口蹄疫と消毒薬

口蹄疫のお話は出来れば回避したいと思っていました。あまりにも知識が無いのと、中途半端に書いて無用な風評被害を起したくないと考えていたからです。幸か不幸か理由はわかりませんが、なぜかマスコミも口蹄疫には非常に関心が薄いようです。後は粛々と感染の拡大を食い止める作業が進み、感染が終息してくれるのが一番理想的な展開と今でも思っています。

風評被害がどれぐらいになっているかはわからないのですが、どうやら肝心要の対策が全然「粛々」と進んでいないようです。そうであるなら敢えてこの件に触れておく方がメリットがあると思い直しエントリーをあげます。

口蹄疫とはになるのですが、非常に大雑把な説明だけしておきます。偶蹄目と言いますから具体的には牛や豚に広がる感染症で、症状としては人間の手足口病に少し似ているとされます。ただし似ているのは症状の見た目だけで、実質は天と地ほども違います。口蹄疫に罹患しただけで牛や豚が短期間で死亡するわけではありませんが、徐々に衰弱して死亡するだけでなく、病気の影響で子孫は殆んど残せなくなるそうです。

そのうえ問題なのは感染力の強さが超弩級であることです。インフルエンザなど目じゃありません。接触はもちろんこと、風が吹いても広がるとされ、手紙に付着して、人の手を仲介して感染することもあるぐらい強力だそうです。簡単に言えば、一度発生すれば加速度的に感染が拡大し、広い範囲で壊滅的な打撃を受ける伝染病です。頼りない知識ですが、今日エントリーを書く上の知識としてはこれぐらいで十分かと思います。


そういう超弩級の感染力を持った口蹄疫ですが、これも残念な事に治療法がありません。できるのは封じ込み作戦になります。超弩級の感染力がありますから、初動が重要であるのは誰でもわかります。この封じ込み作戦の具体的な内容は、

  1. 感染した牛や豚のでた畜舎は速やかに全頭屠殺処分とする
  2. 屠殺してもそこから感染するので、速やかに地中に埋める
  3. 発生畜舎だけではなく周囲を根こそぎ消毒する
  4. 感染地域の人の出入を可能な限り制限する
人の服やクルマのタイヤからでも感染は広がりますから、関係者への絶え間ない消毒、屠殺や埋めるのに使った器具も消毒、畜舎やその周辺の消毒、と素人が考えただけでもテンコモリの消毒薬が必要なのはすぐにわかります。また交通管制をある程度行なわざるを得ないので、行政が前面に立って封じ込み作戦を行なう必要があります。

イギリスで発生したときには当時のブレア首相が陣頭指揮を取り、選挙まで遅らせてこの対策に当たっています。つまり口蹄疫は畜産事業にとって国家的な問題であり、速やかに大規模な行動を起す必要があると言う事です。


知識が怪しい部分が多々ありますが、重要な事は口蹄疫が畜産業界にとって非常に深刻な感染症である事は常識であり、感染症の正体も、その対策法も手探りではなく確立していると言う事です。問題は確立していてもそれを実行するのが個人レベルでは不可能で、県レベルでも十分でないという事です。この事もまた畜産業界の常識であるとしても良いと思います。

宮崎ではとにかく消毒液の確保に走り回ります。封じ込み作戦のためには消毒液を確保しないと次に進まないからです。もちろん国にも口蹄疫発生の届出は速やかに行なわれます。宮崎で口蹄疫が発生したのは4/20なんですが、4/22の衆議院農林水産委員会でも取り上げられています。これは天漢日乗様のところからの引用なのですが、モトネタは江藤拓議員のサイトにある4/22の議事速報(PDF)です。

江藤委員

     (略)これは緊急事態でもありますので、お許しをいただきまして、ぜひ口蹄疫につきまして質疑をさせていただきたいと思います。(略)

     昨日は(略)JA、それから市町村、そしてまた生産者の方々、関係者の方々にたくさんお集まりいただいて生の声を聞いてまいりましたので、ぜひ大臣にお聞き届けをいただきたいというふうにおもいますので、よろしくお願いを申し上げます。

     そこでまず聞かれた声、それは十年前の対策と比べて非常に初動が遅いと。(略)初動が遅い、不十分だという声が多く聞かれました。農水省は防疫関係とかこういうものに精通した人間を急遽派遣したということでありましたけれども、一体これは役に立っているのか、何をしているんだという批判の声が強く上がっておりました。

