【2月22日 AFP】生物学の世界では、人類を「競争好き、攻撃的、野蛮」とする見方が誤りであることが証明されつつある――。カナダ・バンクーバー(Vancouver)で開催中の米国科学振興協会(American Association for the Advancement of ScienceAAAS)のカンファレンスで20日、霊長類行動学の第一人者がこのような研究発表を行った。

 米エモリー大(Emory University)のオランダ人生物学者で著書『The Age of Empathy: Nature's Lessons for a Kinder Society(共感の時代:親切な社会に向けた人間性のレッスン)』でもおなじみのフラン・デ・ワール(Frans de Waal)氏は、「人類は社会的な性質を多数持っている」と述べた。霊長類やゾウなどの高等動物からネズミまで、様々な動物を対象にした最新の研究では、協力行動などの行動には生物学的基盤があることが示されているという。

 同氏によれば、わずか12年前まで、科学者らの共通認識はこうだった――「人間性の中核を成す性質は『意地悪』だが、この上に薄っぺらではあるものの、道徳性を身につけた」。

 しかし、人間(および高等動物)は、繁殖して遺伝子を継承していく上で協力し合う必要があるため、科学的な意味で「道徳的」だとデ・ワール氏は主張。19世紀に英国の生物学者トマス・ヘンリー・ハクスリー(Thomas Henry Huxley)が提唱して広まった、「道徳とは人類が勝手に創り出したもの。自然界には存在しない」とする説は誤りだとの研究結果を発表した。

■共感を「全人類」に向けることは可能か?

 デ・ワール氏は会場で、研究室で撮影されたビデオを放映した。その中には、ほかのサルがもらったほうびを自分がもらえなかった場合にサルが示す精神的苦痛や、チョコレートというごちそうを前にしても、わなにかかったネズミの救助を優先するというネズミの行動などが示されている。

 同氏は、これらのシーンは、動物が生まれながらに「互恵、公平、共感、慰め」に関して社会的な性質を持っていることを示していると説明し、「共感のない人間の道徳はあり得ない」と付け加えた。

 もし大衆が共感を当たり前のものだと認識するようになれば、資本主義の政治・経済システムが立脚する熾烈(しれつ)な競争社会を変えるだろうかとの質問には、「私は単なるサルの観察者ですから」と笑って答えた。

 一方で同氏は、研究では動物の共感が「仲間内」だけに向けられることが明らかになっていると述べ、こう続けた。「人間の『道徳』は小さなコミュニティーの中で発展した。世界がグローバル化するなか、人類が(仲間内だけに意図された)システムを全世界にも適用させることは1つのチャレンジであり、実験的な試みだ」(c)AFP