未来の家は喋る?!~The Microsoft Home Tourレポート


 米Microsoft本社には、未来の家庭の様子を紹介するThe Microsoft Homeと呼ばれる施設がある。米ワシントン州レドモンドの本社キャンパス内にあるエグゼクティブ・ブリーフィング・センターのなかに設置されているもので、5~10年後の未来の家庭を想定し、Microsoftが目指す「家」の姿を紹介している。今回、この「The Microsoft Home」を紹介する「The Microsoft Home Tour」に参加する機会を得たので、ここでご紹介したい。

 施設は、1994年から開設されており、2~3年ごとに内容を変更。次の未来を提示し続けている。今回はちょうど数カ月前にリニューアルしたばかりだという。

The Microsoft Home Tourは、将来の家庭の様子をデモストレーション。国内外の要人が訪れるエグゼクティブ・ブリーフィング・センターのなかに置かれている

Microsoftが目指す技術によって、家族団らんがどう実現されるか

 説明をしてくれたThe Microsoft HomeのJackie Giuliano氏は、「Microsoftが目指す技術によって、家族団らんがどう実現されるのか。未来の家庭はどうあるべきか。それを提示するとともに、Microsoft社員や、パートナーがブレーンストーミングを行う場としても活用している」と、The Microsoft Homeの役割を示す。

 そして、「数カ月前のリニューアルでは、クラウドやインターネットを活用して、家庭はどうなるのかといった点、あるいは日々の過ごし方がどうなるのかといった点をテーマに実施した」。

 「現在のように、インターネットを利用する際に、キーワードを入力して、サーチをして、といった手間がかかるものではない。しかもPCの形を見せることがなく利用できるものとなる。家庭と技術との融合が進み、人の動きにあわせて、自由に稼働するものとなる。インターネットやクラウドの使い方は大きく変わる」と位置づける。

 残念ながら、このツアーに参加するには事前の登録が必要であり、名前や所属を明確にするなど、かなり厳しいチェックが行われる。そして、写真撮影も一切禁止だ。

 このThe Microsoft Home Tourでは、どんな提案が行われているのか。その一端を紹介する。

携帯電話が鍵代わりになる扉

 MS Home Tourの入口は、重厚な玄関からはじまる。Giuliano氏はこの家の主人という設定である。扉の横には、電気で動く電動スクーターが駐車置かれており、いままさに充電を行っているという様子だ。

 玄関前に立ったGiuliano氏は、「5年後、10年後でも、人々が携帯電話を持っていることは変わらない」として、ポケットから携帯電話を取り出して見せた。この携帯電話にはスマートチップが埋め込まれており、そこから個人を認識して、玄関の扉が開くという仕組みだ。

 扉には鍵穴がなく、携帯電話が鍵代わりになる。これを利用することで、例えば、親戚が訪れる時間だが、どうしても帰宅が間に合わないということになれば、ネットで親戚の携帯電話に鍵の情報を送り、先に家のなかに入ってもらうということもできるという。

 他人がベルを押した場合には、外出先にいても、すぐに情報が携帯電話に転送され、誰が来たのかを映像で確認することができる。世界中のどこにいても、家のなかにいるのと同じ応対が可能になるのだ。また、玄関先で不自然な振る舞いをする人がいた場合には、携帯電話を操作して、家のなかから犬の鳴き声を出すということもできる。

 扉の鍵を解除するには携帯電話だけでなく、虹彩による厳しい確認や、よく利用する家族の場合であれば、手の大きさで判断するといったこともできるという。

 扉を開けて玄関に入ると、そこには携帯電話の充電器が置いてある。充電器といっても、見た目は平面のトレイで、場所を気にせず、その上におけばワイヤレスで充電が始まる。また同時に必要なデータのダウンロードやアップロードも可能だ。

 同じように、腕時計を置いてみる。すると、外出中をはじめとして、今日一日の心拍数の推移、血圧の状況などの腕時計に蓄積された情報がダウンロードされ、さらに各種医療情報と組み合わせて、自分の状態が健康なのか、そうではないのかといったことを判断し、それに対するメッセージが伝えられる。「感情面では安定しているが、血糖値が高いから、今日の夕食は注意が必要。また、午後1時から2時までは脱水症状気味だったといったメッセージなどが表示され、自らの健康について関心を高めることができる」という。

家中のさまざまな情報が表示されるディスプレイ

 一方、玄関の充電器の反対側には、プロジェクターで映し出されたディスプレイに、家中の様々な情報が表示される。

 玄関先で充電中のスクーターの充電時間はどうか、天気を察知してスクーターで外出が可能かどうか、今日の家族の予定はどうなっているか、家族はいまどこにいるのか、家族からメッセージはないかといったことが表示されている。

 実は、このディスプレイを表示するとき、Giuliano氏は驚くことをしてみせた。

 いきなり、大声で「グレース!」と叫んだのだ。

 この家の情報を管理しているのはグレースと呼ばれるコンピュータで、Giuliano氏の音声であることを認識して、家庭や家族などの情報をディスプレイに表示したのだ。そして、グレースは、簡単な会話もし、生活を豊かにする手助けする。Giuliano氏の声を聞いて、気に入っている照明にしたり、温度、音楽もグレースが制御してくれるのだ。