     大臣にお尋ねします。

     (略)(十年前の口蹄疫発生当初に)百億円という金を最初ぽんと出しました。これはつかみ金だったという批判はあるかもしれません。でも、これが、農家の方々、この人たちにまず安心感を与えたんですよ。それなら思い切って対策を打てる、頑張れる、そして再建ができるという希望を与えたんですね、地域の方々に。

     ですから、今、予算は心配していないというようなお話をされました。しかし、ALIC(=独立行政法人農畜産業振興機構)も、今回の畜酪対策で二十二年度末には二百億円しか残らないでしょう。そういう状況になるとやはり心配ですよ。ですから、国として金額を明示して、これだけはきちっと用意したから。余ったら余ったでいいじゃないですか。やはり金額を明示することが大事だと私は思いますが、大臣のお考えをお聞きしたいと思います。
赤松国務大臣
     時代がもう違いますから、例えば、かつて平成十二年のときは、南九州三県の市場再開後のPRに使えといって各ところに百万円ずつばんばん渡してというもあるんですね。では、果たして今そういうやり方が国民に納得していただけるのかというところは、正直言って難しいと思います。

     ただ、私どもは、当時、その後の鳥インフルエンザのときもそうですが、消石灰その他が足りないとか、まきたくてもまけないとかいうことがあったものですから、そういうことはないように、少なくとも今発生している宮崎県については、県内の発生してないところも含めて全域に、これはもう十分の十、全額国費でまずまこうということで、これも、本日朝、財務省の主計局の了解もとって、直ちに取り組めるような形にさせていただきました。

     あと細かなことはいろいろありますけれども、これは後で副大臣政務官からまた御説明をさせますけれども(略)きちっとした対策をお伝えしておるつもりでございます。(略)
江藤委員
     十年前と事情が違うのは当たり前なんですよ。そんなことは、当たり前なんです。

     百万円を市場に渡すのは悪いと言いましたけれども、これは絶対に要りますよ。一番市場が心配していることは、次に市場が開催されたときに(略)購買者の方々が(略)ちゃんとまた宮崎県に足を運んでいただけるかどうか。そういったときの運送賃とか、そういうものにも使ったんですよ。絶対必要ですよ。国民の理解は得られますから。それは、大臣、認識が違います。

     そして十年前と確かに事情が違いますよ。言いますと、例えばえさの値段、今は建て値でトン当たり五万二千円ですね。非常に高いです。十年前は三万二千円でした。二万円違うんです。もっと細かく言いますと、牛一頭当たり、いわゆる繁殖牛でいいますと約一万七千円、肥育では二万円だったものが、どんとはね上がっているんですよ、一頭当たりの負担が。そして、リーマン・ショック以来のいろいろな問題があって、枝肉の価格も低迷、子牛の価格も低迷、農家の体力はどんと落ちているんですよ。

     ですから、百億円以上の対策が私は必要だと思いますよ。まず、農家に安心していただく。我我は再建できるんだ、この困難に対しては十分な支援を国がしてくれるんだと。それは数字ですよ、大臣。数字です。(略)

     そして、蔓延防止対策ですけれども、小林市(略)皆さん方は遠くから牛を引いてきました。八時半の時点で急遽競りをやめました。移動制限区域ではありませんよ、小林市ですから。全然遠いところです。鹿児島でも、実は昨日から競りをやめることが決定されました。こういったところにも、制限区域に入っていなくても、手厚い支援をしなかったら、生産基盤が崩壊してしまうんですよ。ちょっと取り組みが緩いんじゃないですか。(略)

     十年前は、OIE、国際機関ですけれども、宮崎県は非常に高い評価を得ました。ちょっと読みますと、宮崎の初動防疫は日本の畜産、獣医の底力が世界に示された快挙である、関係機関が一体となって、延べ一千四百人を配置した貿易体制は世界に例を見ない、こういう評価をいただいたんです。この背景には、やはり国が十分にバックアップをしてくれるというものがあったからこういう態勢が組めたわけでありまして、このことをご理解いただきたいと思います。

     そして、さっき、財務省との協議がどうたらこうたらと言っていますけれども、(略)ALICの金があるじゃないですか、副大臣。そうでしょう。関係ないじゃありませんか。その金をすぐ持ってきてくださいよ。

