「グランズウェル:ソーシャルテクノロジーによる企業戦略」書評:ソーシャルメディアを活用する前になすべきこと!?

 シャーリン・リー&ジョシュ・バーノフ著「グランズウェル:ソーシャルテクノロジーによる企業戦略」を読みました。

 グランズウェルとは「人々が、テクノロジーを使って、自分が必要としているものを、企業などの伝統的組織ではなく、お互いから調達するようになっている、社会動向」のこと。具体的には、SNS, Youtube, Twitter, Podcastのように、企業・製品を語りあい、格付けしているようなソーシャルテクノロジー、ソーシャルメディアのことを指します。

 この本では、「組織が」、グランウェルズの戦略をたて、彼らの声に耳を傾け、話を聞き、活気づけ、さらには支援する具体的な方法が様々に書かれていました。

  統一的で明確な意思を持たぬグランズウェル・・・
 それは、「組織」にとって、「それまで長い間かけて培ってきたブランド」を一瞬のうちに消し去ってしまう「脅威」でもあり、同時に、爆発的なクチコミをまきおこす「チャンス」でもあるのです。それといかにつきあうのか。
 著者らは、米国の独立系コンサルティングファームのコンサルタント。様々なコンサルティング経験をふまえ、実践的な処方箋を述べます。ハーバードビジネススクールプレスの書籍にしては、内容は実践そのもののように感じました。
 
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「グランズウェル」が「組織にとってのソーシャルメディア論」であるとするならば、「個人にとってのソーシャルメディア論」は、さしずめ「Me2.0」ということになるのでしょうか。こちらは、「同じくソーシャルメディアを駆使して、いかに個人がパーソナルブランドを構築していくか」について論じている本です。ジャンルでいえば、「パーソナルブランディング論」ということになるのでしょうか。


 リーマンショック後のアメリカ。それは、様々な企業・組織がレイオフを断行し、人々の間に、自分の職に関する「疑心暗鬼」が広がった時代でした。若い世代は、就職さえままならない。
 
「わたしは、わたしのすべてを所有する」
「わたしの所有が、他者に再配分されることは許さない」

 台頭するリベラリズムの中で、誰もが「むき出しの個」として市場に投げ出されます。人々のあいだに格差が広がり、皆が、うつむきながら自信を失い、路地を歩く。
「Me2.0」は、このような社会経済背景をもとに、いかに個人が、この時代をサバイブするのか、について論じてあります。

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 前者のグランズウェルは「組織のための本」、そして「Me2.0」は「個人のための本」です。両者を重ね合わせて読みながら、痛感したことがあります。

 それは、

 ソーシャルメディアを使う前に、組織・個人それぞれが、自分のコアコンピタンス(中核能力)が、「何なのか」を、もう一度、問い直すことです。

 流動化・不確実化している社会にとって、最も重要なことは、ソーシャルメディアとのつきあい方もさることながら、その最も「根本になること」から目を背けないことではないでしょうか。あるいは、その「根本」を折に触れ、問い直し、構築し直すことから逃避しない、ということだと僕は思います。

 それが見いだせてはじめて、あるいは、それを向上させる努力が伴ってこそ、魑魅魍魎でとらえどころのないグランズウェルの大海へ船をこぎ出しても、遅くないように思います。
 場合によっては、もしソーシャルメディアが先であってもかまいません。いずれにしても、メディアにおけるインタラクションを為しながら、そのことを問い直すことから、目を背けないことが、もっとも重要ではないかと思います。

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 組織にとって、何が、最後まで譲れぬものなのでしょうか。どんなコアコンピタンスやコアバリューが、最も大切なことなのでしょうか。

 あなた個人にとっては、いかがでしょうか。自分のコンピタンス、オリジナリティ、譲れぬ信念は何でしょうか。

 組織・個人が、それぞれ、上記を見いだせたうえで、かつ、ソーシャルメディアとつきあえたとき、そこに付加価値が生まれるのかもしれません。コアコンピタンス、コアバリューに付随する様々な情報、ストーリーが、ソーシャルメディアを通して拡幅していくのかもしれません。場合によっては、そこにエコシステムができるかもしれません。
 逆に、そうした事柄を見いだす努力を放棄して、安易にソーシャルメディアの時流にのったときに起こる事は、これらの著者らが主張したかったこととは、全く逆の事のようにも思います。

 別の言い方をします。

 あなたの組織は、何を失えば、あなたの組織ではなくなってしまいますか?
 あなたは、何を失えば、あなたではなくなってしまいますか?

