「実用段階に入った次世代図書館システムProject Next-L:その概要と研究所図書館における活用事例」(第13回図書館総合展参加記録その6)
一日遅れの図書館総合展連続更新シリーズ、第6段。
最終日の午前は自分がパネリストとして登壇していたのでさすがに記録はありません(笑)
そちらについてはまた別の機会にエントリにて触れたいと思います。
さて、最終日の午後は、オープンソースの図書館システム開発プロジェクト、Project Next-Lのフォーラム兼、そのシステムであるEnjuのver1.00アップロードお披露目式(?)に行ってきました!
- Project Next-L 公式サイト
Project Next-Lは僕が学部3-4年生の頃から活動を追わせていただいているのですが、ついにプロトタイプでなくver1.00が公開され、導入事例についても詳細な紹介があるとのことでわくわくしつつ参加してきました。
わくわくしつつ参加してきた・・・のですが、さすがに3日目ということもあり、途中、何度か意識を失っています(大汗)
なので、今回の記録はいつも以上に不正確なものになっていることが予想されます・・・意識のあるときに聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲のメモということで、ご了解いただければ幸いです。
公式サイトにもすでに記録がアップロードされているので、正確性についてはそちらをご参照いただければ。
なのになんで私家版をアップするのかって?
せっかくとったのに勿体無いじゃないか!
ということで、以下、まずはプロジェクト発起人の原田先生のご挨拶からです。
Next-L Enjuの現状と将来展開(原田隆史先生、同志社大学)
Project Next-Lについて
- 図書館に関わる人の力を結集して、便利なシステムを実現したい
-
- 仕様を書いてもらう/メーリングリスト等で意見を貰う/インタビューに行く、いずれにしても自分のシステムの不満点は教えてもらえる
- 自分のシステムにない/あっても使ってない機能は「使ってない/見たことがないからわかりません、実際に使わせてください」と言われる
- そこでプロトタイプを作ってテーマを置いて意見を聞く
- 仕様を書いてもらう/メーリングリスト等で意見を貰う/インタビューに行く、いずれにしても自分のシステムの不満点は教えてもらえる
- プロトタイプシステムは有効そう
- 既存の汎用システムの組み合わせ
- Ruby on Railsの使用で簡単にできそう
- できたシステム・・・Next-L Enju
Next-L Enjuの開発
- やってみたら出来た
- 言われた機能を全て実装したら、実際に図書館で使えるようなシステムができた
- 開発者の熱意、スキル、凝り性な性格
- この仕組を多くの人に使ってもらおう。これで実用してもらって問題ないだろう
- プロトタイプと呼ぶのをやめる。今日からは実用システムとしてリリースする
図書館システムとしてのEnju
- 必要な基本機能はすべて実装・・・従来システムと違和感なく利用できる
- 書誌管理、資料管理、利用者管理
- NDL、OCLC等からのデータの取り込み/MARCからの読み込み
- MARCについては識別子と中身の対応関係さえわかれば取り込みは容易に実装可能
- ただしテストデータはうまく言っているが、1万-10万件のデータに対する取り込みはテスト環境がない。テストさえ出来れば実装できる
- webページ等で公開されている資料についても中身の取り込み/リンク等を介してから探せる
- 若干拡張した基本機能を実装
- 貸出・返却・予約・・・カード方式と都度貸し出し方式の両方に対応
- 自動貸出システムにも対応
- OPACK対応
- webシステムに負けていないものだ、と利用者に感じてほいぢい
Enjuの先進性
- 自由に画面設定できるシステム構成
- ERBでできる。HTMLの変形版のようなもの。自分で書ける、ベンダを呼ぶ必要なし。
- 他の図書館等のデータをとってきてあわせて検索できる機能
- webページも資料の一部に
- ソーシャルタグ、タグクラウド対応
- 使わなければいけない、わけではない。簡単にオフにはできる
- 授業の教員がある単元の関連資料には特定のタグを着ける、などもありうる
- FRBRデータベースにしてみる
- 「著作」と「実体」の分離によるデータ作成
- 「十五少年漂流記」と探して『ニ年間の休暇』が出てくるようにする