     そしてまた、一つ申し上げておきます。非常に必要なのは防疫体制なんですが、普通の消毒薬では口蹄疫には効きません。一番一般的に言われるのはビルコンSという薬なんですが、これが全く品薄です。手に入りません。(略)

     ですから、ぜひ国においては、まずは発生県、その一番被害を受けている県にこのビルコンSのような消毒薬がおくれることなく渡るように指導していただきたいと思いますが、副大臣、五答弁を求めます。

山田副大臣
     初動が遅いというお話でしたが、決してそんなことはないと。

     最初の擬似患畜が確認されたのは夜中の十二時だったんですが、(略)朝の八時に、大臣、副大臣政務官、そろって対策本部、会議を開かせていただきました。(略)

     ただ、金を百億持ってきたから安心できるとかという話では思っていまして。(略)

江藤委員
     対策本部を霞ヶ関につくたってしょうがないんですよ、正直言って。現場の対策本部が動かなければだめなんです。

     例えば畜連で話をずっと朝から聞いていましたけれども、十年前は発生した日の朝から農水省からファックスでいろんな資料ががんがん届いて、いろいろな指示が飛んだそうです。きのうの昼の時点で農水省から児湯畜連にファックスはゼロですよ、ゼロ枚。何の御指示も何もない。そうしたら、現場の人たちが初動が遅いと感じるのは当たり前じゃないですか。一体国は何をやっているんだと感じるのは当たり前じゃないですか。(略)

     低利融資の話もありました。これをやるのは当たり前です。(略)しかし、当座の資金繰り、これは非常に大事ですよ。これは急がなければなりません。

     例えば繁殖農家について、(略)種付け。今、中止しています。できませんから。人工授精師は収入がありません。これに対しても考えてください。

     それから、繁殖農家は、一年一産、これが基本ですよね。一年一産すれば、大体経営的には回っていく。種付けができなければ、一年一産の生産計画は完全に狂ってしまいます。これも考えなければなりません。

     そして、今週末に行われるはずだった競りも中止になりました。そうなると、一カ月延び、二カ月競りが延びれば、体形はでかくなり、体重もふえてしまいますね。副大臣ご存じのとおり、こういう牛は安く買いたたかれるのですよ、必ず。そして、えさ代もその間ずっとかかるわけであります。それも踏まえた対策を繁殖農家に打っていただかないと、今、ぎりぎりの状態でみんな頑張っているわけですから、十分考えてください。(略)

     すべて国費で、全額負担でやっていただきたいというふうに思います。

     肥育農家対策について申し上げますけれども、(略)今月までの支払いは何とかなる。(略)しかし、来月になったら、もうにっちもさっちもいかぬというふうにみんな言ってます。(略)支払い猶予とか、そして制度資金、今お話がありましたけれども、早くやってください、早く。来月(つまり今月)じゃ間に合いませんよ。もう連休明けなんという話をしていたら、これは間に合いません。はやくやってください。

     そして、屠畜場であるミヤチク。これも制限区域内ですから、今屠畜ができません。受け入れ中止になっています。これは全部、いわゆる高崎の方に移さなければならないわけですが、そうなると、例えば椎葉とか高千穂とか延岡、日向、物すごい遠いですよ、牛を運ぶのに。この運送費、こういったものを見ていただかなきゃなりません。

     (略)酪農について申し上げます。

     ぬれ子(=生まれたばかりの乳牛の雄仔牛)は、御存じのように、六十日を超えたら肉用子牛補給金制度の対象にはなりません。ですから、これを超えても、例えば百二十日以上たっても大丈夫になるように、この延長を絶対してください。

     そして、ぬれ子のえさ、これは粉ミルクですけれども、これが今、一俵当たり一万円以上に価格が高騰しております。もし、酪農家が六十日を越えて自分のところで肥育するということになれば、えさ代が莫大にかかるんですよ。この分もちゃんと考えてください。

     それから、発生した酪農家、(略)全頭屠畜です。(略)北海道から今(新しい乳牛を)買ったら、六十万を超えますよね。六十五万ぐらいじゃないですか、一頭当たり。これを自分の金でやれということであれば、無理です。(略)酪農家の声としては、ぜひ全頭屠畜する場合は、この導入資金は全額国で見てほしい、そうじゃないと立ち上がれない、もう離農するしかないとみんな言ってます。

