Hartmut Esser, The Rationality of Everyday Behavior

Hartmut Esser, "The Rationality of Everyday Behavior: A Rational Choice Reconstruction of the Theory of Action by Alfred Schütz," Rationality and Society 5, 1993, pp. 7-31

木村正人氏のJSS報告「シュッツと合理的選択の理論――二階の選択をめぐって」にコメントするためにまずはネタ論文を読むスレ。

イントロ

  • 解釈(理解)社会学は合理的選択理論(RCT)がきらいだよ。
  • だって日常生活では合理的選択なんてしてないよ、ってシュッツ先生が言ってるよ、ってみんな言うよ。
  • でも、それはシュッツの読み方として単純すぎるよ。RCTの一種である主観的期待効用理論(SEU)はシュッツ理論と両立するよ。それをこれから示すよ。

合理的選択理論の基本仮定

  • 社会的現象の説明は、状況の論理、選択の論理、集計の論理の組み合わせだよ。つまり、どういう状況で、各人がそれぞれどう選択したら、全体としてどんな結果が出るか、を明らかにすることが説明だよ。
  • 行為理論は選択の論理だよ。RCTはその有望な一種で、経済人仮定は必然ではないよ。
  • RCTの重要な一種がSEUだよ。結果状態の価値の主観的評価と、ある行為がその結果を実現する確率についての主観的評価に基づいて、行為を選択するよ。
  • 選択過程は、状況認知(=確率評価)、行為結果の評価(=主観的期待効用の算出)、特定規則に従った行為選択、の3ステップだよ。
  • n個の結果状態についてその価値を主観的に評価してn次元効用ベクトルUをつくるよ。選択肢になる行為がm個あるとするよ。ある行為Aiが効用Ujを実現する確率をpijと書くよ。��jpij=1だよ。m個の行為についてこの確率分布をつくると、結局m×nの確率行列Pができるよ。行為Aiの主観的期待効用はSEU(i)=��j pijUjだよ。*1
  • そうやってできたm個のSEUの中で最大のものを選ぶというのが選択の規則だよ。

アルフレート・シュッツによる行為の説明

  • 【省略】

行為の投企間の選択と合理的選択

  • 行為結果を想像して比較して行為を選択するという点ではシュッツもRCTも一緒だよ。
  • シュッツとRCTが両立しないという印象は、シュッツの「問題的可能性/未決の可能性」の区別と、「目的動機/理由動機」の区別に由来するみたいだね。でもそれは間違った印象だよ。
  • 可能性の問題的/未決の区別っていうのは、結果集合の各要素に生起確率が(主観的に)割り振られているかいないかという区別であって、RCT用語で言うと「リスク下の行動/不確実性下の行動」の区別に対応するよね。*2
  • 目的動機/理由動機の区別は、前者が各行為の期待効用。後者が行為者の行為選択肢集合、結果集合、確率配分とかの形成原因だよ。シュッツもRCTも行為理論として重視するのは目的動機だけだね。
  • シュッツとRCTがこんなにぴったり合うなんてびっくりだね。でも安心するのはまだ早いよ。シュッツの行為選択理論は確かにRCTと同じかもしれないけど、そういう行為選択自体が稀な出来事だってシュッツは言ってるんだ。だから日常生活世界の行為についてもRCTとの対応があるって言えないとあんまり意味ないよね。次はそれ。

三谷メモ

  • EsserはSEUが合理性要求として「弱い」といっていて、そりゃ、確率配分とか行為結果の評価が主観的でもいいよ、という意味では弱いかもしれないけど、行為者が自分で期待効用を算出できるということは、行為者がどんな結果もすべて扱える万能の評価単位(=基数的効用)を持っているということ。これは普通の社会学者が想定する行為者像と較べてはるかに強い仮定だし、外面的行動の一貫性しか要求しないvon Neumann-Morgensternの要求よりも格段に強い。本当にシュッツがSEUと整合的だとしたら、これは大変なことだ。
  • ちなみに期待効用モデルというのは最大化モデルだが、目的手段モデルは満足化モデルだ(目的を実現すれば満足なんだから)。当然、後者の方が前者よりも要求が弱い。

生活世界と日常行動

  • 【省略】

ルーティン、レリヴァンス、合理的選択

  • n個の行為列の集合A={a(1), ..., a(n)}を考えるよ*3。いままでの経験から、この中のa(i)が一番いいことがわかっているよ。だからa(i)を選ぶことがルーティンだよ。「Aの中から選択する」という選択肢をα1と書くよ*4。「よりよい未知の行為列a(n+1)を探す」という選択肢をα2と書くよ。α1とα2の間の選択を考えるよ。α1を選ぶとルーティン的にa(i)を選ぶことになるよ。α2を選ぶとa(n+1)が見つかればそれを選ぶけど、見つからないとやっぱりa(i)に落ち着くよ。
  • α1とα2の期待効用を較べてどっちにするか決めるよ。a(n+1)が見つかる確率をpとして、探すコストをCとするよ。そうすると、α1(ルーティン)を選ぶのが合理的なのは、U(a(i))>pU(a(n+1))+(1-p)U(a(i))-Cのときだよ。これを変形するとC/p>U(a(n+1))-U(a(i))だよ。

三谷メモ

  • a(n+1)っていうのは未知の選択肢。である以上、効用値U(a(n+1))も発見確率pも探索コストCも未知なんじゃないのでしょうか。α1とα2を選択する際には、これらの未知の値を勝手に決めるわけで、そんなのが合理的選択とはとても思えない。
  • Esserはこれが最大化でなくて満足化だといっているが、どこが? a(i)選択(ルーティン)はA内での最大化だし、α1とα2も最大化じゃないか。そもそも「満足化もまた合理的だ」といえるのであれば、「ルーティンで満足だから合理的」というだけで十分なのであって、期待効用の比較とかする必要がない。

つづく。

*1:木村レジュメ2頁にある「Ujのjは効用数値」というのは間違い。jは行為結果の名前。Uj自体が効用数値。

*2:木村レジュメ5頁の「問題的可能性:主観的期待のランダム性に起因するコンティンジェンシー」、「未決の可能性:行為が成功する蓋然性(ランダム性)」というまとめは間違い(というか意味がわからない)。

*3:木村レジュメ4頁の「a(n)のnは、すでに視野に入っている行為束A={a(1), a(2),..., a(n)}の効用最大値」というのは間違い。1, ..., nは効用値ではなく単なる名前だし、この中で効用値が最大なのはa(i)。

*4:木村レジュメ4頁の「α1 選択肢集合Aから選ばれた選択肢」というのは間違い。