- 文庫版をISBNで探していたら貸出中⇒ハードカバー版なら借りられる、というようなサービスができる
- 今はまだFRBRの採用事例は実験的なものしかない
- 今後はそういったサービス展開もありうる。ので、先取りして実装しておくことは必要だろう
- 考えられる範囲の便利なものはなんでもかんでも実装する
- 「使うこともできる」という話。使わなければいけないわけではない
「物質・材料研究機構におけるNext-L Enjuの採用、導入と今後」(高久雅生さん、物質・材料研究機構)
- 今年1月からNext-L Enjuを導入。
- どう導入されたのか、という話をする。
物質・材料研究機構(NIMS)の紹介と図書館サービス
- NIMSとは:
- 独法の背景:予算の縮減とすすむ国際化
- 具体的な図書館サービス
- 物質・材料分野に特化
- 利用者は物理学、化学等を背景に持つ、専門の研究者/世界的に競争するトップ研究者が多い
- ほとんどが電子ジャーナル・電子ブックに移行
- 紙はprimaryではなくなっている。その中でどのくらい、紙の受入・貸出管理システムにコストを割くかが問題に
- 拠点は3箇所、総蔵書数は9万冊だが単行書は2万冊程度(7万冊は製本雑誌の過去分)
- 担当スタッフは3名
- うち1名(高久さん)はエンジニア。ITサポートはしても具体的なサービスは他の2名が主に行なっている
- 本部以外の図書室は無人・セルフサービスにより合理化
- 電子リソースの提供・・・WoS、Scopus、電子ジャーナル・ブック、リンクリゾルバ等
- その中で図書館サービスの提供をどう考えるか・・・Next-L Enjuの導入へ
- 物質・材料分野に特化
NIMにおけるEnjuの運用
- 導入経緯:
- ソフトウェア保守期限が切れ、更新を迫られる
- Next-L Enjuの他社商品との機能比較・調査から・・・導入決定
- NIMSにとってもチャレンジ
- 研究機関としては国内初のOSS図書館システム採用事例
- 手探りではあったが取り組んだ
- 導入時に掲げた項目・・・
- 電子・紙の双方に対応した資料情報の提供
- 国際化
- サービスの質は下げずにコストを抑える・・・チャレンジング
- デモ:NIMS Enju
- 画面をNIMS向けにカスタマイズ:NIMS Library Portal - Next-L Enju Leaf
- よく使われるデータベース類へのリンクをサイト右端に並べる・・・
- 上の方に図書館からのお知らせ
- 左上に資料検索窓
- 新着資料・おすすめ資料の表示機能
- 検索実演:
- 速度は商用サービスに引けを取らない
- 検索結果画面の右上にファセット風の絞り込みUI
- 配架されている書架の情報まで提供
- Google Books API利用による書影の表示とリンク
- 貸出履歴の記録・・・いつでも自分が借りた書籍情報が確認できる
- 最後に借りたのが誰か、ということも図書館員は把握できるようになっている
- セルフ貸出・返却・・・ICカード・バーコードを利用して端末環境を構築
- 当初はEnjuにはなかった機能だが、NIMSで必要になったので追加
- 画面をNIMS向けにカスタマイズ:NIMS Library Portal - Next-L Enju Leaf
- その他のNIMSからの貢献:
- 採用してカスタマイズ・開発を続ける+結果をオープンソースのコミュニティに返すことが重要、と考える
- 採用したもので汎用性がありそうなものはNext-Lコミュニティに返す
- セルフ貸出・返却
- 定期刊行物(シリーズ情報)への対応・・・NIMSでの運用上はうまくいっている
- 現在開発中・・・Eリソース管理(契約情報・EJ+Ebookの管理ツール)/機関リポジトリ連携
- 大量のバグ報告、不具合修正・・・日常業務の中では想定していなかったような細かいワークフローが見えてくる
- 開発ツール上で障害報告をして修正してもらう
- 機能追加よりも細かい不具合等の報告の方が、現場のニーズの吸い上げとして大きいのかな、と考えている
- 採用してカスタマイズ・開発を続ける+結果をオープンソースのコミュニティに返すことが重要、と考える
再び原田隆史先生
- NIMSをはじめいくつかの図書館で導入
- その結果は、OSSコミュニティに戻してもらっている
- 実現されている機能はすべて取り込んだバージョンも公開されている
