ブタノールおよび各種のエステルが強く影響し、これら原料の香気が混合して独特の芳香を形成している[9]。また、島とうがらしの量や泡盛のアルコール度数も島とうがらし由来の成分の溶出量を変化させ、香気に影響を与えている[9]

用途[編集]

コーレーグスは沖縄そば薬味として、欠かすことの出来ない卓上調味料である[10]。沖縄県ではほとんどの食堂のテーブルに置かれており、チャンプルーイリチー刺身のつけ醤油、みそ汁などの料理に用いる者もいる。また、椎名誠の著作「からいはうまい」内の一企画として行われた対談「辛味食文化初級入門塾」において、小泉武夫が少量をビールに入れて飲むことを提唱している。わずかな量で劇的に風味を変えるが、調味料としては粘度が低い上に非常に辛く、泡盛のアルコールによる刺激も強い。液体であるため入れすぎても取り除くことは不可能なので、慎重な使用が望ましい。

製法[編集]

水洗して陰干した島とうがらしを10日以上、泡盛に漬ける[10]。市販品も多いが、島とうがらしを泡盛に入れるだけで作ることができるので、沖縄県では自家製のコーレーグスも作られている[10]。使用する泡盛を古酒にすると風味が増すともいわれる[10]。また、クエン酸を加えた市販品もある[11]。泡盛の代わりに酢を使用したものもある。液が濁ってきたら中の唐辛子を捨てると長持ちする。

宮古島など先島諸島の一部では、島とうがらしを潰したり、にんにくを混ぜてペースト状にしたりしたものを薬味として用いることも一般的である。上述したようにコーレーグスとは元来唐辛子そのものを指す言葉なので、これらをコーレーグスと呼ぶことも間違いではない。

脚注[編集]

  1. ^ 首里・那覇方言データベース コーレーグス”. 琉球大学 沖縄言語研究センター. 2016年5月6日閲覧。
  2. ^ 1966年に出版された琉球料理を初めて体系的に紹介した成書(田島清郷『琉球料理』月刊沖縄社、1966年、119頁。 )では、ピーマンの方言訳として「アメリカコーレーグス」という語が充てられている。
  3. ^ Wonder沖縄 コーレーグス(唐辛子)
  4. ^ 首里・那覇方言データベース コーレーグスジャキ”. 琉球大学 沖縄言語研究センター. 2016年5月6日閲覧。
  5. ^ 日本最古の農学書とされる大和本草にも記載されている。
  6. ^ 沖縄方言#音韻
  7. ^ こーれーぐしゅ/壮大なロマン秘める”. 琉球新報. 2016年8月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月1日閲覧。
  8. ^ 高橋京子 et al. 2008, p. 132
  9. ^ a b 高橋京子 et al. 2008, p. 133
  10. ^ a b c d 高橋京子 et al. 2008, p. 129
  11. ^ 高橋京子 et al. 2008, p. 131

参考文献[編集]

外部リンク[編集]