Seth GodinのLinchpin Postsのためのインタービュー。

Seth: 現在仕事をしているシンガポールにおける企業家をとりまく環境について簡単に教えてください。そこで成功を収めている理由とは?

Joi: シンガポールには興味深い要素がたくさんある。国家規模が小さいので政府がとてもうまく組織されていて、シンガポールを非常に効率的に、柔軟に運営できている。賢い人材には容易にビザを発行する方針で、中東、アフリカ、インド、中国、日本との間に短時間の直行フライトがある。英語を話し、インフラも非常によく整っている。

10年前、最初のインキュベーター会社を経営している時にシンガポールと提携しようとしたが、まだ少し早すぎた。現在はいくつかの点で状況が変化した。技術面の進歩により、より少ない人数とコストでより多くのことを実現できるし、消費者向けインターネット会社は社会的にも世界的にも発展を遂げた。プラットホームを見ても、Twitter、Facebook、Android、iPhone、Blackberryなどの世界的なプラットホームが良い例で、十分に世界的になってきている。日本、米国、中国は、それぞれ自国の大規模市場を主な対象とする会社を作る傾向があるようだが、私は最初から世界市場に向けた会社を作るすばらしい機会ではないかと考えている。

鍵となるのは多文化で質の高いチームを作ることで、その点シンガポールは理想的だ。政府による援助も相当なもので、またシンガポールは生活面でも仕事の面でも人気が高いので、非常に質の高い人材を集めてチームを組むことができる。現在私はPivotal Labs、IDEOなどと協力を密にして、シンガポールに素晴らしいアジャイル系の商品開発プロセスを導入するプロジェクトの立ち上げを進めている。

それ以外にも、Pivotal、IDEO、他、シンガポールで事業を営む会社を含め、地元や他国からの人材を育成するための「インキュベーター」かエコシステム的な機構、さらに、そこから生まれる会社やシンガポールに移転もしくはシンガポールで起業を考えている会社に投資するための小規模な立ち上げ支援ファンドの設立を進めている。

Seth: あなたはドバイ、日本、カリフォルニアなど、世界各地で過ごしてきたわけですが、成功を収める企業家に共通する鍵となる要素は何だと思いますか? 「Linchpin」でいう「輪止め的人材」は、リスクを承知で物事を進める人、目標のためにやる気と努力を惜しまない人、プロジェクトの出荷や実行の際にセンスを発揮する人ということですが、これは地理学的なことですか?(違うと思いますが。)

Joi: 地理学的なことではないが、コミュニティは人が学び、共有し、リスクを負うことの手助けをしてくれる。カリフォルニアでは、新興企業のコミュニティが素晴らしく、起業したり後ろ盾を得たりすることが遥かに容易だ。一方で、市場が新商品で飽和してもいる。成長の余地は非常に大きいものの、競争も激しい。

日本は、相対的に企業家が少なく市場もかなり大きいが、摩擦を生み日本での事業を難しくしている要素が他にある。とはいっても、適切な関係先と日本についての正しい情報を得ることができればかなり容易にはなるし、個人的には、企業家たちが日本に挑戦するのを手助けすることにやり甲斐を感じている。しかしカリフォルニアとコミュニティの質が大きく異なるのは確かだ。

ドバイと中東は、同じ言語を持つ巨大な人口集団を擁し、平均年齢が非常に若く、いくつかの国は豊富な資金を持っているため、驚異的な可能性を秘めている。とはいえ、インターネットを活用した本格的な企業にはいわゆるエコシステムを構成するパーツが必要だがそれらはまだ足りていないため、それがいつ、どのような形で開花するかは正確にはわからない。その一方で、宴もたけなわになってから合流したのでは遅すぎるので、僕はインターネット活用企業が本格始動した時にその場にいられればと考えている。すでにその動きが始まっているという明確な兆しもある。Yahooは先日アラビア語ポータルのMaktoobを買収し、企業家やファンドによる会合が日々増えてきている。

僕はまた、企業家というものの定義にも少し影響されると考えている。個人的な意見として、企業家というのは既存の状況と権威を鵜呑みにせず、自分自身で考えて、判断や計画に際しては躊躇せずに素早く実行するものだと思っている。そうできるだけの潜在力は誰にでもあると思うが、社会的な要素、コミュニティや環境などがこれを促進したり、停滞させたりすることがある。とはいえ、企業家はどの地域にも存在し、不利な要素の多い地域で生き残ってくる人たちは、負うリスクも大きいものの、成功を収めた時に得るものも格段に多い。ここのところ僕が手を貸したり一緒に仕事をしたりするのに非常に手ごたえを感じるのは、そういった企業家たちに他ならない。

Seth: あなたは、技術と技術が我々の世界にもたらしている変化に対して、穏やかな、「承知の上での支持」というようなスタンスをとっているように思えます。あえて技術を停滞させようとも促進させようともせず、その状況に自らを浸しているように見えます。あたかも天気に対するように技術に接するかのごときこのスタンスにより、物事をうまく運んだり今後何が起こるかを見通したりする時の方法はどのように変わりましたか?

Joi: 僕の考えでは、物事というのはあまりにも複雑すぎて、何が起こるのかを合理的に予測するのは非常に難しい。やたらと考えまくるよりも、周囲で起こっていることを察知し、洞察し、素早く反応することのほうが遥かに重要だ。大成功を収めた商品も、振り返って見ているからこそ当たり前に見える。大きな変化のほとんどは、的確に予測されてはいなかった。未来の地図が現実に負けないくらい複雑ならば、現実のほうを生きてもよいのではないか?

