松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

GM“事件”1 遺伝子組換え技術サイトが休止中

2010-05-17 14:11:36 | Weblog
 農水省農林水産技術会議・遺伝子組換え技術の情報サイトが現在、見直し中となっている。気付いている人は多いだろう。

 社団法人農林水産先端技術産業振興センター(略称STAFF)のウェブサイトも同様だ。

 アメリカから帰国してとにかく驚いたのが、口蹄疫の対策遅れとこれ、だった。どちらのサイトもこれまで、内容の細かな改訂、更新は頻繁に行われていた。だが、今回はいきなりの休止、情報提供ストップである。情報提供をしないというのは、国としてもっともやってはいけないことだろう。
 何が起きたのか? 整理してみる(長文、お許しを)。

 明らかになっているのは、情報提供が停まる前、日本消費者連盟が農水省に抗議文を出したという事実である。農林水産技術会議が作成し2月に茨城や群馬などの小中高校に配布した遺伝子組換え農作物に関するリーフレットについて、日消連が回収を求めて抗議文を出したと3月15日付「日本消費経済新聞」が伝えている。
 また、5月7日付朝日新聞も、「食の安全に科学の目」という記事の中で、このリーフレットについて触れている。計60万部作成し、試行的に茨城、栃木、群馬の3県の小中高校に配布したと伝え、農水省の担当者の「現状は『何となく危険そうだ』という雰囲気になっている。正しい知識を知ってほしい」というコメントを紹介。一方で、日本消費者連盟が抗議文を出したことを伝え、事務局長の「社会的にまだ賛否が定まっていない遺伝子組み換え食品を取り上げ、なおかつ異論に触れておらず、フェアではない」という談話も付け加えている。

 リーフレットの内容は、ウェブサイトに出ていた情報の中から一部を抜き出し、小中高生向けに分かりやすく書き直したものである。ウェブサイトの休止について農林水産技術会議は、「資料の一部に、客観的・公正といえないものが見られたため、現在利用している資料はすべて一旦凍結し、全面的な内容の点検及び修正を行っている」と言うばかりだ。

 日消連は遺伝子組換えに批判的で、「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」が事務局を日消連内に置いているのは周知の事実だ。同キャンペーンは、これまでもさまざまな抗議文や要請文などを出している。しかし、農水省やSTAFFの遺伝子組換えにかんする情報サイトが閉じられたことはなかった。
 いきなり閉じられるという異例の事態に至ったのは、日消連の抗議に加えてなにかが起きたからだ。だれかが農林水産技術会議の情報提供について、「客観的、公正と言えない」と判断したのである。
 「だれが閉じさせたのか?」と業界は喧しいが、私にはそれよりも、「客観的、公正」の基準が気になる。科学技術の情報伝達において、だれもが意見一致する「客観的、公正」などあり得ない、と私は思うからだ。

 リーフレットを基に、考えてみよう。
 リーフレットは以前は、STAFFのウェブサイトからダウンロードできたが、現在は見ることができない。簡単に紹介すると、小学校向けは「わたしたちは遺伝子が入った食べ物を食べている」から始まり、「遺伝子ってなに?」「野生のトマトが品種改良で大変身」と続き、最後のページで遺伝子組換えについて説明している。組換え技術は品種改良の一種だとして、組換え作物が国によって安全性が確認された後、輸入・販売が行われていることを説明している。
 中学生向けは、流れは同様だがもう少し詳しく、最後に食料確保の一つの方法として遺伝子組換えを位置づけている。高校生向けはさらに、世界の栽培面積や表示制度などにも触れている。

 リーフレットは、小中高校とも各4ページである。遺伝子組換えを巡るたくさんの情報からいくつかを選び出し分かりやすく書き直して、わずか4ページにするのだ。担当者は苦労したことだろう。
 これはすなわち、情報の編集作業である。情報を集めまとめ他者に伝える、という作業は必ず、情報の取捨選択を伴う。どれほど中立公正に情報を伝えようとしても、どこかで取捨選択の判断が必要で、無意識であれ意識的であれ必ずバイアスがかかる。

 山ほどの情報の中から選び出し伝えるのだから、すべての人が賛同する判断基準もないし、結果もない。必ずだれかが異論を唱える。それが情報提供の宿命だ。
 リーフレットには科学的な誤りはない、と私は思う。だが、情報の取捨選択に異論は当然あるだろう。というわけで、日消連が回収を求めたのもうなずける。