     (略)そして、酪農家の皆さん方を手助けするヘルパーの皆さんとか、それから乳牛検査員の皆さんもみんな今活動停止です。この人件費についてもぜひ見ていただかないと、非常に厳しいことになります。

     そして、非常に問題なのは養豚対策ですね。(略)

     そして、宮崎県の場合は母豚が五百とか千とかいる大規模な農家が多いんですよ。こういうところは今パニック状態に陥っています。豚価は安い、そして出荷はできない。(略)八十五キロを超えたら、脂肪がつき過ぎて値段が安くなります。出荷できなくなります。しかし、えさ代がかかります。月一万二千円かかります。(略)出荷はできない上に、一万二千円も一頭当たりえさ代がかかる。もうこれは倒産寸前ですよ、このままでは。

     だから、初動が遅い。(略)

     そして、一番の問題は、行政の指導によりまして、いわゆる排泄物、廃棄物、これが今農家で全部滞ってしまっています。(略)

     今、養豚農家は自分の敷地から出せないんですよ。どうしてですか。行政の指導によって、これは絶対おかしいですよ。(略)

     これはパニック状態に今陥っておりますけれども、副大臣の御認識をお聞きします。
山田副大臣
     今、江藤委員からのお話を聞きながら、本当に現場がまさにそういう状況であることを、よく承知させていただきました。(略)
江藤委員
     ですから、今始めて聞いたというのは一体何なんですか。そんなこともわからないで、八時半に対策本部をつくったから初動は早かったなんてよく言えますよ。全然だめじゃないですか。私は農水省に確認をしましたけれども、家畜防疫員の許可をとれば搬出できるんですよ。前回は搬出しているんです。今もどんどん養豚農家にはそういう廃棄物がたまりにたまっているんですよ。何で指導力を発揮しないんですか、この政権は。もっとちゃんとやってください。私は怒っていますよ、正直言って。

出来るだけ短く要約すると、江藤委員が「初動が遅い」との指摘に対し「夜中の12時に連絡を受けて朝の8時には対策本部を開いた」と山田副大臣は答弁されています。でもって何をしたかといえば、

    きのうの昼の時点で農水省から児湯畜連にファックスはゼロですよ、ゼロ枚。何の御指示も何もない。
まあFaxが洪水の様に来るのも考え物ですが、発生から2日経っても「ゼロ枚」と言うのも極端です。何もしていないとの指摘がなされても仕方が無いところと思います。それとおそらく江藤委員は前回の宮崎への対策を念頭に置いての指摘をされていますが、赤松大臣は
    時代がもう違いますから
時代と言っても10年前なんですけどおそらく「与党が違う」と言いたかったのかもしれません。ちゃんと対策をやってくれればそれで良いのですが、トドメが山田副大臣から出てきます。
    今、江藤委員からのお話を聞きながら、本当に現場がまさにそういう状況であることを、よく承知させていただきました。
ジョークを飛ばされたのでしょうか。解釈に悩むところです。もう一つこの質疑応答のポイントを挙げておくと、赤松大臣の答弁ですが、
    少なくとも今発生している宮崎県については、県内の発生してないところも含めて全域に、これはもう十分の十、全額国費でまずまこうということで、これも、本日朝、財務省の主計局の了解もとって、直ちに取り組めるような形にさせていただきました。
少なくとも宮崎県には十分な消毒薬を「全額国費」で供給すると明言されています。さて赤松大臣ですが、この委員会質疑が終わった後に外遊に旅立たれています

平成22年4月30日(金曜日) 成田発

ご帰国遊ばされたのは5/8みたいですが、赤松大臣が外遊に出発遊ばされた4/30に自民党口蹄疫対策本部(そんなもの作ったんだ!)が記者会見を行なっています。

この8:44頃に有名になったフレーズがあります。

「消毒剤を確保しましたと・・全県にこれでいきわたりましたという事でありますけど、アレ・・江藤先生、どこどこが用意したんでしょうか?」

「えー、宮崎の場合はですね、国からはまったく・・消毒液一箱も届いておりません。届け先はですね・・町で単独で注文した物、 それから、宮崎県・・・農協の経済連が注文した物、宮崎県の畜産業界が調達した物でまかないました。プレス発表では、 国があたかも配ったように報道されておりますが、まったくの誤報であります。皆さん方(マスコミ)の責任ではどざいません。」

