質問者さんの問題提起を読んで、あらためて魚服記を読み直したところ、「近親相姦による処女喪失」が描かれているのだと理解しました。
三 の後半を引用します。
「疼痛。からだがしびれるほど重かった。」:疼痛、の部分が初体験のときの痛みを語り、からだがしびれるほど重かった、というのは今までに体験したことのない重さ(男が一人、自分の身体の上にのしかかる重さ)を意味しているのだと思います。小屋で一人うとうとしている間にのしかかられ、わけがわからぬうちに犯されてしまったのでしょう。そして気づいたときには、疼痛と重みの感覚が襲ってきたのだと理解できます。
「ついであのくさい呼吸を聞いた。」:あえて、「あの」くさい呼吸、と言っています。父親が薪を売った帰りに酒を飲んで帰ってくるのが常で、いつもの酔った父親の息のことを指しています。なので、スワの身体にのしかかったのは、父親だとわかります。
「『阿呆。』スワは短く叫んだ。」:「自分に何をしたんだ」という怒りが現れています。初潮に気づいたのであれば、とまどいこそすれ「阿呆」という言葉は必ずしも出ないのではないかと思います。
「ものもわからず外へはしって出た。」:スワは着の身着のままで吹雪の中に飛び出すわけで、相当なショックがあって半ば錯乱状態だったからこそ、このような行動に出られたのでしょう。
この部分の最後で滝に飛び込む場面で「『おど!』とひくく言って飛び込んだ。」とありますが、「ひくく」という部分に父親への恨みの響きを感じます。滝の中にいる父親に会いに行く、というのでもなく(実際父親は滝の中にいない)、別れの言葉というよりは「あんたのせいで私は滝に身を投げるんだ」という決意のように聞こえます。
なお、二 の最後に、「それもスワがそろそろ一人前のおんなになったからだな」と父親が考える場面があり、これだけを読めば初潮のことが書かれているとも読めるでしょう。しかしながら、上記のとおり、年頃になったスワが父親の性欲の対象にされ、かわいそうに犯された末に滝に身を投げた、という物語なのだと読みました。