- 図書館によっては「不必要」「ないほうがいい」という部分もありうる
- 各種の機能はモジュール化してある。導入する・しないは判断できる。セルフ以外の貸出機能に切り替えることもできる
- 色々なものを組み合わせられるようにしよう、ということを整えている
- その結果は、OSSコミュニティに戻してもらっている
- NIMSの導入形態・・・プロジェクトそのものが関わる形態
- NIMS、プロジェクト、業者の三者で打ち合わせをして進めている
- すべての導入図書館がそういう形式をとっているわけではない
- Next-Lのライセンスは緩い。それを使って色々なことができる
- Enjuは現在、ソースコードそのものだけ公開
- 持っていけば誰でもインストールできる
- しかし動かすのに必要な環境の設定には非常に多くの別のソフトウェア等のインストールが必要
- 実際に使うと細かい修正も(不具合以外に)色いろある。改善提案も多く出てくる
- そういうものを多くの人が上げてくれれば、どんどん良くなる
- バッティングするような要望が出てきてくれれば、話し合いの機会も持てる
- そのためには個人も含め色々な人が使えるようにする必要がある
- そこで・・・ソースコードと同時にEnju仮想マシンを配布
- 必要環境をすべて一ファイルに収めたもの
- 環境を自動的に復元してしようできる
- インストールマニュアルも同時に作成・公開する。マニュアルは全部で29ページくらい、そのくらいで済む
- 3時間あれば未経験者でもインストールできる。2日間とは大違い
- 間もなく配布する
- 持っていけば誰でもインストールできる
質疑応答
- Q. 高久さんに。先ほど、Eリソース管理・機関リポジトリ連携、という話があったが、それは別システムとの連携ということ? Eリソース管理は僕も頭を悩ませているので。
- A. 私自身、どうするかまず仕様策定からやっている。基本的にはEnjuの中の1モジュールとして作ることになるだろう、と思う。契約情報は契約情報モジュール内で扱う、など。それがどこまで一体化して見えるかはインタフェース次第。
- Q. 高久さんに。導入時に業者さんに入ってもらったというが、高久さんと業者と技術のない方の3者の中で、技術的な役割の分担や責任の明確化、障害対応はスムーズに行った?
- Q. システムが大きくなるとそういうところが難しいのかな、と思う。自前でできるところは導入しやすいだろうが、大きなところだととうなのかなあ、と思った。
- 原田先生:同じような機能が二箇所から出てきてほんの少し違う場合など、どっちを使うのか、それともスイッチングするのか、という部分はプロジェクトに返ってくるかと思う。システム全体は大きくなっても、使えないところを切れば小さなシステムになる。それでも大きなシステムになれば切り分けの悩みなどもあるだろうが、まずは早くそういう段階になりたい。
- Q. Next-Lのプロモートのとき、どこから引きがある? 大学図書館はどう? どんな問題があってどんな改善策がある?
- A. NACSIS-ILL、NACSIS-CATとつなぐところは早くやらないといけないと考えている。ただ開発に工数がかかるので、早く要望に来て欲しい。
会場、この場で最新版、ver1.00をアップロード・・・成功!
今後、アップロード情報等はhttp://www.next-l.jpで公開
会場でver 1.00にエラーの出ないことを確認して、アップロードしている光景は相当おもしろかったですw
「そのコマンドラインは何をやっているんだ!」って説明してほしくなりました・・・わからないよ!
お話を伺っているとなんだか自分でもEnju導入したくなってきました・・・うちくらいの蔵書数でシステムあっても仕方ないんで入れませんが(笑)
でももしどこか、高久さんのように別に仕事もありつつ図書館も関与しつつ、という立場になったら、たぶん最初に検討するのはEnjuだろうな、とか。
実際、会場にいらしていた、今度小規模の専門的な図書館にお勤め予定の方も、導入を検討するとおっしゃってましたし。
「カスタマイズしたいことが多い専門図書館にはいいかも」とNIMSの事例を見て思われた、というのはよくわかる気がします。
ver1.00はアップされましたが今後の展開も色々考えられているとのことですし、引き続き追っかけていきたいです。
*1:2011-11-13 主催者の皆さんからのご指摘を受け修正。特に秘密にしようとはしていない、とのことです。失礼しましたm(_ _)m