 アタリマエのことなのですが、それがソーシャルメディアとのつきあい方を考察するときに考えるべき事なのかもしれません。

 もちろん、これらの本においても、こうした事柄は言及されていました。
 が、著者らの意図を離れ、華々しい「ソーシャルメディア」だけが注目された場合、最も大切な「組織と個人の中にあるブレないもの」についての熟慮が失われかねないな、とも感じました。

 いまやソーシャルメディアは、誰もが、特段の思慮なく、気軽に利用できます。もはや、それはコモディティです。ソーシャルメディアが、そのような状況であるからこそ、重要なことは、

 あなたが、あるいは、組織が、自らのコアを考えること(リフレクションすること)、それを行動にうつすことではないか(アクション)、と僕は思います。

 そのような連鎖の果てに、ソーシャルメディアは位置づくのではないでしょうか。
 そして人生は続く。

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■2010年5月16日 中原のTwitterでの発言

  • 23:49  子どもは正直で、その反応は直裁ですよね!RT @nagatarey: 子供向けのワークショップを作っている。大人相手にファシリテーターをやるより恐ろしい。
  • 23:47  LEGOを使ったWSの理論的源流はこちら。Papert(http://ow.ly/1LGiv), Kafai(http://ow.ly/1LGk7) (http://ow.ly/1LGjM)、実務家向けにはhttp://ow.ly/1LGkj @takayuki_shmz
  • 23:38  75年生まれあたりの方で、当時のネット環境の変化に興味があった方には、おわかりいただけると思うんですよね(笑)RT @yuatast: これ、同世代として激しく同意。
  • 23:37  LEGO社が開発した企業向けWS「シリアスプレイ」というものがあります(http://ow.ly/1LGbB)。石原さんは、それを輸入している方(http://ow.ly/1LGbT)。かつて東大でもやりました(http://ow.ly/1LGcq)。@takayuki_shmz
  • 22:17  ちなみに僕自身は、大学の1・2年の多くをネットの世界に魅せられて過ごした。中学まではパソコン好きだったが、高校時代は全く触らなかったため、5インチフロッピーの世界から、突然、HD+ネットの世界に、衝撃を受けた。大学時代の2年間は、このバーチャルな世界こそが、リアルだった。
  • 22:11  村上先生、ご連絡&ブログでご紹介くださりありがとうございます。ご紹介していただいたことは、あの記事で、僕が問いかけたかったことです。RT @Midogonpapa: learnscapeの件、ブログでご紹介しました。 http://ow.ly/1LF6u
  • 22:07  BRUTUSのポップカルチャー特集を読んだ。思えば、僕の大学時代はメディア環境の激変期だった。大学1年の頃は固定電話、2年にはポケベル、3年にはPHSがでて、卒業時には誰もが携帯電話をもっていた。PCは入学時はMS-DOSが主流で、卒業時には誰もがGUIでネットを愉しんでいた。
  • 11:29  企業がソーシャルメディアとどのようにつきあうか? : グランズウェルを読了。http://bit.ly/aPFopv
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■2010年5月15日 中原のTwitterでの発言

  • 14:34  かもね。RT @daisuke1021: 同じことはテレビ出現時にも言われていたのかも?MT ipad は非常に忙しいゾンビをうみだすのか? : @YukiAnzai: @kazu_fujisawa iPadであなたはもっと馬鹿になる http://bit.ly/bo7wIQ
  • 14:00  ipad は非常に忙しいゾンビをうみだすのか? : 情報を処理しているが、考えてはいない!? RT @YukiAnzai: RT @kazu_fujisawa iPadであなたはもっと馬鹿になる http://bit.ly/bo7wIQ
  • 11:14  先人の肩の上で構想する : 何かに取り組み始めるときには、以前に同じことに取り組んだ人を徹底的に調べるといいですね。RT @salily1214: 先日はまれびとにてありがとうございました!あと、中原先生が教えてくださったキーワードで新たに文献を読み込んだり調べたりしております
  • 10:53  Twitterによるイベント中継にも、いろいろ準備や留意点があるみたいだ、、、RT @yuuhey: イベントでのライブツイートの基本 @jackiegerstein: How To Live Tweet A Conference http://bit.ly/a2ZPwW
  • 07:42  RT @tsuka_0814: 大学生の学びで注目している活動があります。学術系クラブでの学びです。意図的ではないかもしれませんが、うまくデザインされていて感心しました。比較的、就職(進学)も強いです。多くの問いを設定して研究します。
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