 3月15日付「日本消費経済新聞」記事によれば、日消連の指摘する問題点は次の通りだ。
(1) GM技術のメリットだけを強調。組み込んだ遺伝子を起動させたり、組み込みを確認したりするためにウイルスのプロモーター遺伝子や抗生物質耐性遺伝子を組み込んでおり、そうしたものが悪影響を及ぼす可能性を教えていない
(2)除草剤の影響を受けない、害虫に強いなどのメリットを強調。除草剤や殺虫成分に抵抗性をもったスーパー雑草やスーパー害虫が生まれており、そのため農薬使用量が増え、水生生物や生物多様性に影響を与えていることを無視している
(3)安全性についても最近の動物実験で安全性に疑問を抱かせる知見が示されているのを紹介せず、「DNAはタンパク質でできているので体内で消化されるので心配ない」と解説している。

 (3)の後半は意味不明。「DNAはタンパク質でできている」などと農水省が書くはずはなく、記事が科学的知識のない記者によって書かれたことは明らかだ。取材に応じた日消連側が間違った説明をしたのかもしれない。
 それはさておき、日消連は「リーフレットに科学的な誤りがある」と指摘しているわけではない。(1)から(3)の前半まで指摘していることはすべて、情報の取捨選択に関することだ。

 ならば、その指摘は科学的に妥当か? 科学者が「その通り。仰せのように致します」というようなものか? 私にはそうは思えない。
 導入した遺伝子が悪影響を及ぼす可能性はある。しかし、現実的な条件で悪影響を及ぼさないように、厳しい安全性評価が課されたうえで作物として認可される仕組みができている。水生生物や生物多様性に影響を与えていると主張する査読付き論文もある。しかし、その結論に否定的な論文もまた、出ている。
 「最近の動物実験で安全性に疑問を抱かせる知見」に対しても、EFSA(欧州食品安全機関)や各国の評価機関などが、否定的な見解を明らかにしている。

 つまり、日消連も自分たちにとって都合の良い部分だけを抜き出すという「情報の取捨選択、編集作業」を行って、組換え反対論をぶち、リーフレットの回収を求めている。結局、リーフレットに対して「異論に触れておらずフェアではない」と批判する日消連自身も、彼らの言葉を借りるなら「フェアではない」と私には思える。

 では、フェアとは? 改めて考える。「客観的、公正」とは?
 農水省農林水産技術会議のあの情報満載のウェブサイトがすべて休止中の今、どこが問題視されているのかはさっぱり分からない。なにが、「客観的、公正」ではないのか? それはだれの判断か? だれが新しい情報提供の内容を「客観的、公正」と判断するのか?

 現状ではなにも明らかにされていない。農林水産技術会議はただ、「資料の一部に、客観的・公正といえないものが見られたため、現在利用している資料はすべて一旦凍結し、全面的な内容の点検及び修正を行っている」と繰り返すのみだ。
 これでは、一般市民はなにも分からない。検討できない。
 農林水産技術会議は、だれがどの部分を「客観的、公正でない」と判断したのか、どういう理由で農林水産技術会議も同意し、これまで妥当だと考えて行ってきた情報提供を全面的に中断したのか、明らかにする義務があるのではないか?
 そのうえで、その判断が科学的にどの程度の妥当性があるのかを考えたい。全員で「これは公正な情報提供です」と言えるものなど、できることはないだろう。しかし、国民それぞれが検討して、みんなで議論して意見の一致を目指すのが、科学技術のコミュニケーションのあるべき姿ではないだろうか。それが、本当のフェアというものではないか?

 科学的な判断ではなく政治的な圧力がある、と警戒し始めた人が多いようだ。だが、「○○党の△△がやらせた」などと情報を広げる前に、真正面から農林水産技術会議に尋ねようではないか。農林水産技術会議の総合窓口から質問を送ろう。回答を得て議論をしよう。科学的な議論こそが、政治的な圧力に対する冷静な抑止力になる、と信じたい。

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6 コメント

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リーフレットについて (ohira-y)
2010-05-17 15:25:46
私のブログにおいても、今回のサイト閉鎖について話題にさせていただきました。

http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20100516/1273971354

なお、リーフレットについても先日紹介したところです。
http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20100513/1273765584
確認したところ、リンクはまだ生きておりました。
まだ、ご覧になっていない方はどうぞ。
リーフレットのデータ (瀬戸晶成)
2010-05-17 17:09:08
早速ダウンロードしておきました。
リンク切れにされるのも時間の問題かと思ったので。

いま、国民が知らなければならないのは素性(責任元)のハッキリした情報です。
胡散臭い情報では正しい見解を持てません。
Unknown (不自然なカキコ)
2010-05-18 01:35:22
残念ながら、“政治屋主導”な現政権下では、担当部局に問い合わせても、本当の答えは返ってこないんじゃないでしょうか?

