2010年4月20日11時34分
開幕戦を前に、練習をする兵庫スイングスマイリーズの選手たち=小林裕幸撮影
女子プロ野球が23日開幕する。関西2球団でスタート。競技普及の点で意義ある一歩だが、経営面では手探り状態での船出だ。
■競技人口600人 経営面に課題
昨秋の合同入団テストには129人が挑戦。合格した30人が、京都アストドリームスと兵庫スイングスマイリーズに振り分けられた。10月までに計40試合を戦う。しのぎを削る関係の2球団だが、選手は大阪府内の同じ寮で暮らしている。
「食事は一緒。ただ、相手チームとあまり野球の話はしない。そこはプロなのでしっかり意識したい」。埼玉県内の市立中学の臨時教員を辞めて兵庫に入った主将の川保麻弥(26)はいう。
実は2球団の根っこは同じといってもいい。リーグは、「ブルーベリーアイ」が主力商品の健康食品会社、わかさ生活(本社・京都市)が全面的に支援している。昨年8月に発足した日本女子プロ野球機構(片桐諭代表)の資本金3億円を出資。発足時に「1球団あたり1億3千万〜1億5千万円」と説明していた経費も負担する。その中には、独立リーグと比べて悪くない選手の年俸200万円も含まれる。
わかさ生活は、これまでも少年野球や高校女子硬式野球の活動を支援してきた。「女子野球の地位を向上させたい」。同社の意向を代弁するのは片桐代表。この取り組みに、どれだけのスポンサーが共鳴してくれるか。将来は全国に球団を増やしたいという。
女子プロ野球は戦後すぐの1950年に一度、誕生している。一時は全国に25チームほどあったが、2年で幕を閉じた。当初は人気を呼んだというが、組織もチームの経営基盤も弱かった。米国でも98年に女子プロリーグが44年ぶりに再興したが、不人気で1カ月で休止した。
今、女子プロがビジネスとして成立しているのは、人気選手を企業が支援するゴルフなど個人競技に限られる。
問題なのは競技人口だ。日本女子野球協会によると、硬式で最近、公式戦に参加しているのは一般クラブが18、大学3、高校6チーム。競技人口は約600人とみられる。
スポーツビジネスに詳しい立命大の種子田穣教授は「プロスポーツの根幹は『見るスポーツ』だ。競技人口が増えれば、その競技を目にする機会が増える。一般的に女性はスポーツからの距離が遠い生活を送る。接点がないと親しみづらい」と指摘する。
サッカーの場合、日本女子(なでしこ)リーグは日本協会の女子登録約2万5千人の頂点という位置づけ。それでもプロ選手は少ない。
スポーツビジネスのコンサルティング会社代表で、元Jリーグ理事の三ツ谷洋子さんは「すそ野が小さいとスポンサーなどの支援を受けにくい」と、予想される市場が小さいことを懸念する。
■まずは普及に重点
機構側も採算性より、認知度アップや普及を優先した戦略を描く。「誠実に見てもらって女子野球の魅力を判断してほしい。まずは3年が勝負」と片桐代表。
入場料は中学生以下と65歳以上、そして女性に限り18歳以下を無料にした(一般当日1500円)。選手と野球との出会いを紹介した漫画を作って球場で販売し、小中学校に寄贈もする。野球にのめり込んだ女子に、少しでも愛着を持ってもらいたいからだ。
柔道整復師の資格取得のため、全選手を球団負担で専門学校に通わせているのも普及の一環。引退後、指導者になったときの助けになるとの考えだ。
課題はあっても、硬式野球に心底打ち込みたかった女子の願いがかなうのは確か。片桐代表は、イベントで会った小学生の母親からブログを通してコメントをもらった。「娘は女子プロ野球を夢でなく、目標へとつなげたのではと感じています」とあった。(瀬谷洋平)
〈女子プロ野球の顔ぶれ〉 京都はプロ野球元阪急の大熊忠義監督、兵庫は元ダイエーの川越透監督が率いる。選手年齢は18〜33歳、硬式経験者は約3分の2。経歴は多彩で、京都には米女子プロリーグに参加した日本選手の1人、山元保美(33)やヤクルトの川端慎吾内野手の妹友紀(20)ら。兵庫には08年ワールドカップ(W杯)代表の厚ケ瀬美姫(19)、小西美加(27)がいる。やり投げで高校総体に出た兵庫の萩原麻子(18)ら他競技経験者も。8月に第4回W杯がベネズエラで開催予定だが、2球団の選手はリーグ戦準備を優先し、代表選考会に参加しなかった。