もちろん計画を立てるのは重要だし、結果がわかっていることについては、何が起こりうるかという仮説を用意しておくことは明らかに利点がある。だがその仮説を信じすぎたり、柔軟性の足りない計画を立てたりすると大惨事を招きかねない。僕に言わせれば、自分のセンサー全てを最大感度で稼働させるには、予測したりああでもないこうでもないと言うよりも、聞いたり奏でたりするのに時間を使う必要があると思う。そうすることで、しばしば嵐が来る前に発端となった蝶を見つけることができる。そしてなぜか直感的に「こいつがその蝶なんだ」とわかる。

Seth: 賢く、積極的で、意欲的な人たちに変化を起こさせうる環境を我々が活用するにはどうすればよいですか? 門もなくなり門番もいなくなりました。そうした場合、次に何をすべきかどう判断すべきですか?

Joi: ティモシー・リアリーがよく言っていたように、「権威を鵜呑みにせず、自分の頭で考えろ」。

そしてその結果に応じた対応をしなければならない。我々は権威を求めるように教わり、プログラミングされていると僕は思っているが、今の段階では、大きな権威がもたらしてくれうる最もありがたい恩恵など、深く自力で考えるように指導してくれることくらいだ。最も重要なことは、我々が自分自身のプログラミングを解除して、権威は必要ではなく、許可を求める必要もないのだと学ぶことだ。これは反社会的になっていいという意味ではない。むしろそれとはある意味対極になる。かつては権力と権威を手に入れるために戦ったが、いったん手に入れた後は、たとえ平凡でいようとも汚職に染まろうとも、状況を支配できる立場にそのまま居座ることを許されていたのだ。

オープンなネットワークの世界では、存在を示してプレーヤーでい続けるには、思いやりを示し、コミュニケーションをとり、価値を創造し、決断力と創造性を有し、他との違いを示さなければならない。自分のネットワークとブランドを発展させていくことで得られるある種の新しい権威もあるが、それは、主に年齢、種族、性別、信条、社会的コンテキスト、資金力に依存していた伝統的でヒエラルキー的な閉鎖ネットワークで我々が向き合う権威とは大きく性質の異なるものである。

Seth: 投資家の立場で、企業家として支援したいと思わせる人はどういう人ですか?

Joi: 企業家の様々な特性に対する重みづけは投資家により異なる。基本となる商品が魅力的で、理にかなっていることをまず前提として、僕の場合は一緒に時間を過ごすと楽しい企業家にしか投資や支援をしない。相性が重要だ。人間同士の相性は一元的なものではなく、ユーモアのセンス、コミュニケーション能力、熱意、決意、子供っぽさ(ネオテニー)にいたるまで、多種多様な要素がからんでくる。僕はしばしば企業家たちと長い時間を一緒に過ごすので、個人レベルでコミュニケーションを楽しめるというのは重要なことだ。

他人から支持をとりつける能力を企業家がもっているかどうかについてはやはり考えるが、ベンチャー投資の観点からすると、企業家が支持をとりつけるべき主なターゲットは、次回の分の投資家の面々だ。考えてみると、僕は共に投資をする人たちについても上記と同じ基準で判断している。僕が好印象を抱き、尊敬している人たちとのみ共に投資を行うようにしている。100パーセントではないが、人に関しては、僕の友人たちも似たような趣味をしている。

重要なのは、友人や仕事相手に喜んで紹介でき、つき合いがあることを誇れる、そんな企業家たちを支援することだ。

一般大衆の場合、彼ら企業家との接点はほとんどが商品だろう。企業家はその商品で、大衆が興味を抱くのに十分な理由を表現しなければならず、人を巻き込んで評判が口コミで広がっていくような流通計画をもっている必要がある。

Seth: いかにして質の高いチームを構築して運営しているのですか?

Joi: 自発的な人、僕とのコミュニケーションが容易にとれる人、そして人に関する判断力が信頼できる人を探す。そういった人を責任者にして、代表を務めてもらい、僕からは後方支援をしつつ、チームを構築してもらう。その後は、枠全体を自分が運営したり全体の状況を漏らさず理解したり把握したりしようとはせずに、問題解決や微調整、支援面に注力するようにしている。但し僕には特にこの方法が向いているということであって、どれほど効果的かは人によって違うかもしれない。

Seth: 「輪止め的人材」の鍵となる要素の一つは、彼らがプロジェクトを出荷し、アイディアを行動に移すことです。あなたの場合、成功の秘訣は疑いなくあなたが出荷しているという点です。これは学んで身につけたものですか、元々の性質ですか? 同じように活躍をするには、何を学ぶべきでしょうか?

Joi: いざ出荷、という時の本番前の緊張を乗り越えるのが鍵だと思っている。出荷は早めに、頻繁に、そして反復してフィードバックには漏らさず耳を貸す。耳をすまして聴く勇気と、商品にフィードバック分の調整を適用する能力があれば、完璧なものを出そうとして待っているよりも有利だと思う。商品もしくはプロジェクトを人とコミュニケーションをとる方法としてとらえて、商品開発を開発として考える、というスタンスが一手かもしれない。

もちろん、講演者に話術と適切な話し方が必要なように、優秀なデザイナーや開発者は必要だ。プレゼンテーション用のツールが改善され始めたように、Ruby on Railsやアジャイル開発など、これをかなり容易にする手段もある。だから、耳を貸す勇気と能力、そして適切な方法や実践術を身につける必要がある。ありがたいことに、その大半は無料で使え、喜んで教えてくれる人が大勢いて、それらのことが全部オンラインでできる点だ!

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いつも読ませていただいておりますが、
今回のアンケート記事はとてもタメになりました。
また、立ち寄らせていただきます。