 まさに未来の家を象徴する技術のひとつだといえよう。

RFIDで食材を管理

 続いてキッチンに移動してみた。

 キッチンに置かれたディスプレイは、一体型デスクトップPCのように見えたが実はそうではない。

 ガラス板の裏側からプロジェクターで情報を投影。さらに、同じく裏側にはセンサーカメラを設置していることから、タッチパネルのように指で操作できるのだ。

 このディスプレイでは、現在の家庭の電力消費量や発電量を確認したり、玄関で見た健康に関する情報も、医者からのメッセージやカルテの閲覧など、さらに細かくした情報も閲覧できる。センサーカメラを利用することで、個人認証をすることが可能になり、自分に必要なニュースなどの情報も、ネット上から自動的に収集して表示する。

 一方、冷蔵庫ではRFIDチップにより、すべての食品などが管理されている。「現時点でのRFIDチップの価格は1個12セント程度。5年後には1個1セントまで下がるだろう。そうなれば、数多くの製品にこれを埋め込むことができる」とする。

 キッチンのカウンターには、天井に埋め込まれたプロジェクターから、5インチの円形の画面が表示され、RFIDで認識された食材の情報をもとに、いまどんな料理を作ることができるのか、あるいは足りない材料はなにかといったことを知ることができる。

 ここでもグレースが、「なにか手伝いましょうか」と質問。これに対して、「手伝ってほしい」と答えると、カウンターに置かれた食材だけでなにを作ろうとしているのかを認識し、どんな作業が必要なのか、なにが足りないのかといった情報をもたらしてくれる。食材だけでなく、そこに置かれたミキサーや包丁などもなにを作るかを認識すための材料とする。

 また、目的の料理が決まり、そのレシピが知りたい場合には、オンラインサービスから適切な情報を入手して表示する。「単にオンラインから入手するだけでなく、例えば、カウンターに置かれた小麦粉を認識して、そのメーカーが提供する、独自に用意したレシピを表示することも可能になる」という。

 また、このカウンターのディスプレイでは、薬を飲む場合にも活用できる。

 自分が飲む薬はもとより、家族が必要とする薬についても、間違えずに投与できるようにしている。

 「薬のビンをディスプレイの上に置けば、それが正しい薬がどうかを認識してくれる。おばあちゃんが飲む薬も、ここで正しく認識して、ヘルパーが枕元まで持っていくことができる」というわけだ。

PCとダイニングの大型テレビが連動、プロジェクターが多用された室内

 キッチンの奥にあるのは、ダイニングルームだ。

 娘が学校で使っているPCと連動させて、その情報をダイニングの大型テレビなどに表示することができる。

 「今夜の夜空を見て、星座の学習をするといった課題が娘に出ていた。そこで、夜空の様子をテレビに映し出すだけではなく、壁一面にも表示することができる。どんな星座がどこにあるのか、夜空のどの方向を見るといいのかといったことも、部屋全体を使って、本当に夜空を見ているようにして学習できる。学習効果が高まることになるほか、自分の部屋に籠もって勉強するのではなく、家族が一緒になって学習するというコミュニケーションも図れるだろう」などとした。

 ダイニングルームのテーブルも、状況に応じてデザインを変えることが可能で、プロジェクターとカメラセンサーを使って、テーブルに描かれた飛行機の絵をアニメーションとして、飛んでいるように動かしてみたりといった楽しい使い方も可能だ。

 続いて、娘のベッドルームに進む。壁紙はティーンエイジャーらしくポップなものだ。

 壁に手をかざすと、それにあわせてメッセージが表示される。自分が気に入った写真も壁に表示することができる。

 ところがこの日は、遠方から来たおばあちゃんがこの部屋に一緒に泊まるという設定。そこで、おばあちゃんが気に入るように、壁紙を一気に変えるという指示をグレースに行った。すると、ティーンエイジャーの部屋から、昔懐かしい写真などが壁に掛けられた落ち着いた部屋に一変したのだ。

 最後に訪れたのが、パーティールームだ。

 ここでもグレースに指示をすると、パーティーの内容にあわせた形で、照明、音楽などを切り替える。

 また、ディスプレイに表示されるコンテンツは、家族が所有する音楽、映像コンテンツだけでなく、世界中のコンテンツから選択することができる。見ず知らずの国のヒットチャートや親しまれている楽曲も自由に選択することができるようになっている。パーティーに応じて、楽しみ方を柔軟に変化できる部屋を実現しているのだ。
 
 今回のThe Microsoft Home Tourでは、各所にプロジェクターが使われているのが特徴だといえる。

 「いまは1000ドル程度かかるが、将来的にはこれがもっと安くなってくるのち明らかだ。スマート電球と呼ばれるようなものが登場し、さら高画質なものが利用できるようになる。プロジェクターによる表示は、ひとつの回答だといえる」などとした。

 プロジェクターの場合、価格や寿命などが課題とされるだけに、これがどこまで現実的なものになるか、今回の未来の家庭を実現するには、その技術進化が注目される部分だろう。

 また、The Microsoft Home Tourでは、いまのPCの形を家のなかで見ることはなかった。

 娘が学校から持ち帰ったとされるPCも、スレート型のものだった。
 Microsoftが想定する未来の家庭では、いまのPCの形ではなくなっているということを示唆するものとも感じた。


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(大河原 克行)

2010/4/27 06:00