コラム:日本メーカーは「スマハ」でアップル依存脱却を

コラム:日本メーカーは「スマハ」でアップル依存脱却を
3月19日、アップルのような開発者としての利益獲得に向け、新しい概念の製品をマーケットに送り出すチャレンジ精神を国内メーカーは忘れているように見える。「スマハ」と「スマートテレビ」を融合した乾坤一擲の挑戦に期待したい。2月撮影(2012年 ロイター/Aly Song)
田巻 一彦
[東京 19日 ロイター] 米アップルが発売した新型iPadに部品を供給している日本メーカーへの注目度が高まっている。確かに収益増が見込まれるものの、果たしてこの現状に安住していていいのだろうか。アップルのような開発者としての利益獲得に向け、新しい概念の製品をマーケットに送り出すチャレンジ精神を国内メーカーは忘れているように見える。私は、逆転の場として韓国勢が注目している「スマートテレビ」における乾坤一擲(けんこんいってき)の挑戦を国内メーカーに期待したい。
成功へのキーワードは「スマハ」だ。再生可能エネルギーを駆使したスマートハウスの展開が見込まれる中で、その中心的な機能を果たす司令塔として、スマートテレビを定義し、家電業界だけでなく、建設、エネルギーなど業種横断的な取り組みを目指すべきだ。経済産業省など政府も支援の手を差しのべれば、新しい日本発の「ブランド」誕生につながる可能性がある。
<部品メーカーの利益は限界的>
新型iPadには、エルピーダ<6665.T>製のDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)と、東芝<6502.T>製のNAND型フラッシュメモリー(電気的に一括消去・再書き込み可能なメモリー)が搭載され、16日の市場では東芝が一時、約7カ月ぶりの高値を記録した。
液晶パネルやリチウムイオン電池、コンデンサーなどでも、採用された日本メーカーや韓国メーカーの株価が、新製品発表前に比べて上昇。マーケットは今後の需要増大を強く意識している。iPadだけでなく、iPhoneなどのスマートフォン市場の拡大で、低迷が懸念されていた日本国内の設備投資も、機械受注統計などをみると、今年1─3月期は増加傾向が期待できるようになった。
こうした電子部品の好調さは、米国発の「第2次ITブーム」とも呼べる大きなうねりが、日本メーカーにも波及した結果と言える。だが、部品メーカーが享受する利益は、新製品自体を開発したアップルが手にする利益に比べたら、数分の1に過ぎないだろう。高い技術力を持つ日本メーカーが、部品供給だけで満足し、限界的な利益を稼ぐことで達成感に浸っていいとは思えない。
<巨大化が見込まれるスマートテレビ市場>
私は、大手電機メーカーが手痛い敗北を喫し、巨額の赤字を2012年3月期決算で計上することになったテレビの分野で、実は起死回生の逆転劇が起きる可能性があると予想する。その舞台は「スマートテレビ」だろう。
スマートテレビは、パソコンとテレビの機能が合体した新しいタイプのテレビを指している。インターネットとの接続で双方向性が強化されるほか、デジタル化された映像の情報が簡単、ふんだんに利用できる利点があると言われている。世界での市場規模は2016年に2650億ドルに達するという試算も出ているが、その中身はまだ、はっきりしていないと言うべきではないだろうか。
すでに韓国メーカーが新製品を発表し、国内メーカーも追撃しようとしている。アップルやグーグルも参入し、主要なターゲットにしようと虎視眈々と新企画を練っているようだ。
このようなパソコンの延長線上の商品設計では、日本メーカーが独自性を発揮するのは難しく、再び、米国勢に敗れるか、韓国勢に追い抜かれるリスクがあると感じる。それよりもコンピュータ制御でエネルギー効率の高い「スマートハウス」を一段とハイテク化し、そのコントロール端末としてスマートテレビを位置づける全く新しいシステムを構築するべきではないかと考える。
<スマートハウスとの連携で差別化は可能>
このシステムでは、電機、エネルギー、建設、自動車など異業種がスマハのシステム構築で参加し、太陽電池などを利用して環境にも配慮するとともに、新しい断熱材の開発や二重窓システムなどを採用。夏と冬のエネルギーコストを現在の数分の1に減らすことを目指し、国内だけでなく新興市場を含めた海外市場に売り込めば、日本の新しい産業として、内需の盛り上がりに貢献することも期待できる。
スマハのキーパーツとしてのスマートテレビという位置づけにすれば、日本勢が特性を生かすことができるのではないか。多業種が組み合わさったスマハの中のスマートテレビなら、韓国勢も簡単には追随できない可能性がある。もし、この構想が実現できれば、新しい日本ブランドを作り出すことに結びつき、日本の製造業にとって画期的な時代がやってくることにもつながる。
だが、アップルやグーグルの新規格を待って、部品納入で何とか生き延びようとするだけなら、日本の製造業のパワーは中長期的に下降トレンドを明確に形成し、今ある高水準の技術を維持することもできなくなる危険性がある。
大きな分かれ道に立とうとしていることを政府も認識し、経産省が中心となって初期投資や技術開発に補助金を出して支援するべきだろう。こうした取り組みが、政府の日本再生計画にも盛り込まれ、現実に動き出すことを希望する。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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