2012.01.18

電機メーカーを悩ます薄型テレビの没落と心中せず、巧みに業態転換した中小メーカー「日本テクノロジーソリューション」の秘訣は「心のアントレプレナー」を目指すこと

 2012年は、中小企業の事業継承・世代交代のピークの年になると言われている。すでに06年版の「中小企業白書」も「『団塊の世代の引退』と、高度成長期に大量に創業した『創業者世代の引退』という2つの世代交代の波が重なり合い、事業承継と技能承継のいずれも重大な局面を迎えている」と指摘している。

 アンケート調査などによると、経営者が引退を考えている年齢は65歳前後。企業の代表者の平均年齢は、1985年に53歳だったのが、07年には59歳にまで引き上がった。さらに高齢化は進んでいることを考えると、2012年に団塊世代の経営者が大量に退職時期を迎えることになる。これが中小企業の「2012年問題」と言われている所以だ。巷では事業承継セミナーなども流行っている。

自社ブランド製品の前に立つ岡田耕治社長

 さらに最近の未曽有の円高やデフレ経済により長びく不景気も、中小企業の経営者に前に出るか退くかの選択を迫っていることだろう。

 こうした状況下で、今回は中小企業が世代交代などの面で生き残り戦略を構築するうえで、参考になる話を紹介したい。兵庫県高砂市に本社を構える「日本テクノロジーソリューション」という、包装機械を生産する中小メーカーの「変身」の物語である。

 同社の岡田耕治社長(43)は昨年10月、『変身する組織へ贈る!世代交代ストーリー』(日刊工業新聞社)を上梓、その変身プロセスとそこから得られた教訓をまとめている。岡田氏は本業の傍ら大阪ガスが主催する「MOT(技術経営)スクール」で講師を務めるなど、実務と理論に長けた経営者でもある。

 その著書と筆者の岡田氏への数度にわたるインタビューをベースに「変身」のポイントをまとめた。ハウツーではなく、岡田氏の「志」を感じ取って、行動に移るための「心の起爆剤」としていただければ有難い。

わずか半年で3分の1に値崩れ

 日本テクノロジーソリューションの前身は、岡田氏の父親が脱サラで1976年に起業した岡田電気工業。東芝向けにブラウン管検査装置を製造して納入するのが主な仕事だった。父の急死に伴い、サラリーマンを捨て家業を継いだ岡田氏は99年に社長に就いた。

 その頃に大きな転機が訪れた。いずれブラウン管テレビの国内生産が縮小していくことは当時でも予測でき、薄型テレビ関連に事業を切り替えることを模索していた。その第一弾として2000年に約2000万円でプラズマの検査装置(電装部分)の初受注に成功、うまく事業転換できると思っていた矢先、半年後の2号機の価格提示は約700万円。わずかの間で3分の1程度にまで値下がりした。「韓国や台湾の装置メーカーがそのぐらいの価格でやるので」というのが理由だった。

 岡田氏は、薄型テレビ事業の将来性を自分の足で稼ぎながら調査した。「ブラウン管は、韓国と台湾が競争力をつけてくるのに約30年を要したので日本の優位性が保てたが、液晶やプラズマは世界同時競争だったので、日本は完全に劣勢に立つことが予見できました。巨大な設備投資で競争力を維持するモデルに差別化の要素は少なく、半導体と同様に通用しないと思いました」と岡田氏は振り返る。

 事実、巨額投資でテレビ向けの大型液晶を作っていたシャープの堺工場はスマートフォン向けなどの中小型に切り替わり、同様にパナソニックの新鋭工場である尼崎(プラズマ)や姫路(液晶)の各工場も過剰設備に泣き、一部の設備を廃棄することを決めている。パナソニックが4200億円の大赤字に陥るのは、この廃棄による損失3150億円が大きく響いている。

 岡田氏の予見は、「すでに起こった未来」となったわけだ。岡田氏は薄型テレビ事業の下請けでは生き残れないと判断。「もうタイムリミットはない」と社内で宣言し、新商品の開発に乗り出すことを決めた。ところが、ブラウン管は息の長い製品であったうえ、形状が変化するとそれに合わせて検査機器も変わって注文が増えるという「美味しいビジネス」であったため、社内は変化を恐れる社員が大半だった。「下請け根性が染みつき、発想の幅が狭く、主体的に仕事をする人材が少なかった」と岡田氏は言う。

 一方、長所を挙げれば「品質と納期とコストはしっかり守る」。この長所を生かしながら、業態を変えて企業を存続させることが経営者の使命であると、岡田氏は覚悟を決めた。同時にそれは、これまで下請けに甘んじ、経営理念もなく大企業に言われるままの事業形態との決別でもあった。

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