現政権に批判的な答えは、担当がいくら真実を話そうと思っていても、政治屋の言論封殺で返ってこないと思います(怒

参議院選挙で、政権が変わるまではムリでしょうね
Unknown (Gloria)
2010-05-19 22:13:03
日消連の抗議の趣旨が3項目挙げられていますが、「原文」には、4つめの項目があって、そこには、
>・・・遺伝子組み換え技術は、世界の食料問題にも資する、と自画自賛していますが、むしろアジア・アフリカの多くの国から嫌われています。
とあります(http://www.nishoren.org/statement/statement-contents/bunsho100225.html
STAFFのリーフレットは、基本的な一般情報を過不足なく網羅したバランスの良いものだと思いますが、この項目にかかわる記述が欠けています。
GM技術は自然法則ではなく、それを利用した人間の社会的営為です。
教育、啓発のツールであるなら、GM技術が世界の各社会にもたらしている意義・影響を考えるものでもあるべきだと思うのです。それがきわめてのっぺりした知識としてしか示されていません。
そこには例えば次のような学習の契機があると思います。
・それらの国で嫌われているというのはどのようなレベルで事実なのか
・嫌われているとしたらどんな理由が考えられるのか
・嫌っているのはその社会でどのような位置にいる人たちなのか
・それは日本でGMを嫌う人たちの理由と同じなのか
・GM作物の種子はなぜ一代雑種で供給されるのか
・自家採取を禁じる取引条件の理由は
・その取引条件がなぜ可能なのか
・有用なGM作物を固定種化することはあり得ないのか
・ターミネーター技術はなぜ実用化されないのか
・バイオエタノール用GMコーンは食用を兼ねることができるのか
このリーフレットには調べる・考える・判断するという要素が欠けています。
リーフレットの回収などという愚かな要求ではなく、世界や社会を学ぶ要素を加えることを要求してこそ私はそれを市民運動と認めたい。
また、政府-農水省は、中途半端に(トップ隠して中隠さず(笑))引っ込めてこそこそセコいことやるのではなく、「各種情報を公表したところ、消費者団体からこれこれこういう意見があったり、国民の関心も非常に高いことが判明しましたので、当省もこの良い機会に内容の充実を図るために見直しを行うことにしましたので」と正々堂々と意見募集をすればいいんです。
下手をすれば今ならできるそんなことがこれからだんだんやりにくくなるかも知れませんよ。
その窓口に送っても… (Unknown)
2010-05-20 00:24:19
何が起こっているんでしょうね。「科学的な判断ではなく政治的な圧力がある」気がしてなりませんが、「農林水産技術会議の総合窓口」から質問を送っても議論にならないのではないでしょうか。

そこじゃないですが、公務員やっている知り合いいますけど、何かで聞いた話では、そういう窓口や大臣宛の文書への対処って、あの閉鎖的な組織では、圧力かけている人にはきちんと伝わらず、官僚が毒にも薬にもならない返答を書いて返すだけだったかと。禄に働かない彼ら官僚にプレッシャーを与えるという意味なら効果的かも知れませんが。

いずれにしても根本的には高尚な政治家様がきちんと説明しないと、官僚は言論封鎖されているようなので何も言えない気がします。

そのくらいなら、政治家さんに直談判?(事務所にFAXとか???)したほうがいいんじゃないですかね。
ほうれん草。 (『3(スリー)』【蔦家紋】=結城裕通=被害者=?。)
2010-05-25 03:10:36
日本人語録5・23。⇒□http://blog.m.livedoor.jp/gmgwadgjmptw-333/c.cgi?sss=8e81495ba7f9474f&id=114883(又は⇒日本人語録5・23。を検索。)

http://blog.m.livedoor.jp/gmgwadgjmptw/c?sss=c9a8a982f4a7f9ec&id=51497422

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