赤松大臣が全額国費で宮崎に撒くと国会で明言されたのが4/22で4/30になってもまったく配布されていないとしています。これはその後の続報でも事実のようです。なによりこの自民党側からの指摘に対し一言も反論していないのが証拠とも言えます。消毒薬に関しては農林水産省の4/30付プレスリリースに、

宮崎県全域を対象とした全額国庫負担による消毒薬の散布

こう明記されていますが、これは4/21早朝に東京で対策会議を「素早く行い」、4/22の農林水産委員会で「全額国庫」でと答弁し、4/30になって「これから配布する予定」との対策でしょうか。消毒薬についての認識は4/22付の山田農林水産副大臣の記者会見概要でも触れられています。

 消石灰が足りないのではないかということなのですが、今、調べさせてみたところ、何とか、そんな足りないという状況ではなさそうな気がしているのですが。何か、ビルコンSとかという、いわゆる液体の、薄めて使う、養豚農家、よく使っているらしいのですが、それが、ちょっと使いやすいので、成分は消石灰みたいですから、それが欲しいというお話のようですね。それもあるのだったら、すぐに手配したいと、そう思っておるところで、何とか、まずは、全面的に消毒を徹底してやってと。

 ただ、潜伏期間が7日間と言われておりますが、もうすぐ、皆さんにプレスリリースするかと思いますが、4例目の、どうやら疑似患畜が確認されました。やはり、同じ地域なので、すぐ近くなんですが、何とか、これは、繁殖肥育農家で、65頭ぐらい飼っているのかな、ちょっと、まあ、殺処分という形になるかと思います。今週、潜伏期間が1週間なので、移動制限してから1週間経たないと、ぽつぽつと、こういうのが出てくる可能性は、まだあるのではないかと。

 しかし、いずれ、この10キロ(メートル)の範囲内でのことなので、ここで完全にしっかりと消毒をやれば、十分封じ込めることはできるのだと、そう確信しております。

なかなか優雅な御認識で、基本は、

    そんな足りないという状況ではなさそうな気がしているのですが
しっかり駄目も押されているようで、
    記者:「宮崎で足りないということはないというふうに見てよろしいわけですね、消石灰のビルコンSは。」
    山田:「そう思ってますが、もし、実際、足らないようなことがあれば、手配して、どこからでも持って行くようにという話はしております。」
かなり事態を軽く認識されている事が確認できます。そんな程度の認識の農林水産省の消毒薬認識ですが、5/2付朝日新聞には、

 宮崎県で発生した口蹄疫(こうていえき)の感染拡大の防止に使う消毒薬が九州各県で不足している。大分県は消毒薬1トンを購入しようとしたが、宮崎、鹿児島、熊本も必要としているため品切れとなり、250キロしか確保できていない。専門家は、発生に備えて普段から十分な消毒薬の備蓄をする必要があると指摘している。

 口蹄疫のウイルスは酸やアルカリに弱く、消毒には塩素系の消毒薬や炭酸ソーダ消石灰などが用いられている。

 大分県によると、発注した消毒液はヨーロッパからの輸入品のためすぐには手に入らない。その上、輸入会社が家畜の数で優先順位を割り当てているため、宮崎、鹿児島、熊本が優先され、その次の順になっているという。

 大分県は現在、県内2430戸の畜産農家に20キロ入りの消石灰1万8400袋を配布し、散布して消毒を徹底するように指示。県家畜衛生飼料室は「消毒液は希釈するので、ある程度は使用できるが、急いで確保したい」と話している。

 熊本県も消毒薬2.5トンを確保しようとしたが、品切れで入荷のメドも立たなかったため、急きょ別の消毒薬を手配した。5月中には十分な量を確保することができる見込みという。鹿児島県は炭酸ソーダ消石灰を使って消毒しているが、必要量の半分も確保できていない。

 末吉益雄・宮崎大農学部准教授(動物保健衛生学)によると、消石灰口蹄疫のウイルスに効果があり、環境に負担が少なく、汚染地帯が見た目にもわかりやすいなどという利点がある。しかし長靴や輸送車両のタイヤの消毒などに液状の消毒薬が必要で、末吉准教授は「隣県は十分な量を保有しておく必要がある」と話している。

