「断片化し個別化する世界と人間=廃墟をテーマとする新作インスタレーションを展示」
と、いただいた案内状にあった。
前回の個展では、立体が印象的だった三神さん、今回は平面的な作品が目につく。
まず、入り口から入って左側の壁一面にならんでいるのは、水彩によるドローイング小品。「気まぐれな輝き」と称され、100枚以上はありそう。ストロークを重視した画面は、どこか鬼才版画家の一原有徳と共通するものがある。
会場の半分を占めているのは「家をもたぬ孤児たちの歌声」。
11冊の本の形をしたオブジェをメーンに、毛玉が糸をひいて転がり、どんぐりや鳥の羽などを入れたシャーレが台の上に並べられたインスタレーションだ。
接近してみると、こんな感じ。
「本」のページの裏には、古い新聞の切り抜きが挟まっている。
新聞で時代相のようなものを象徴させてみせるのは三神さん得意の手法といえるかもしれない。
平面の大作「彼女たちの声を聴け」。
アクリル絵の具のストロークを生かした作で、前衛書のようにも見えるが、やはり書というよりは絵だと思う。
個人的に意外だったのはコンテとパステルによる具象画が2点あり、しかもなかなかうまいこと(上から目線ですいませんが)。
自爆テロか何かで路上に放置された車を描いた「バグダッド午前四時」(左)。題からして、映画のワンシーンのよう。
右は「マンハッタン・ラプソディー」で、前述の作と対になっている。
こちらは室内から外を見た図。
どこか「米国の今」の換喩になっているような気がしないでもない。
平面作品はほかに「あるいは鏡に想う夜」「廃墟のワルツ」「天使に届かぬアリア」「無調の果て」「指を探す連弾」。
音楽にまつわる題が多い。
「油絵は乾くまで時間がかかるし、版画も昔やってたけれど版を作って刷ってみるというタイムラグがどうも性に合わない。ドローイングだとすぐに結果が出るからいい」
という趣旨のことを話しておられた。
70年代には各種コンクールで入賞しているし、ドローイングは得意とする分野のようなのだ。
批評誌「がいこつ亭」を主宰し、近代文学から世界情勢にいたるまで、情況に対して鋭い考察を続けてきた三神さん。
ことばだけではなく、アートでも世界と対峙しているのであった。
不条理と不公正に満ちた世界と歴史への異議申し立てが、三神さんの作品のいちばん基底部に息づいてみえるのは、筆者だけだろうか。
2010年2月9日(火)-28日(日)11:00-6:00(最終日-5:00)、月曜休み
ソクラテスのカフェギャラリー(西区琴似2の7 メシアニカビル地下 地図K)
■三神恵爾展「秘めやかな叛逆」 (2006年)
■閉塞形状展(2002年)=画像なし