たぶんなんですが農林水産省の政務三役の消毒薬への認識は、

    いずれ、この10キロ(メートル)の範囲内でのことなので、ここで完全にしっかりと消毒をやれば、十分封じ込めることはできるのだと、そう確信しております。
10km四方に使うだけなので在庫は十分あるし、騒ぐほどの事もないと判断していたと考えられます。ですから消毒薬の確保も地元任せであり、大した問題では無いので赤松大臣は勇躍外遊にお出かけになられたと考えれます。


あんまり結果論で責め立てるのは良くないのでしょうが、少々危機管理意識が薄かったような気がしています。私は口蹄疫について素人なので、焦点を判りやすい消毒液になるべく絞って話を書いてみましたが、どうにも農林水産省と言うか、大臣を始めとする政務三役の意識は甘かったと言えそうです。

私の口蹄疫に対する知識は文字通り泥縄です。泥縄でも大変な感染症であるのは理解できました。赤松大臣がどれほど口蹄疫についての知識を持たれていたかは不明ですが、そこは農林水産省ですから病気についての知識を得る事は容易のはずです。10年前に国内の先例もあり、少なくとも新型インフルエンザより対策は立てやすかったと考えられます。

公式記録に残されている大臣を始めとする政務三役の今回の口蹄疫に対する認識は軽視は言いすぎとしても、かなりの楽観視であったと言っても差し支えないと思います。楽観視されたのは自らの知識と情報の上でそう判断されたのか、官僚なりのレクチャーや報告を聞いた上でそう判断されたのか不明ですが、残された対応の結果ではそうとしか考えられません。

初期の判断において楽観視するのは一つの判断ですが、4/20に発生が報告されて4/30に外遊に赴くまでの間にこれを修正するチャンスはなかったのでしょうか。楽観視するのと情報収集を怠るのは別の話です。口蹄疫自体が重大な感染症である知識は速やかに得られたはずですから、判断が楽観的であったにしても、楽観的に経過するかどうかの監視は怠ってはならないはずです。

封じ込み作戦を展開するのにまず確保しなければならないものに消毒液がある事はすぐにわかるはずです。これも初動時に10kmの範囲内の消毒に必要な国内在庫の確認を行なったであろう事はわかります。ここで問題なのは国内在庫の確認の次に、迅速に感染地に消毒液が送られたかどうかを監視しておく必要があると考えられます。初動時の大切さも十分わかっているはずだからです。

国費で消毒薬を配布すると明言しているのですから、幾ら買い付けて、それがいつ感染地に到着して受け渡されたかの報告が赤松大臣に行なわれるはずです。楽観視の判断であったから外遊に赴かれたのでしょうから、せめて消毒薬の手配がどうなっているかを確認してから外遊するべきだと思えます。もちろん口蹄疫感染の拡大の判断も必要です。

どうもなんですが、赤松大臣の判断の元は、委員会質疑で「時代が違う」と答弁された10年前の流行であるように感じます。10年前は1000頭程度の処分で感染の終息に成功しています。だから今回もその程度であろうの判断です。先例を経験として活かすのは悪い事ではありませんが、口蹄疫の流行はいつも小さいものではないのは諸外国の流行を見ればわかるはずです。

10年前と同様に軽く済む可能性もありましたが、逆に大流行する可能性もあるという事です。初期の楽観視の判断を必ずしも非と言い切りませんが、楽観視の判断とは別に、常に事態の悪化への監視をしておくと言うのが危機管理のように思います。楽観的観測で事態が終息すればそれでよしですが、一方で事態が悪化・深刻化しても対応できる体制を備えておくのが危機管理です。

外遊の判断も、初期に楽観視した情勢が本当に楽観的に終息している事が確認できてから行なうべきではなかったかと考えられます。発生から10日間の間に初期の楽観視した判断材料に変わりはなかったのかと言う事です。口蹄疫対策の直接の責任者は農林水産大臣であり、事態が悪化・深刻化したときには農林水産大臣の迅速な判断が必要になります。外遊・不在となれば対策が後手に回る懸念が出てくるからです。

発生から数日時点の楽観的な判断はまだ仕方がないにしろ、10日目の4/30時点でも本当に楽観的判断を変更するような報告は無かったのかを疑問視せざるを得ないところです。さらに言えば重大問題ですから、外遊中にも続報が次々と赤松大臣のもとに届られているはずです。その報告を読んでも外遊を中断して帰国し、対策に当たるという選択枝はなかったのかと素直に感じます。

これは失礼に当たるかもしれませんが、判断の基礎が「外遊したい」であり、外遊するためには口蹄疫感染が10年前と同様に小規模で終息しなければならないとの考えですべてを判断していたんじゃないかの批判の余地さえ生まれかねません。赤松大臣が日本にいたら感染が小さく終わったかどうかはわかりませんが、深刻な事態の展開している時に責任者が不在と言うのはあまり歓迎すべき状態とは言いにくくなります。

もう一つ鳩山首相の対応です。パフォーマンスであっても宮崎に行くべきであったような気がしています。首相が宮崎に行ったところで変わりは無いという意見もありますが、首相が県知事や担当者の悲鳴を直接聞き「政府は可能な限りの対策を至急に行なう」ぐらいの声明を現地で発表するのは政治的なアピールとして有効と思います。

現首相のお言葉は軽いのが特徴ですが、それでも首相の発言ですから、感染地の人々を勇気付けるぐらいの効果はあると思います。安倍元首相が地震の被災地を訪問した事があります。あれもどうかの賛否両論はあるにはありましたが、それでも首相が現地入りした心理的効果は評価できるものです。

まあ鳩山首相もそれぐらいは考えたかもしれません。ちょうど普天間問題もあり首相はGW中も国内に留まっておられましたから、日帰りで宮崎に出かける考えぐらいは出ていても不思議ありません。この辺は藪のうちですから、ひょっとしたら外遊した赤松大臣からの楽観的な見通しで安心しきっていて気にもしていなかった可能性もあるにはあるからです。

ただなんですが、良く考えれば首相の宮崎入りにも重大な障害があります。口蹄疫の感染拡大防止の意味はさておき、宮崎で首相声明を出す時に所管大臣である農林水産大臣が外遊で不在と言うのは締まりません。首相が現地入りしているのに農林水産大臣が不在では政治的に格好がつかないという判断です。

考えてみれば最近の農林水産大臣ポストは少々祟られています。これはwikipediaからですが、

省庁再編後、2001年に就任した武部勤BSE問題を巡る失言などで強い批判を浴び、後任の大島理森は様々な疑惑から事実上更迭された。続く亀井善之は離任後まもなく病に倒れて死去している。2004年に就任した島村宜伸は翌年の郵政解散直前、閣議衆議院の解散に反対して閣議決定への署名を拒否し、辞表を提出したが、小泉純一郎首相により罷免された。島村の罷免を受け、副大臣から昇格した岩永峯一も離任後に献金問題を指摘された。2005年に2度目の就任を果たした中川昭一(初代農林水産大臣である中川一郎の子息)は無難に職務をこなして退任したものの、4年後には財務大臣辞任、落選の憂き目を見て、2009年10月に父・一郎より1歳若い56歳で急逝した。

特に2006年9月26日に発足した安倍内閣では農相の交代が頻繁に起こっており、最初就任した松岡利勝は光熱水費問題を国会で追及され、戦後の閣僚としては初めて在任中に自殺。若林正俊の臨時代理を経て後任の赤城徳彦も自身の数々の疑惑により、これが一因で7月の参院選における自民党敗北を招いたとされ、2007年8月1日に事実上の更迭、2009年の第45回衆議院総選挙は落選した。

そして、若林正俊環境大臣の兼任を経て8月27日に発足した安倍改造内閣では遠藤武彦が就任するも、置賜農業共済組合掛金不正受給問題などを追及され、9月3日に辞任。在任期間8日間という近年では稀に見る異例の事態となった。後任はまたも若林。同一政権下で臨時兼任も含めると3か月余りの間で3度目の農相就任となった。更迭という事態にはならなかったが、2010年4月に参議院本会議での不正投票問題によって議員辞職に追い込まれた。

2008年8月にも、太田誠一による事務所費問題も浮上し、在任中に事故米不正転売事件に関する発言が問題視された。2008年9月19日には、事故米の不正転売の責任を明確にするということで、福田首相に辞表を提出。太田も赤城徳彦同様、第45回衆議院総選挙で落選した。太田の辞任後は内閣官房長官町村信孝が臨時代理を務めていたが、麻生内閣農林水産大臣に就任した石破茂は、この事態に「誰から事務引き継ぎするの?」と就任時のインタビューで皮肉を漏らした。

赤松大臣もこの連鎖の系譜に名を連ねるのでしょうか。今わかっている結果は、発生から19日目(5/9時点)で6万頭の殺処分が進行していると言う事だけです。